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第75話 相手が気に食わなかったらじっくりと痛めつける豹変キザ野郎


 頭が痛い。


 ヨシハルがメノージャやピアリと一緒にひたすら私の名前を叫びながら、目の前の壁に斬りかかっている。


 何度跳ね返されようと、何度剣を落とそうと、何度も、何度も。


 ったく……必死になっちゃって、情けないわね。


『終わったら起こしてくれ』って言ってたアンタはどこに行ったのよ。



『任せたぞ』って言ってくれたアンタは……どこに行ったのよ。



……いや、情けないのは私の方か。


 さっきのアイツの顔が、脳裏に焼きついて離れない。


 頭が痛い。


『アイツがフメルタから攻撃を食らったのは俺の責任だ』とでも言いたいかのような、辛くて、苦しそうな表情。


 私がダメージを受けたのは、アイツのせいじゃないのに。


 私が油断して、不用意にフメルタに近付いたせい。


 ただ、それだけなのに。


 アイツが自分を責める必要なんて、どこにもないのに。



 頭が、痛い。



 あのナルシスト野郎に殴られたから……だけじゃないわよね、きっと。


 ああ、見たくないものを見てしまった。


 少なくとも、私のせいでヨシハルにあんな悲しそうな顔をさせるのだけは、絶対に嫌だったのに。



 アイツにはただ、バカみたいに笑っていて欲しかったのに。



「アヒャヒャ!! ボーッとしちゃって……頭ぶん殴られたショックで腑抜けになっちゃったんスかァ!? 威勢よく出てきた割には随分と呆気ないッスねえ!」


 目の前の男は危険だ。


 逆に今、ヨシハル達が閉じ込められてるのはチャンスかもしれない。


 これであの三人に危害が及ぶことはない。



 私が、何とかしないと。



「そういやアンタの『いい考え』とやら、結局なんだったんスか? もしやさっきの『リフレクト』とかいう魔法だったり?」


「……だとしたら何?」


 私の返答を聞いたフメルタは、わざとらしく大口を開けて笑い始めた。


「アヒャッ、アヒャヒャヒャヒャ!! 冗談のつもりで言ったんスけど、まさか図星ッスか!? あんなモン、さっきのババアの二番煎じじゃないッスか!」


「あら、二回ともかわせなかった分際で、そんな偉そうなこと言って良いのかしら?」


「……ああ、またそうやって涼しい顔をムリヤリ作って挑発作戦ッスか……クソ腹立つッスねぇアンタは!! 確かにダメージは食らっちまったッスけどォ……アンタもオレの攻撃を反射できるってのが分かっちまった以上、同じ手はもう通用しないッスよ! アヒャヒャッ!!」


 フメルタは小馬鹿にするようにそう言って、再び私に両手の銃を構えた。


「さっさと殺してやろうかと思ったけどやーめた。アンタみたいなムカつく女は、じっくり(なぶ)り殺しにさせていただくッスわぁ!!」


 フメルタはそう言うと、私の周囲を高速でグルグルと回り始める。この男、まだそんな体力が……。



「アヒャッ!!『たった二本の腕』で、オレの連射攻撃をどこまで防げるッスかねぇ!? タノシイタノシイ処刑タイム、スタートォッッッ!!」



 フメルタは二丁の拳銃から火炎弾と高圧水流を乱れ撃ちしてきた。


 これは……さっき私たち四人に向けてやったのと同じね。


 でも、今度はそれが私一人に、しかも全方位から止めどなく襲いかかる。


「くっ…………『ドレイン』ッ!! 『リフレ』…………ぅぐっ!!」


 フメルタの言った通り、私の両腕だけじゃ捌き切れない。


 前方の一つの攻撃を防いでいる間に、右から、左から、後ろから、別の銃弾が命中する。


「あ…………がっ…………」



「セクリィッッ……!!」



 遠くから、ヨシハルの声が聞こえる。



 今にも泣き出してしまいそうな、弱々しい声が。



 それを聞いて、フラリと後ろに倒れそうになった身体に力を込めて精一杯に踏ん張る。


「ほらほら、休んでいる暇はないッスよぉ!!」


 フメルタはそんな事はお構いなしに、絶えず私目掛けて銃を乱射し続ける。


「まだまだ、これからよっ…………『リフレクト』!!」


 私は吸収魔法を止め、左手での反射魔法一つに集中して応戦を続ける。


「セクリナータさん!! すぐにわたくし達がここから脱出しますので、あと少し……もう少しだけ耐えてくださいまし!!」



「あわわわわわ……このままじゃヤバイわよあのセクリッ……ナータちゃ……さん!! 見てよ、ずっしりした火炎弾は辛うじて上手いことフメルタの方に返せてるけど、それより軽い高圧水流はぜーんぶ明後日の方向……上側にばっかり飛んでってる!! ダメージ受け過ぎて精度が落ちてきてるのよ……同じ魔法使いのピアリちゃんには分かるわ!」



 誰が……『同じ魔法使い』よ……あんたと一緒にするんじゃないわよ、ったく……。


 けどあの子、ポンコツにしてはやけに観察力がある気が……偶然かしら……。


 他のみんなは聞こえてないのか、いつも通り無視してるのか、全くリアクションがないけれど……。


……いけない、余計なことを考えてる場合じゃないわ。


 真っ直ぐ跳ね返した火炎弾も、高速移動を続けているフメルタには難なく避けられてしまう。


 私だけが一方的にダメージを受け続けている状態。


 しかもこの男、さっきより威力を弱めてる。


 宣言通り、大嫌いな相手を時間をかけてジワジワと弱らせていこうってワケね……ホントに悪趣味だわ。


「アヒャヒャヒャヒャ!! ずいぶん静かになっちまったッスねぇ、シルベラ王女様! さっきみたいにオレのこと煽ってくれても良いんスよ~? そんなヘロヘロの状態で出来るならッスけど!!」


 フメルタは一通り喋り終えた後、再び私を攻撃しようとした。



「やめろフメルタァァッ!!」



 その瞬間。


 ヨシハルが、血走った目でフメルタに声を張り上げた。

 

「これ以上そいつを傷付けやがったら許さねえ!!」


「アヒャッ! そんな水の中に閉じ込められてる状況で何が出来るんスか!? 言ったッスよね……『お仲間さんが死んでいくところを黙って見とけ』って!」


「うるせえぞクソゲス野郎が!! ここから出たらぜってえにテメエを殺してやる!! だから!! だから、もう……そいつに…………」


 ヨシハルの充血し切った左目から、涙が一筋流れた。



「頼むから……セクリにはもう……手を出さないでくれ…………」



 泣き崩れるヨシハルを、私は呆然と見つめていた。


 私が不甲斐ないせいで、アイツはあんなに怒って、あんなに泣いて……あんなに絶望している。



 私が……弱いせいで。



「ヨシ、ハル…………」



 自分でも驚くほど、か細い声で。



 遠くで涙を流している男の。



 大切な仲間の名前を呼んだ私の、左肩を。



「……あ…………」



 一発の銃弾が、躊躇なく撃ち抜いた。



「高圧水流はこうやって細くて鋭利なドリル状にして撃つことも出来るんッスよねぇ。さーてと、これで左手を使った『リフレクト』とかいうふざけた技も封じたところで……そろそろトドメといくッスかぁ」



「フッ…………フメルタァァァァァァァァァァ!!!」



 ノドが張り裂けそうな、悲鳴にも似たヨシハルの声を聞きながら。



 私はその場に倒れた。



 ああ。

 



 あたまが、いたい。






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