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第30話 お留守番を頼まれたら駄々をこねるモリカ


「あっ、おかえりおにーさん!」


 久しぶりにテレット家へ帰還。


 俺の姿を確認すると、ニコニコ顔の赤髪少女が飼い犬のようにとてとてと歩み寄ってくる。



「……………………………………あっ、モリカか」



「メリカなのだが!! こんなにシンキングタイム与えたのに不正解ブチ込まれたら立ち直れないよあたし!!」


 やっぱ安心するなコイツのツッコミは。


 コイツを連れていきゃあ、あんなに門番ブラザーズやヴァカ王子でツッコミ疲れする必要もなかったのにな……。


 と、絶好調のメリカを見て少し後悔。


「ふわあ……それが勇者の装備!? すごいすごい、カッコいいねっ!」


 初めて俺の青ジャージを見たときと同じように、鎧をペタペタと触ってくる。


「だろだろ? おかげさまで、なんとか勇者になれたぜ。だが……これを見てくれ」


 前髪を上げて額のダークな模様をお披露目すると、メリカがギョッと目を見開く。


「そ、それってまさか…………」



「発動したんですね、ベタノロが」



 定位置の窓際に腰掛けていたヒューサさんが、顔色一つ変えずに言った。


「ベタノロの発動条件はキミが勇者になること……ついにこの時が来てしまいましたか」


 この先、俺は異世界マンガやアニメにありがちなことをしてしまうと即座に耐え難い苦痛に襲われる、らしい。


 だが正直、その『ありがちなこと』とやらの基準が分からない。


 ビビりすぎて今も道中、手と足を同時に出して歩きながら帰ってきたくらいだ。


「『異世界あるある』って言われてもね……おにーさんにとっては『異世界』でも、あたし達にとってはこっちが普通の『世界』なワケだし……何をしたらアウトかなんて分からないよ」


「んなもん俺だって手探り状態だよ。説明が適当過ぎて、セーフとアウトの線引きもハッキリしねえし……このままじゃ冒険どころか、迂闊に動くこともできねえぞ?」


 俺とメリカが頭を抱えていると、ヒューサさんがこてんと小首を傾げた。


「おや? ところで、セクリナータ様はご一緒ではないのですか?」


「ああ……こりゃまた複雑な事情がありましてね……バッシャル国王の妻、ヒノ様の修行をクリアしないと、一緒に冒険させてもらえないんすわ」


「ほう……修行とは?」


 俺は二人に分かるよう、城であったことを最初から全て話した。


 まずは門番ブラザーズ、ヴァカ王子、バッシャル王、ヒノ様などの個性強めな人達について、事細かに説明。


 そして…………修行の話題へ。





******






『な……なんやよう分からんけど、痛みが引いたんやったら仕切り直すで』


 ヒノ様は俺の額をチラチラと気にしながらも話を戻す。


『簡単に言うたら……セクリナータを連れていきたければ、うちの出す試練をクリアしてみろっちゅうことや!』

 

『まっ、俺も一人はイヤなんでね。どんな無理難題でも結構っすよ! 昼寝だろうとお菓子の早食いだろうと、耐え抜いてみせますよ!』


『ボケのリユースしてきよった!! さすがに二種類もツッコミの在庫抱えてへんわ!! ったく……不安でしゃあないけど、一つ目にいこか』


 確か一周目では、修行内容は腕立て伏せ1000回、腹筋2000回、背筋3000回、ウサギ跳び4000回だったはず。


 終わったあと、しばらく全身のありとあらゆる部分がパンパンに膨れ上がり、すれ違った子どもに『バルーンアートなのかね?』と小バカにされる始末。


 ウサギ跳び4000回はキツかったな。キツすぎて危うくウサギになるところだったもんな。


 もうあんな思いはゴメンだが、果たして今回も一緒なのかどうか…………。



『アンタに与える試練は…………おつかいや!!』



 ドドンと効果音がつきそうな程の勢いで放たれた拍子抜けする四文字の単語に、身体中の筋力がゼロになった俺はたまらず地面に突っ伏す。


『あ、あのですね……修行だっつってんでしょ? おつかいて……少年少女の小銭稼ぎじゃないんすから』


『そないにナメたクチ聞いてられるのも今のうちやで。もちろん、おつかい言うても簡単なモノやない。アンタには……『クスリ』を持ってきてもらう!』


 先程とは打って変わってデンジャラスな単語に、一気に顔が強ばる。


『幻滅しましたよヒノ様! まさか女王が勇者に違法ドラッグをパシらせるなんデヴォンヌッッ!!!』


 ヒノ様の言葉にドン引きしていると、豪快に頭をひっぱたかれる。


『んなわけないやろアホスケ!! クスリはクスリでも、合法なヤツやから安心しい』


『ごうほうなやつぅ? なんすかそれ』


『その名も…………「美金薬(びこんやく)」!』


『びこんやくぅ? なんすかそれ』


『三体のモンスターから得られる材料を調合して作られる、非常に珍しいクスリのことや!』


『さんたいのもんすたぁからえられるざいりょうぅ? なんすかそれ』


『さっきから適当に話聞いとんのバレバレやからな? まあええわ……スライムの体液、ハーピーの羽根、そしてアルラウネの花びら。この三つを持って町の外れにある薬師(やくし)の家に行けば、美金薬を作ってもらえるらしいんよ』


 スライム、ハーピー…………アルラウネ、か。


 一応どれも戦ったことはある。


 弱点も分かっているし、簡単にクリアできそう…………だが。


 ここで当然の疑問が生じる。


『おかしいっすねぇ。一周目では腕立てやら腹筋やらを全て四桁ずつとかいう鬼畜修行だったんですが……どうして今回は違うんでしょうかぁ?』


『なっ、なんやその目は! なんぞ不満でもあるっちゅうんか!?』


『いいえ別にぃ。ただ……その美金薬とやらの効果、教えてもらっていいすか?』


『なななな、何でもええやろ!!』


 バチクソ怪しいんだが。


『セクリちゃん知ってる? 美金薬の効果』


 急なパスにピクッと体を震わせたセクリが、腕を組んで数秒ほど考えた後で、言い辛そうに答えた。



『えっと……確か、飲むとシミや小ジワとかがなくな』



『わあああああ言わんといてセクリナータ!! それ以上はカンニンやああああああ!!』



 オブラートもへったくれもない娘の非情な解説に、ヒノ様が自分の顔を覆い隠して崩れ落ちる。


 そういやさっき俺が手鏡を見たとき、ヒノ様すぐ後ろにいたよな。


 恐らくその時、偶然にも自分の目尻が見えちまったんだろう。


 普段からあんだけ怒ってばっかりいたら、そら小ジワの一つや二つできるよな。


 そんで危機を感じて急遽、修行の内容を変更した。そんなところかな。


『要するにあんた……自分の美肌のために、修行という名目で俺をパシらせようとしたと』


『うっ………うううっ…………』


 ヒノ様はナメナメクジクジのようにヘナヘナと縮こまって泣きじゃくるばかり。


 この人を常識人だと思っていた自分が恥ずかしいわい。


『ガッカリですよ。何であんたのシワ消しのためにそんな面倒くさいことしなくちゃいけないんすか。どうしてもって言うんなら自分で行ってくださいよ。俺がわざわざ出向く必要性が感じられませんね。はい解散解散』


 




*******






「……というわけで、俺は女王のシワ消しのためにモンスター討伐に出向くことになったんだ」


「ええええええなんでなんでなんでなんで!!? どうしてそこまで追い詰めてたのに最終的に負けちゃったのおにーさん!?」


 メリカが瞳孔全開で机をバンと叩いて突っ込む。


「いや……『セクリナータと一緒に冒険できんでもええんか?』の一言で戦況がウソのように変わったんだわ」


「つくづく思うけど、この町って常識人口が少なすぎない? それで、今からその……スライムとハーピーとアルラウネを狩りに行くの?」


「そうだな。ノンビリもしてらんねえし、その三匹ならなんとかなるだろ」


「へえ……そうなんだぁ………」


 メリカが空返事とともにモジモジと体を小刻みに動かしている。


 犬歯が下唇をガッチャンコと噛みしめている。エメラルドおめめが右へ左へと遊泳している。


 完全に何か言いたそうな感じ。


 しばらく待ってやると、メリカの上目遣いが俺をぴったりマークする。


「あのさ……あたしも一緒に」



「却下させていただき(そうろう)の巻」



「えー!! ちょっと、何でさぁ!?」


「バカタレかお前は。戦いは遊びじゃないの、命のやり取りなの。ゴリラ・ゴリラ・ゴリラの時に分かったが、お前は戦場に立つべきじゃねえ。大人しくヒューサさんと待っとけ」


「や~だ~!! あたしもおにーさんと一緒に行く~!!」


 涙目で首をぶんぶん振りながら俺の袖にしがみついてくるメリカ。


 やめろやめろ、新品なんだから引っ張るな。涙をくっつけるな。


 参った……さてはコイツも俺やセクリと同じファンタジー脳か。


 さて、どうしたもんかねぇ。


「連れていってあげてくださいな、ヨシハルくん」


 ヒューサさんが立ち上がり、メリカの頭をポンポンと撫でながら俺にお願いしてくる。


「なっ……ヒューサさんまでなに言ってんすか! 危険ですって!」


「ところがどっこいしょ、今のメリカちゃんは前のポンコツメリカちゃんとはちょっと違うんですよねぇ」


 ヒューサさんは妖艶に自分の唇をなぞりながら、うふふと楽しそうに笑ってみせる。せっかくセクシーなんだから『どっこいしょ』とか言うなよ。


「きっとキミの役に立ってくれますよ。ワタシが保証します」


 俺が城に行っている間に何があったのかは分からんが、並々ならぬ自信が伝わってくる。


「うーん……まあヒューサさんがそこまで言うなら…………」


「やったあ! いっしょに頑張ろ、おにーさん!」


「へいへい、わかったわかった。あんまりはしゃぎ過ぎんなよ」


 なんかもう、一個下とは思えねえんだけど。


 完全に保護者の気分だ。パパハルくんって感じだわ。



 こうしてメリカにグイグイと手を引かれつつ町を出たパパハルくんは、まずはスライムの出現地帯である草原スポットへと向かった。



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― 新着の感想 ―
ほんとに安定して爆発するメリカさんの冴え渡るツッコミ、好き! 主人公も、どこまでも果てしないボケを発してるように見えて華麗に着地できる長々トーク。 まとも人口が少ないことを嘆いていて、不憫含めてメリカ…
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