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第16話 弱点を攻撃されたら路線を変更するグリーンゴリラ


 メリカちゃんがいきなり僕に叫んできました。


 どうしたんでしょうか。


「少しだけ予想はしてたよ!! でも、それでもあたしは悔しすぎて涙も引っ込んだよ!! やっと気概があるところを見せてくれるって信じてたのに! いくらなんでも腑抜けすぎるでしょ! 五百臓六百腑あるんじゃないの!?」


「『勝てぬ戦では迷わずに頭を下げよ』…………ある大将軍の名言だ」


「絶対ウソじゃん!! そんな逃げ腰の人が大将軍なんかに任じられるわけないもん!」


「だって大将軍コシヌケテルスが……」


「コシヌケテルス!? 確実に負け(いくさ)コレクターじゃんそんな人!」


「ちなみに他の名言は『私が敵の大軍に恐怖し卒倒した時、直ぐに体を受け止めるべし』とかがあるな」


「さっきから口調だけは身分相応なの腹立つな!! だいたいそれを名言と呼んでるおにーさんにも問題が…………うわあっ!!」



 シビレを切らした魔物が、ボケツッコミを交わす俺たちにドリルを振り下ろしてきた。


 再びメリカを抱えつつ、体を目一杯にくねらせて斜め前に転がり、ギリギリで回避する。


 さっきまで俺たちが立っていた地面は深々と抉られており、この脳筋ゴリラのパワーと容赦の無さをこれでもかと主張している。


「ったく……危なっかしいったらねえな……こういうのは普通、話が一通り終わるまで待つものだろっての…………」


 頭にはあらゆる戦闘で得た知識や情報がギッシリ詰まっているが、身体能力が初期化されているために実行するまでに微妙なラグが生じる。


 今のは何とか体が追い付いてくれたけど……やっぱり鈍りまくってるわ俺。


「まあ、俺が普通とか語るなって話だけどな…………ははは」


 山積みになった不安要素を払いのけ、あくまでも余裕あり気に振る舞う。


 相手がスピードタイプじゃないのが不幸中の幸いだが、厄介なのはあの両手。


 いくら鈍重でも、一撃食らえば致命傷。油断はできねえ。


 対抗手段は…………いま手に握られている尖った棒だけ。


 しかもメリカを守りながら戦わなきゃならないとなると…………遺書を(したた)めたくなるほどの絶望感だ。



「グオオオオオオオオオオオン!!!」



 グリゴリが両手を不規則に振り回しながら一気に距離を詰めてくる。


 メリカを抱えてアレから逃げるのは不可能。


 かと言ってこんな棒っきれで受け止められるはずもない。


 土下座に再挑戦しようにも時間がない。


 となると…………賭けてみるかね。



「食らっとけボケナスがあああっ!!」



 限られたごくわずかな時間の中で冷静に狙いを定め、グリゴリが射程圏内に入った途端に、おあつらえ向きに見開かれた白眼めがけて木の棒をぶん投げる。


 小さな放物線を描いたそれは、サクッという心地よくも痛々しい音と共に、グリゴリの右目を撃ち抜いた。



「イデエエエエエエエエエエエ!!! オレサマノ目ガアアアアアア!!!」



 えっ、喋れんの!?


 にしても、まさか一日で二回も他人の目玉を潰すことになるとはな。


「おい、遊んでないでさっさとトドメを刺せ」


 アタラポルトがややキツめの声色で命令する。


 痛がってるのにそんなに怒ってやるなよ、ぜんぜん遊んでないだろグリゴリ。


「オオオオオオオ!! オレサマノ、目ノウラミ、ハラス!! オマエラ、フタリマトメテ、殺シテヤル!!」


 なんかつい最近にもこういう喋り方の人に殺されかけた気がする。カタコトの人に殺意を抱かれやすい体質なのかしら。


 木の棒はグリゴリの片目に刺さっており、正真正銘の丸腰状態。


 グリゴリは痛さのあまりドリルを乱雑に振り回している。近付くこともできない。


 打つ手のなくなった俺は、何か使えるものはないかと両目をめまぐるしく動かす。


 ふと、メリカの作っていた焚き火セットが目に入った。


 アタラポルトに潰されて木っ端微塵になってしまっているが…………。



 気になることが一つある。



 どうしてアイツはわざわざアレを壊してから俺たちに近付いてきた?


 何か火を起こされては困る理由があったから?


 もしもアイツの『穏便に話を済ませる』という話がウソで、最初から俺をグリゴリと戦わせるつもりだったとしたら?


「気付いたみたいだね。さすが一度は魔王様の城まで辿り着いただけのことはある」


 アタラポルトが俺の考えを見通しているかのようなセリフと共に、目を細めて笑う。


 いや、ていうかこの人はっきりと『性能を確かめたくて連れてきた』って言ってたわ。


「ソイツの弱点は火だ。だからボクはソレを潰した。その程度の火力でどうこうできるとは思っちゃいないが、念には念を入れた方がいいからね」


「クソ女がっ…………おいメリカ! もう一度火を…………」


「はははっ、間に合うものか!! 安心しろ、痛みなんか感じさせずに粉々にしてやるさ! 行け! ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ!!」


 もうただのゴリラの学名じゃねえか愛無いな。せめて緑の要素どこかに入れてやれよ。


 グリゴリ改めゴリラ・ゴリラ・ゴリラはアタラポルトの声に呼応するように、両手を天高く掲げる。


 切っ先が日の光に照らされて眩しく輝く。


 咄嗟の判断でメリカを後ろにトンと押してやる。


「うわっ!! えっ……………お、おにーさん!!」

 

 尻餅をついたメリカが俺の意図に気付き、慌てて立ち上がる。


 今まで酷い扱いばっかりして来たんだ。せめて逃がす時間くらいは作ってやろうじゃねえか。


 これで金輪際、クズ呼ばわりは禁止だからな。


 メリカを守るように立ち塞がり、両手を広げる。


 向かってくる凶器に不思議と恐怖を感じることはなく、俺はただ、安らかな気持ちでそれを見つめていた。


 その時。


 

「フレイム」



 静かな声が波紋のようにその場に広がったかと思うと、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラの足元から巨大な火柱が立ち昇る。


「アチチチチチチチチナノデスウウウウウウウ!!!」


 急な魔法攻撃になす術もないゴリラ・ゴリラ・ゴリラは、地面が裂けそうなほどの断末魔とともに、全身を覆う猛火に悶え苦しんでいる。


 なぜ急に萌え路線に。


「まったく、娘の危機と巨大なパイオツの気配がしたから来てみれば……………ただの胸板が厚いゴリラじゃないですか」


「その破廉恥さを全く包み隠す気のないセリフは…………」


 声がする方を向くと、掌の上で真っ赤な炎を渦巻かせているヘンタイ美女が、残念そうに立ち尽くしていた。


「ヒューサさん!!」



「はあ…………ワタシ、獣は性癖の対象外なんですがね」





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