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第52話 大事じゃなかったら放り投げられる中性的王子


「なっ……なっ…………ぬわぁぁぁぁぁぁんだとぉぉぉぉぉぉ!?」


 バカ王子は俺の衝撃の告白に対して、昔のマンガのように盛大にズッコけてみせる。


「おいサカギリ ヨシハル!! 貴様、今なんと言った!?」


 名前覚えとるやんけ。


「んだよ、ちゃんと聞こえてただろ? 今から俺たちが会おうとしているアルラウネは、一周目で俺と一緒に冒険し、魔王の所まで辿り着いた仲間の一人なのよん」


「『仲間の一人なのよん』ではないだろうが!! アルラウネは魔物! 魔物というのは全て魔王の配下なのだぞ!? 敵将を討つのにその手駒と同盟を結ぶ愚か者がどこにいる!? 恥を知れ!!」


「声でかいっての。何をそんなに騒いでんのよ?」


 大音量で俺に怒号らしきものを浴びせてくるバカ王子に、妹のセクリたんはウンザリ顔。



 こいつ叫ぶと女みたいな声になるよな。見た目も男っぽくないからややこしい。



「貴様らはおかしいと思わぬのか!? この男は敵である魔物を仲間と呼んでいるのだぞ!?」


「別に何も変じゃないわよ。ヨシハルならそういう無茶苦茶なこと、普通にやりかねないし」


「同感ですね。自分のやりたいように行動するのがヨシハルですから。魔物とかそういうの、いちいち気にしてないでしょ多分」


「今さらおにーさんが何をやろうが驚かないよ! あたしもそれが面白くて一緒にいるみたいな所もあるし!」


「ぎょええええ!! もれなくイカれてる!! 貴様ら感覚マヒしてるぞ! 勇者が魔物を仲間呼ばわりなど言語道断だ!!」



「全くその通り。なんとも不愉快な話ですわね」



 この場で圧倒的マイノリティの王子に賛同する、穏やかで優しい女の声。


 ガサガサと草を掻き分け、ゆったりとこちらに向かって移動してきたのは……。


「先程からわたくしのことをメノージャメノージャと知らない名前で……無礼にも程がありますわ」



「…………ぷっ」



 おっと、つい吹き出しちまった。


 そうだったそうだった。コイツ、最初はこういう上品なキャラクターだったんだよな。


 絹のように細く、滑らかな緑色の髪を腰まで伸ばし、胸部や右手首など、体の所々にツタが何重にも巻き付いている。頭に咲いた小さな白色の花がチャームポイントだ。


 下半身は赤やオレンジなど鮮やかな色の花弁で覆われており、体色は黄緑。一目で人間ではないと分かる出で立ちだ。


 スラリとした長身で、凹凸がハッキリした体型。俺のパーティーでは唯一の巨乳である。


 もう一度言う。俺のパーティーでは唯一の巨乳である。



「…………俺のパーティーでは唯一の巨乳であヴァヴォルスッッッ!!」



 さて、セクリとクムンから頭頂部にダブル(かかと)落としを食らったところで話を戻そうか。


 絹のように細く、滑らかな緑色の髪を腰まで伸ばし、胸部や右手首など、体の所々にツタが何重にも巻き付いている。頭に咲いた小さな白色の花がチャームポイントだ。


 あれ? このプロフィールさっきも言わなかったっけ? 頭が痛くて記憶が……。


 まあとにかく、この虫も殺したことのなさそうな良家のお嬢様みてえな顔と口調の彼女こそ、俺が探し求めていた最後の仲間、メノージャちゃんなのである。


 良家のお嬢様……うん、合ってる合ってる……ひひっ…………合ってるよ。


「何なんですの貴方たちは? 特にそこの男、何をさっきからヘラヘラと笑っていますの? 気持ちの悪い……」


 メノージャは垂れ気味のオレンジ色の瞳をすうっと細め、俺をジッと睨んでくる。


「お前に二つ、頼みがある。一つはお前の花びらをちょっとお裾分けしてほしいってこと。そんでもう一つが……」


 俺はメノージャの方へ大きく足を進めながら、満面の笑みで彼女へ向き直る。


「俺の仲間になってくれ」


「はぁ……? 何を言っているのか意味不明ですが、もちろんどちらもお断りですわ。貴方みたいな下品な生物に用はありませんわ。わたくしに近寄らないで下さるかしら?」


 やっぱり、そう簡単には行かないよな。


「しゃあねえ、そんじゃあ力ずくでパーティーに引き入れるとするか……お前ら準備はいいか? この人数差とはいえ相手は強敵だ……油断すんなよ」


「あれ? 戦うのおにーさん? 流れ的に武器を使わず説得するんだと思ったのに……」


「コイツは頑固だからな。言って分からねえなら戦うしかねえ。それに弱点もわかってる。俺に任しとけ」


 こうして俺たち五人とメノージャとの戦いが静かに始まった。


「数が多ければ勝てると思いまして? 何人いようが同じ……一人ずつ吸い尽くして差し上げますわ」


 メノージャは目をカッと見開き、身体中からツタを伸ばして俺たちを威嚇する。


「気を付けろよお前ら……あのツタに絡みつかれたら終わりだ」


「で、作戦ってのは何なんですかヨシハル? またメリカを弾丸にでもするんですか?」


「いやいやいやいや!! 弾丸の使い回しはダメだって! もしやるとしても次はクムンにしてよ!!」


「心配すんな。大事な仲間のお前らを弾丸役になんかするわけねえだろ」


「誰かさっきのハーピー戦の映像とか持ってない? おにーさんにゼロ距離で見せてやりたいんだけど」


 そう、メリカやクムンを放り投げたところで、すぐさまメノージャに捕まり養分を吸われて他界だ。


 いくらヨシハルくんでも仲間が黙って死んでいく所なんて見たくない。


 俺の作戦はただ一つ。



「このバカを放り投げよう」



「ジイイイイイイイイイイイイイザス!!!」



 俺に首根っこを掴まれたバカ王子がまたしても高速回転ツッコミを繰り出す。


「貴様いい加減にしろ!! たった今『大事な仲間を弾丸役になんかするわけない』と言ったばかりではないか!!」


「いや、だからお前を弾丸にするんだけど。別に大事な仲間じゃないじゃんお前。犬死(いぬじに)担当だろ」


「犬死担当!? 第一、セクリナータが反対するだろう!! 家族が犠牲になるなんて……」


「いいんじゃない? もう私たちには打つ手がないのよ」


「まだ戦闘始まったばかりだろうが!! 一回でも手を打った奴が言えよそのセリフ! あっ……やめろ両手両足を掴むなやめろおっ!!」


 バカ王子は全身をバタバタさせながら抵抗するが、温室育ちの非力さでは俺たち四人の力に敵うはずもなく。


 豚の丸焼きのような宙ぶらりんの体勢をした王子を、俺たちはメノージャの元へえっほえっほと運んでいく。


「よおアルラウネさん。ちょっとお前に吸われたいって奴がいるから、手始めにコイツからミイラにしてやってくれや」


「やめろおおおおお!! ミイラなど醜い姿になってたまるか!! 放せえええええ!!」


 キンキンと甲高い声で叫んでいる王子を、何の容赦もなくぶん投げる。


「ふふふ、必死に抵抗して可愛らしいですわ……さあ、こちらにいらっしゃい……」


 メノージャは顔を紅潮させながら両手を大きく広げて王子を迎え入れる。


 俺たちに放られた王子は綺麗な放物線を描き、メノージャの体にしっかりと抱き留められる。



「捕まえましたわ。うふふふ……やはり女性の体は美しいですわね。さあ、わたくしの虜になって下さいな」



 そのまま天使のようにニッコリと微笑み、先程の花粉……チャームフレグランスを放つ。


 ああ、やっぱりだ。


 メノージャちゃんは致命的な勘違いをしてらっしゃる。


 俺は必死に笑いをこらえながら、バカの体を幸せそうにまさぐっているメノージャに近寄り、ネタバラシをしてやる。



「おいメノージャ……………そいつ、男だ」



 メノージャの体がピシッと固まる。


「そいつはヴァカ=シルベラ王子。髪が長くて体つきも華奢で顔立ちも中性的。しかも怒鳴り声もたっかいから分かりにくいけど……」


 笑顔のままで冷や汗をダラダラと流しているメノージャにトドメの一言。



「女の子のことが大大大好きなお前が最も忌み嫌っている、れっきとした男性だよ」



「イギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



 メノージャの絶叫と共に、緑色の体に凄まじいスピードで蕁麻疹が広がっていく。


 ターゲットを優しく抱き締めていた両手はガクガクと震え出し、そのままバカ王子を力強く突き飛ばした。


 コイツが清楚なお嬢様キャラ?


 とんでもない。


 同姓に対して異常なまでの愛情を持っており、嫌がる女性を無理矢理に捕まえて体液を一滴残らず吸い尽くし、自身の養分とすることを至上の悦びとしている、性癖のねじ曲がりまくったド変態。


 女以外の全てに強烈なまでの敵意を抱いており、特に女と対極にある存在……男に少しでも触れてしまうと、こうして全身にアレルギー反応を起こして発狂する。



 百合ラウネ……メノージャ=ロエリー、敗れたり。



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