第17話 怒り狂ったら下ネタを連射するエロ助け舟
「あーあ…………メリカちゃんとヨシハルくんを襲った罰として、あんなことやこんなことをして陵辱してやろうと思ったのに…………ガッカリですね」
こんなに通報したい助っ人いる?
颯爽と登場したヒューサさんは依然としてお怒りの様子。
触れる者を全て焼き払ってしまいそうな炎が、しなやかな手の上でゴウゴウと燃えている。
「ヒュ、ヒューサさん…………どうしてあなたがここに………!?」
「どうしてもこうしても、かわいい娘とそのお友達が危機に瀕していたら、助けに来るのが親の務めでしょうに」
「いや、そうではなく、どうしてここが…………」
「グオオオオオオオオオオ!!!」
見るも無惨な火傷を全身に負ったゴリラ・ゴリラ・ゴリラが、天空に向けて咆哮を放つ。
「詳しい話は後にしましょう。ワタシは今、すこぶるご機嫌ナナメなんですよ」
「パイオツのことっすか? でもあのゴリラ、丸出しっすよ? あんだけ堂々と大きな胸部が露出してたらポイントはさぞかし高いんじゃ………………」
その時。
「だらぁっ!!」
ヒューサさんが野太い声と共に、俺に向けて人間の頭部サイズの火の玉を飛ばしてきた。
「危!!!」
咄嗟に横に飛び退き、なんとか事なきを得る。
「はひ…………?」
尻餅をついた俺は口をアングリと開けてヒューサさんを見上げる。状況が分からん。
ヒューサさんはキレイな両手を使い、ビビって身動きの取れない俺の頭をガッシリと掴んで、そのまま力一杯に握りしめてきた。
「いだいだいだいだいだああああああああ!!!」
この世のモノとは思えぬ痛みに絶叫する。
え、敵なのヒューサさん?
「いだだだだだだ!! ヤバイヤバイ、このままじゃ史上初の三十頭身モデルとして雑誌の表紙を飾っちゃう!! やめてくださいヒューサさん!!」
「一度は分かり合えただけに残念ですよ。キミはパイオツのことを何も理解していなかったんですね、ヨシハルくん…………」
「なっ、何のことっすか!?」
「大きいパイオツだろうが小さいパイオツだろうが…………大事なのは『恥じらい』でしょうが!!」
ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ほにゃ?
「あなたね!! 最初から裸を大っぴらに見せてくるヤツのどこに興奮しろってんですか!! 徐々に一枚一枚、顔を赤らめながら自分の服を脱いでいって、あられもない姿になった時に自分の胸やらを隠して『あ、あんまりジロジロ見るな……バカ』みたいな神の一言が放たれたとき、最強のシチュエーションが生まれるんでしょ!?」
「あ、あの、ヒューサさん落ち着いて…………」
「貧乳はもちろん、巨乳の人だって裸になるときは恥ずかしがって当然でしょうに!! 恥部を公開してるんですから!! 仮に人々に羞恥心がないならブラジャーもパンティーも、服すらも発明される必要ないでしょうがぁ!!」
「お、俺が悪かったですから…………さっきのは冗談ですから…………」
「あんな開幕全裸のケダモノの胸囲が何センチあろうが何メートルあろうが何キロあろうが毛程も欲情なんて芽生えやしませんよ!! しおらしさの欠片もない!! パイオツへの冒涜です!! 死すべき無礼です!!」
「ヒューサさぁん…………?」
「そもそもオスじゃないですかアレ!! ワタシが欲しいのは女の子のパイオツなのです!! ぐあああああ神よワタシにパイオツを!!! パイオツパイオツパイオツパイオツパイオツパイオツパイオツパイオツパイオツあそれパイオツパイオツパイオツパイパイオツパイオツパイオツパイあどしたパイオツパイオツパイオツ」
誰か助けてください…………。
完全に変なスイッチ入れちまった。絶世の美女がパイオツマシンガンになっちまった。
表情もイカれてる。ゴリラ・ゴリラ・ゴリラの方がまだ理知的に見えるくらいだ。
さっきマジで殺しに来てたもん。誕生日のシモ・ヘイヘぐらい絶好調なエイムだったもん。
「チッ……ヒューサ=テレットに横入りされちゃあ、撤退するしかないですね、魔王様?」
「うむ、仕方があるまいな…………」
魔王とアタラポルトが険しい顔でヒソヒソと話している。
あの二人が警戒するなんて、ヒューサさん何者なんだ…………?
魔界でも名が知れ渡るほどのヘンタイなのか……?
「命拾いしたなサカギリ ヨシハル! だが忘れるな! 貴様が勇者になった途端に、ワシの呪いは発動する! 貴様の怯える顔が楽しみだな! グワハハハハハハハ!!」
コイツ目ぇ潰されてバカって言われて落ち込んでたイメージしかないけど。どういう心のメカニズムで笑えてるの?
「魔王てめえ、あんまり調子乗んなよ? 雑魚のクセに偉そうにしてたら平和的に練り殺すぞ」
「平和的な可能性ゼロだろその殺害方法!! と、とにかく、ここは一時撤退だ! 行くぞアタラポルト!」
「はい、魔王様」
ヒューサさんが右手を大きく前に突き出し、アタラポルトに狙いを定める。
「ワタシは機嫌が悪いと言ったでしょう? このまま逃がすと思いますか? 背中向けた途端に灰にしますよ」
「強気なのは結構だけど、周りは見た方がいい。キミ一人ならまだしも、そっちの戦闘能力のない二人を庇いながら、ボクとゴリラ・ゴリラ・ゴリラと戦うつもり? どっちに分があるか…………賢いキミなら分かるでしょ、ヒューサ=テレット?」
ヒューサさんが歯を食い縛り、澄まし顔のアタラポルトを見据える。
すげえ、完全に強キャラ同士の会話だ。聞いてるだけで鳥肌が立つ。
マジで俺とメリカと魔王がこの場においてお荷物になっている。『魔王がお荷物』とかいうパワーワード。
確かにまともに戦える人数的にも総合的な実力的にも、向こうが有利なのは間違いない。
ヒューサさんもそれを理解したのだろう。短いため息をつき、静かに右手を降ろした。
「……分かりました。見逃してあげます」
「さすが、話が分かる。まぁ焦ることはない。愉しい戦いはこれからたくさん待っているからさ。また近いうちに会おうよ、サカギリ ヨシハル。今度は勇者になったキミに釣り合うような、もっと出来のいい魔物を送り込んでやるからさ…………ククク、クハハハハハハハ!!」
「どうでもいいけどゴリラ・ゴリラ・ゴリラお前すげえクチ臭いぞ。ドブバイキング終わったあとみたいな口臭してんだけど。芳香の神に向かってツバ吐いたのか?」
「ソウイウノ本当ニ傷付クカラヤメロ」
魔王とアタラポルト、そしてゴリラ・ゴリラ・ゴリラの足元に紫色の魔方陣が出現し、一瞬にして三体を包み込んで消滅した。ゴリラ涙目だった。
残されたのは俺とメリカとヒューサさんのみ。
敵が全員いなくなり、改めて命の糸が繋がれたことを実感する。
ヒューサさんにも殺されかけたけど、命を救ってもらったから気にしないでおこう。
「ぶはあ……………マジで助かりました! ありがとうございますヒューサさん!」
「さっすが母さん! カッコいい!」
「まったく……もっと素敵なパイオツの魔物に襲われてくださいよ二人とも。エロイメトレが水の泡じゃないですか」
この人が本気出したら発言だけで死刑狙えるんじゃないか?
「さっきの話に戻りますけど……どうしてここが分かったんすか?」
「それはですね…………『もう一人の登場人物』に出てきてもらってからにしましょう」
「もう一人の登場人物……?」
「ほら……隠れてないで、出ておいでなさいな。ここからはキミの仕事ですよ」
ヒューサさんが後ろを向き、ちょいちょいと手招きをする。
「なっ…………お前は…………!?」
木々の間から白ドレスと赤ハイヒールが覗く。
そこに現れたのは、今まで通りやや険しげな顔のまま、しかし今までとは違う警戒心のほとんどない様子で、ただただ俺の瞳を見つめる、セクリちゃんだった。




