第15話 バトルシーンに突入したら少しだけ男前になる下種野郎
「……ボクの…………ボクの魔物が…………あ、あの女児めえええ!!」
透明化が解けて粉々になった虫のような物体をすくい上げ、放心状態でブツブツと何かを呟き続けていたアタラポルト。
メリカに鋭い眼光が飛ばされる。女児ではねぇだろ。
いま思うと『足には注意が向きにくいから足元で魔物を浮遊させよう』っていう理屈も言うほど頭よくないよな。
メリカが気付かなくてもいつか誰かに踏まれてたと思う。
コイツこんなに残念なキャラだったっけ? 前に戦ったときはもっと知的で手強かったような気がするけど。
「もうお前ら帰れよ……分かったから。とっとと勇者になるから」
冒険が始まらなさすぎて魔王が忠告しに来るってよっぽどだもんな。
とりあえずまずはセクリの機嫌を取るために、レッカのダンスショーに最適な場所を見付けないと。
「許さない…………許さないぞお前ら…………ボクの魔物を二匹も立て続けに破壊しやがって…………!!」
「魔物と掛けまして酢の物と解きます!」
「おっ? メリカお前、そんなこともできるのか…………その心は?」
「どちらも『物』が入ってるでしょう!」
「ぬおおおっ!! こ、これは17点だぁ!!」
「人が怒ってるのに謎掛けするな!! リアクションの割に点数低いな!! クソ…………クソッ、クソッ!! そこまでボクをコケにするなら、こっちにも考えがあるぞ…………!」
あ、嫌な予感。
「今回は話し合いだけで穏便に済ませるつもりだったんだけど…………一応連れてきて良かったよ。ボクの試作品をね」
「試作品だと? どうせまたさっきのハエみてえなポンコツ魔物に決まっ」
「ギャオオオオオオオオオオオオン!!!」
なんかとんでもない鳴き声が聞こえるんだけども?
「キミがふざけた態度を取り続けた時に備えて、こんなものを用意しておいたのさ。ほうら見たまえ……なかなかに立派だろう?」
木々がガサガサと薙ぎ倒され、巨大な足音がどんどんと近付いてくる。
「なっ…………コイツは…………!!」
現れたのは、体長10メートルはありそうな、緑色の体毛を身体中に携えたゴリラのようなマッチョ魔物。
両手にはドリルらしき物体が、凄まじい金属音を轟かせて超速回転している。
その顔からは理性は感じられず、大きく開かれた口から絶え間なくヨダレを滴らせながら、白目を剥き、鼻息を汽笛のように噴かし、俺とメリカを高みから見下ろしている。
あら、これは…………もしかして戦闘パートですの?
「はっはははははは!! 驚いて言葉も出ないかサカギリ ヨシハル! コイツはまだ造られたばかりでね…………性能を確かめたくて持ってきたんだ! 機動力と知能は少し低いが、攻撃力と防御力は桁違い! 君たち程度にはどうすることもできまい!」
「お前、こんな丸腰のヤツをここまで本気で殺しに来るなんて…………プライドってもんがねえのかよ!?」
「お主が言うなよ!! お主だってそこの小娘と組んで魔力のないワシを痛めつけ」
「能無しは口を閉ざせ!!」
「すごく泣きそう」
魔王は木の影に座っていじいじと落ち込み始める。
いや、アイツのことを気にしてる場合じゃない。
アタラポルトは俺をガチで仕留めるつもりだ。
もしかしたら俺だけじゃなく、メリカにまで被害が及ぶかも…………。
「どどど、どうするのおにーさん! こんなの戦いようがないよ!!」
メリカが俺の後ろでビクビクと震えている。その目には涙が滲んでいる。
これは…………ふざけてる場合じゃねえな。
メリカをお姫様だっこして、そのまま数歩後退。
敵と充分に距離を空けたことを確認して、ソッと降ろしてやる。
「土手っ腹に風穴開けられたくなけりゃ、そこで大人しく座ってろ」
「おっ、おにーさん! まさか……アレと戦う気なの!?」
無謀だ、と言わんばかりの顔と口調でメリカが尋ねてくる。
確かに、ロクな武器もない状態でこんなバケモノとやり合うなんて死にに行くようなもんだ。
だけど、俺は曲がりなりにも元勇者。
経験値はなくなったが経験は残ってる。
こんなデカブツなんて、何百匹も相手してきたんだ。
「いいから黙って見とけ。俺が勇者だったって証拠…………お前に特等席で見せてやるよ。観覧料は嵩むぜ?」
メリカの頭をポンと優しく撫でたあとでアタラポルトとグリーンゴリラ…………グリゴリに向き直る。
そして素早く前方に倒れ、渾身の力で地面に両手両膝をつくと、ムダのない動きで華麗に頭を垂れてみせた。
「監視用魔物を二体も殺してごめんなさいするので命だけは助けてください」
「ヨシハルゥゥゥゥゥゥゥゥオラアアアアアアア!!!」
背後からメリカの呼び捨て怒号がブッスリと突き刺さった。




