第21話 不審人物を見かけたらピョンニャンする門番タッグ
日時と場面は変わりまして翌朝、お城の正門前。
「ひゃあ……何度見ても圧巻だねこりゃ……」
傷やシミ一つない真っ白けな体が鮮やかな赤屋根を被り、えっっらそうにドンと胸を張っている。
この町のどこにいても常に視界のどこかしらには入るほどに圧倒的な存在感を放っていたが、真下から見上げると腰を抜かしちまいそうな迫力だ。
セクリが話をしてくれているらしいけど、俺はもうこのままズカズカと入っちゃっていいのかしら?
なーんか門の両サイドに怖そうな見張りがいるんだけど。
破裂寸前の筋肉をこさえた二人組が長槍を持って門をガッチリ警備している。
双子ちゃんだろうか? 鬼のようなお顔が二連続で並んでおり怖さも倍増。
尻尾巻いて帰りてえ…………。
いや、何をビビってるんだヨシハル。
俺はセクリに仲間と認められた男。
あの程度の門番に怯んでいるようじゃ先が思いやられる。
「たのもーーー!!!」
二人の門番のちょうど真ん中に立ち、大声で牽制する。
金色の分厚い鎧に包まれたマッチョメンが同時に睨みを効かせてくる。
傷だらけの顔面が地上二メートル強の高さから、不審な青ジャージ男の品定めを始める。
そして二人の門番はその豪腕で身長の倍近くある槍を力強くぶん回し、先端を俺に向けた。
「ひっ…………殺さんといて…………!!」
この町に来て何度目になるか分からない命の危機と命乞い。
こんな泣く子も号泣しそうなデスコンビにゃ勝てる気がしねえ。大人しく退散した方がいいのかな……。
つーかさっきから何も喋らないじゃん。ひたすらに睨まれてて怖いんだけど。
そんなことを思っていると、ご両人は警戒オーラを身体中から滲ませ俺に武器を向けたまま、ついにその口を開いたのである。
「おまえ、何者だピョン!?」
「不審人物をこの城に入れるわけにはいかないニャン!!」
耳を疑った。
いま二分の二が語尾おかしかった気がするけど。
放たれた声が幼女のそれだったんだけど。
いやいや、さすがに聞き間違いよね。
こんな劇画タッチの任侠フェイスが『ピョン』とか『ニャン』なんて萌え萌えきゅんきゅんな言葉遣いをするわけがない。
おそらく、ずっと一緒だったメリカを家に置いてきた不安で幻聴が起こっちまったんだな。
単独行動は久しぶりで緊張するが、気をしっかり持たなければ。
「突っ立ってないで名を名乗るピョン!!」
「不審人物をこの城に入れるわけにはいかないニャン!!」
あ、これ完全にやってるわ。
ウソでしょ? 見た目と声のギャップどうされたんですか?
世界一子どもが泣き出しそうな容姿から世界一子どもが喜びそうなボイスが飛び出してきた。
筋肉が限界までムッキムキになると声帯が幼女退行するようにカスタマイズされてんのか?
いやはや突っ込みどころだらけだが、とりあえず指示に従っておこう。
「お、俺はヨシハル。セクリナータ=シルベラの仲間で、今日はバッシャル王に勇者に任命してもらうために来たんですが……」
「なにぃ!? そんな話、聞いてないピョン!!」
「不審人物をこの城に入れるわけにはいかないニャン!!」
さっきから左側の猫さんがバグってるぞ。
憑りつかれたみたいに同じことしか言ってこないんだが。
んでどうして門番に俺が来ること伝わってないの? セクリちゃん何してんの?
「あたちは門番のテヌーバ=チルチルだピョン!! こっちは双子の兄のマヌーバ=チルチルだピョン!!」
「不審人物をこの城に入れるわけにはいかないニャン!!」
今お前らの名前はどうでもいいんだよ!!
なんで俺の訪問について話が通ってないのか!! なんでお兄ちゃんはイカれたアンドロイドみてえにワンパターンな発言しかしてこねえのか!! そこが問題なんだよ!!
そんな死肉食んでそうな顔面ぶら下げて『あたち』じゃねえよキメエな!!
だいたい、何なんだよチルチルって!! 名字と顔のイメージ違いすぎるだろ! あっち行けよ!!
「あの、とりあえず中に入れてもらっていいすか? セクリに会わしてくれれば、俺が怪しくないってことが分かってもらえると思うんで」
「そんなこと言われても、通すことはできないピョン!!」
「なんだか頭がかゆいニャン」
いやそこは『不審人物をこの城に入れるわけにはいかないニャン!!』って言えや!!
最高のタイミングだったろ今の! 頭の痒みぐらいガマンしろよ!!
話が一向に進まねえ……お願い誰かまともな人出てきて!!
「ヌゥゥゥハッハッハッハッハ!! ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥハッハッハッハッハ!!」
祈りが通じなかった。
二周目では初めましてだが、耳にタコができるくらいに何百回も聞いてきた特徴的な高笑いが、城の中から徐々に徐々に近付いてくる。
聞いているだけで鳥肌が一斉に起立して国歌斉唱でも始めてしまいそうだ。
腰まで伸びた、女みてえにツヤッツヤのベージュヘアーと、同じく性別に不釣り合いすぎるロングまつ毛を朝の爽やかな風に靡かせ、そいつはやって来た。
白いタキシードには赤、ピンク、紫など様々な色のバラがペタペタペタペタ貼り付けられており、格好からして既に頭が悪そう。
その長身の男は大股でこちらに近付いてきたかと思うと急にピタリと立ち止まり、妹によく似た美しい青目玉で俺をロックオンした。
「ヌゥゥハッハッハッハッハ!! ボク様の最愛の妹の名を呼ぶ声が聞こえたから来てみれば…………馬の骨が直立しているではないか!! 滑稽! まことに滑稽である!!」
とうとう現れやがったな…………バカ兄貴!!




