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第18話 現場がカオスになったらすぐさま軌道修正する教え子さん


「セクリ…………」


「その呼び方、やめろって言ったでしょ」


「ごめんセクリ」


「あんた私にケンカ売らないと死ぬの?」


 分からないことだらけだ。


 何でヒューサさんがここにいるのかも、ヒューサさんとセクリがなぜ一緒に行動しているのかも。


 そして、なぜセクリの俺への警戒が解かれているのかも。


 自分で言うのも何だが、俺だいぶ失礼なことしたと思うんだけど。


「ワタシ……キミの疑問に思っていること、全部分かりますよ?」


 ヒューサさんがからかうような微笑と共に俺の顔を見つめてくる。


「イジワルっすね。だったら早く教えてくださいよ」


 俺の発言に含み笑いをしたあと、ヒューサさんは自分を指差しこう言った。


「まず言っておくべきことは、ワタシは若者たちに魔法について教える…………まぁ、言うなれば教師のようなことをしているんです」


「教師!? そんな話はぜんぜん…………」


「あくまで教師もどきですよ。メリカちゃんやキミと同じくらいの年代の、ある程度の魔力を持つ子どもたち十数人を集めて、個人的に魔法の使い方をレクチャーしてるんです」


「母さんは昔、チョー有名な魔導師だったんだよ!! 今だってすっごく強いんだから!」


 この人がそんなことを……。


 いや、今の戦いを見ててもタダ者じゃないのは分かったけども。


「…………純粋無垢な子どもたちに、変なことまで教えてないっすよね?」


「何を言いますか。教えてますよ」


「教えてんのかよ!! ヘンタイの種撒いてんじゃねえよ!!」


 十数年後、生徒達が大人になり、ヒューサさんに憧れて教師にでもなろうもんなら、またヘンタイ知識が拡散される。


 それがどんどんと繰り返されて……。


 ダメだダメだ、そんなエロティックマルチ商法なんか絶対に引き起こさせちゃいけない。


 エロマルはきっと魔王以上に世界を崩壊させる脅威になるぞ。


「きっとヒューサさんも生徒たちも全員ブタ箱行きになる時代が必ず来ますよ」


「そうなると元祖のワタシが主犯として一番大きな罪を被り、そこから世代ごとにどんどん罰が小さくなっていくんでしょうね」


 懲役マトリョーシカやめろ。


「んで? ヒューサさんのプロフィールと今の状況に、何の関係があるんですか?」


 ヒューサさんは俺の質問に再び気分良さげに笑ったあと、セクリの両肩を優しく掴み、見せびらかすように自分の前に持ってきた。



「セクリナータ様はね、ワタシの元教え子なんですよ」



「………………ぱぇ?」



 その場で俺だけが知らない一つの事実に愕然とする。


 いや、本当に俺だけか? 


 メリカも知らなかったんだよな?


 だから俺に何も……。



「…………えっ? おにーさん知らなかったの?」



 俺はメリカのプニプニほっぺを親の敵のように引っ張り上げた。


「いひゃいひゃいひゃいひゃいひゃいいひゃいひゃいひゃいひゃいひゃい!!」


「メエエエエエエリカちゅわああああああん!? どうしてそんな大事なこと黙ってたのかなぁぁぁ!? ぼく、ヒューサさんとセクリにそんな深い関係があるなんて知らなかったんだけどなぁぁぁぁ!!?」


「いひゃいいひゃいいひゃい!! いひゃいひゃー!!」


「『いひゃいひゃー!!』じゃねえだろチビゴラァ!! 何で俺になんにも言ってくれないわけ!? いくらでも話す機会あっただろうが!!」


 メリカが後ろに退いたことで、両手から柔らかな感触が消える。


「いったいなもう!! セクリナータ様の情報ならおにーさん何でも知ってると思って言わなかったんじゃん!! 同じパーティーだったんでしょ!?」


「知らねえからあんなに回りくどい作戦ばっかり実行してたんだろうが!! そこで何となく察せよ幼女野郎!!」


「幼女野郎!? たった一歳差なのに酷いアダ名だこと!! だ……だからって、そんなに強くつねることないじゃんか! おにーさんのアホ!! 哺乳類!!」


「テメエだって哺乳類じゃねえか!! だいたい、最初からヒューサさんに話通しときゃこんなに手間かける必要はなかっ……………」



 そこまで言いかけてようやく気付いた。



「…………あれ? 確かヒューサさん……セクリの話してる時、いましたよね? 『かわいいものが好き』って教えてくれたの、ヒューサさんでしたよね?」


「はい、そうでしゅね」


 ヒューサさんは顔だけ後ろを向き、やや震えた声で答えた。


「じゃあ、なんでその時に言ってくれなかったんすか?『セクリナータ様は自分の教え子だから、一度交渉してあげましょう』…………とか」


 すると赤髪の美女は笑いを必死にこらえて頬を空気で満タンにしつつ、数秒かけて俺に向き直った。



「それは…………その方が面白いと思ったからでふゅ」



「ヒューサァァァァァァァァァァァァァ!!! さん」



 怖くなってギリギリで呼び捨てを回避したが、ヨシハルくんは怒り心頭だ。


 俺もメリカも誰もかも、全てこの人の手のひらの上で踊らされていたんだ。


 難易度ベリーイージーな問題の解決を、自分の楽しみのためにビヨンビヨンに先延ばししたんだ。


「俺はアンタを憎むぜ…………アンタの写真が貼ってある釘人形をワラで打ち付けてやるからな…………」


「ワラ曲がって終わりですよそれ。まあまあ、いいじゃないですか。結果的にキミのベタノロが発動されるまでの時間稼ぎになったんですから」


 都合のいい言い訳をすぐに思い付きやがる。悪女め……。


 ヨシハルくんの憎悪の視線を察したヒューサさんは、俺に流し目を送りつつ、ローブを少しだけ、はだけさせてみせた。


 そして、吐息混じりの色っぽい声でこんなことを言いやがったのだ。



「お詫びと言っちゃなんですが…………ワタシのカラダ、どこでも好きに触っていいですよ?」



「そんな安いお色気で誤魔化されるかよ!! 誠心誠意謝るまで許さねえからな!! 一秒以内に謝らねえとパイオツ揉むぞ!!」



「あくまでもお詫びじゃなくお仕置きという名目で触ろうとしてる!! クズサーブにゲスレシーブで応じないでよおにーさん!!」


 メリカの一言で正気に戻った俺は、ふと置いてけぼりのセクリに意識を向ける。


「あ、あんた達みんな発言がメチャクチャすぎるでしょ……まあどうだっていいわ。そろそろ私が来た理由について話させてくれる?」


 脱線したまま線路の外を突っ走る暴走機関車三台を、セクリが力業で戻してくれた。



 そして彼女は、俺たちに全てを語ることになる。




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