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第44話 おかしな部分があったらすぐさま気付く名探偵娘


「ヒューサ……さん…………今なんて…………」


 目の前の女性の言葉が。


 今まで絶対的な信頼を置いていたヒューサさんの言葉が、どうしても信じられなかった。


「面倒くさいですね……何回も言わせないでくださいよヨシハルくん。そこのクムンちゃんが実の父親のように懐き、敬愛し、探し続けたジレゴさんは、もうこの世には居ないんですよ」


 クムンが自身の両手を力強く握り締めると、真っ赤な液体が流れてくる。


 その様子を鼻で笑った後で、ヒューサさんは現実を突きつけるように、クムンの耳元で囁いた。



「ワタシが、消し去ってやったんですから」



「このっ…………クソアマがあああああああぁぁぁぁ!!!」



 クムンが血だらけの手で何度も弓矢を射るが、ヒューサさんは無駄だと言わんばかりに目を(つむ)りながらそれらを回避してしまう。


「ほらほら、キミたちも突っ立ってていいんですか? ワタシと一対一で戦ったらこの子が死んじゃいますよ?」


「ヒューサさん……どうしてなんですか……!!」


「いいですねその顔。信頼していた相手が敵だと分かり、動揺が隠し切れない。予想もつかない事態に頭が働かず呆然とするしかない。ワタシは人間のそういう顔が大好きなんですよ、ヨシハルくん」


 ヒューサさんは見ず知らずの俺を匿ってくれた。


 ヒューサさんはアタラポルトやゴリラ・ゴリラ・ゴリラに襲われていた俺たちを助けてくれた。



 そのヒューサさんが、敵だったってのかよ……?



 信じられない。


 だが、彼女はたった今クムンを殺そうとした。


 俺たちの目の前で。


 だが何なんだ、この違和感は?


 目の前の女性は、本当にヒューサさんなのか……?



「ちがう」



 俺の隣にいたメリカが、低い声で呟く。



「お前は……母さんなんかじゃないっ!!」



 メリカは大きく息を吸ったあと、ノドがはち切れそうな声で叫んだ。


「何を言ってるんですかメリカちゃん? ワタシは確かにあなたの母親で……」


「違うっ!! お前は母さんに成り済ました別人だ!!」


「何を根拠に? 母親の顔を忘れたというのですか?」


「だ、だって…………だってお前はさっきから……」


 メリカが暫しの間を置いた後、バッと顔を上げてヒューサさんを指差した。



「ぜんぜん下ネタ言ってないもん!!」



 ホンマや!!



 さっきからずっと頭にあった違和感はこれだったのか!

 

 あのヒューサさんが『パイオツ』や『性癖』というワードを使わずにここまで長いこと喋れるはずがない!


 大きいのも好きだけど、断トツで小さめの発展(はってん)途上胸(とじょうきょう)が大好物なヒューサさんが、初対面であるクムンの見事な貧乳体型を『小柄で華奢な』の一言で片付けるワケがないんだ!



 小さき胸部に発情せずして何がヒューサ=テレットか!!



「おにーさん、アイツは母さんじゃない!! 母さんに化けた偽物だよ!!」


 さすが娘だ、よく見抜いたぜ!


「よっしゃ、そうと決まれば何の遠慮もいらねえ! 全力で叩きのめしてやらぁ!! ほれ、お前も早く来いよセクリ!」


「えっ? あ、あの……私は……」


「あんだよセクリ、なにビビってんだ? あれはお前の恩師じゃねえ! 倒すべき敵だ! 遠慮なくぶっ潰してやろうぜ!」


 あまり乗り気じゃなさそうなセクリの腕をグイグイと引っ張っていると、後方から殺気が飛んでくる。


「何をごちゃごちゃ言ってるんですか……来ないならこっちから行きますよ。覚悟しなさい」


「ぐひゃひゃひゃ!! 何が『覚悟しなさい』だ! よく見りゃテメエ、ちょっとお肌がガサガサしてんじゃねえか! 化けるならちゃんと化けろやオバハン!!」


「オバッ…………ま、まあいいです。全員でかかって来なさい。ワタシの魔法でお相手しましょう」


 そうだよな、ヒューサさんが俺たちを裏切るワケねえ。


 安心したぜ。


 ハーピー戦で体はボロボロだが、力を合わせりゃなんとかなるはずだ。


「行くぜメリカ! クムンを救出するぞおおおお!!」


「おおおおおおおお!!」


 ヒューサさん改め魔物ババアは、俺たちの接近に気付いてクムンを投げ飛ばすと、またしても強烈な炎を生成する。


「チッ……!!」


 偽物のくせに大層なモン出しやがるじゃねえか。


 こりゃ迂闊に近寄ったらヤベエな。


「あの炎に当たったらひとたまりもねぇぞ! 死ぬ気で避けろよお前ら!」


 握りこぶしサイズの火の玉が次々と全方位に撒き散らされ、俺たちの接近を阻む。


 周りの草花はみるみるうちに焼き尽くされていき、焦げ臭い煙が俺たちを包み込む。


 視界が悪く、魔物ババアの姿も、仲間たちの姿もハッキリ見えなくなっていく。


 くそっ、どうしたもんかね……。



「あの女……あの女がジレゴを…………!!」



 先程の俺たちの話が聞こえていなかったらしいクムンの荒々しい声が、煙の中から聞こえる。


「落ち着けクムン! お前を精神的に追い詰めて平静さを失わせるのがアイツの狙いだ! ジレゴさんが死んだと決まったわけじゃねえ!!」


「うるさい!! ジレゴの仇はウチが討ってやるんだ!!」


 ダメだ、話を聞いちゃいねえ。


 相手がヒューサさんの偽物とはいえ、クムンが怒り状態の今、戦局はこちらが断然不利だ。


 俺とメリカで何とかしねえと……!


「いやどうやって何とかすんだよあんなお荷物と二人でよぉ!!」


「うええええ!? いきなり煙の向こう側から罵倒が飛んできたんだけど!! ちょっとおにーさん!? 誰がお荷物なのさ!! あたしは母さんの正体を見抜いた名探偵だよ!?」


「そこまで行ったんならアイツの倒し方まで見抜けやちょびヒゲ!! 正体を見破っだけじゃ意味ねえんだよ無精ヒゲ!! 中途半端な所で推理終わらしてんじゃねえよヒゲモジャ!! 役に立たねえんだったら帰れや毛玉!!」


「いやヒゲ生えてないよ!! あれよあれよと顔面を毛まみれにしないでよイヤな気持ちになるなぁ!!」



「漫才している場合じゃないですよキミたち」



 いつの間にか煙が晴れ、魔物ババアが両手を天高く掲げ、不適な笑みを浮かべていた。


 俺たちの頭上には淀んだ黒雲が立ち込めている。


 おいおい……これ、まさか。



「ワタシの魔法が炎だけだと思いました? 食らいなさい…………サンダー」



「ぐあああああああああ!!」



 頭の割れるような轟音と共に、強烈な雷撃が体を貫く。


「おにーさんっ!! クムン!!」


 大ダメージを受けた俺たち二人にメリカが駆け寄る。


「もう終わりですか……さて、誰から仕留めてあげましょうか?」


 魔物ババアは手の平の上で炎をクルクルと回しながら、楽しそうに笑っている。


「へへっ……終わりか」


「何がおかしいんですか?」


「よく聞けよクソババア。俺ぁ今までだって何回も何十回も、何百回も死にかけてきたが、今でもこうして地に足つけて泥臭く生き延びてる」


 痺れた体にムチを打ち、なんとか立ち上がる。


「そんなゴキブリも裸足で逃げ出すしぶとさを持つこのサカギリ ヨシハル様の命の炎は…………テメエなんかじゃ吹き消せねえよ!!」


「ゴキブリはもともと裸足だよおにーさん」


 このキメ顔シーンでよくツッコミ持って入ってこれたなコイツ。


 とにかく、まだ勝負は着いてねえ。


 何か手があるはずなんだ…………何か……!!


 ワラにもすがる思いでキョロキョロと周りを見渡すと、ふとあるモノが目に入った。


 今までチラチラと視界に入っていたが完全に無視してたけど。


 そうか。



 もしかしたら使えるかもな……アレ。



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