第12話 プリンセスに好かれたら一気に豹変するクサレダンサー
「ほ、本当にあなたがセクリナータ様やオタクーズを虜にした踊り子さん…………いや、何かの間違いですよね……?」
「ハァ? なんかさっきからそっちのメスガキ失礼すぎるんですけどォ? あーしみたいな…………間違えた、ビッチみたいな格好してさァ!!」
「投げる前からブーメラン手に刺さってる!! バカウケゾネス武器の使い方ヘタだな!!」
前回は俺が突っ込み続けてたんだが、メリカがこうして処理してくれるとラクだなぁ。
まあコイツがいようがいまいが、ヨシハルくんはタマが痛いからロクなツッコミできないんだけど。
「そんでオマエらなんなん? 得体が知れなさすぎてナンナン共和国ってカンジだわァ。あーしに何の用なん? ヨウナン共和国なん? あはっ、なんかナンナン共和国とヨウナン共和国って名前似てるしメチャメチャ仲良さそうじゃね? 鬼のように貿易してそう。ウケる」
「おにーさん、あたしこの人と話してるとすっごいイライラするんだけど……!!」
おおっ? メリカが珍しくガチで腹を立てている。カップ焼きそばの湯切り失敗した仁王像みたいな顔になってる。
ここはタマタマ壊滅系男子の俺が何とかするしかないな。
バカウケゾネスと仁王像と局部潰れが一堂に会してるこの空間カオス過ぎるだろ。
「あーっと……今日お前のところに来たのは他でもねえ。セクリナータって知ってるよな?」
「あぁ、バッシャル王の娘っしょ? なんか無愛想でイケ好かねェわ。ビッチくせえし」
何で誰もかもビッチ扱いすんだよ。友だち欲しいのか?
バッシャル王か……懐かしい響きだな。
「んでその人がなに? あーしに関係ナッシングじゃね?」
「大アッリングだわ。なんたってソイツ、セクリはな…………お前の熱狂的ファンで、毎回ダンスを見に来てるらし」
「キャーーーー!! それほんとおお!? レッカとってもハッピーですっ!! いぇーーーい!!」
ほらな、こういう所が腐っとんですわ。
ギャル語もグータラな態度も全て投げ捨て、レッカはソファから立ち上がって喜びの舞いを披露した。
「この明るい喋り方と躍りのキレ…………間違いなくレッカさんだ………!!」
この期に及んでまだ疑ってたのかよお前。
レッカはホコリを舞い散らせながら部屋中を駆け回り、時に立ち止まっては頭をブンブンと振り回すなどして喜びにうち震えている。
ボッサボサだから連獅子に見える。
とにもかくにも身分が重要なこういう中世の世界では、偉い人に気に入られるというのは何事にも代え難い名誉なのだろう。
そんでそれが国王の娘なんていう雲の上の存在とあっちゃあ、ほぼ全裸姿で狂喜乱舞する気持ちもわかる。
「そんで折り入って頼みがあるんだが……俺は事情があってセクリと仲良くならなきゃいけねえんだ。だが、俺の好感度はうなぎ下り。もはや俺一人では修復不可能な段階まで来ちまった。そこで、セクリをお前の特別ダンスショーへと貸し切りで招待してやって、イメージの回復を図りてえんだ」
「えー!? でもでもぉ、セクリナータ様みたいな可憐で清純な方とアナタとではぁ、ぜんぜん釣り合わないとレッカちゃんは思うなぁー! きゃぴきゃぴっ!」
テメエさっき『ビッチくせえ』とか言ってただろ。
好かれてると知ったら露骨に態度変えてきやがった。汚いなコイツ、ほんと汚い。
「そもそも、レッカさんは何で急にステージで躍りをしなくなったんですか? オタクーズが悲しんでましたけど……」
「それはぁ……………オタクたちがキモすぎて踊る気が失せたからだぞっ☆」
ほうら、クズなところドンドン出てきてるよ。
「レッカも最初はたくさんの人に囲まれてさぁ、みんながみんな自分のファンなんだって思うと幸せだったよぉ? でもでもぉ……なんか昼も夜も構わず毎日来てぇ、鼻息荒げながら発情期のサルみたいに顔まっかにして、鳥肌たつくらい気色悪いこと叫んでくるのを見てたら、吐きそうになったのぉ! 躍りゲロしそうになっちゃったぁ!」
喋り方変わっただけで中身ゲスのまんまじゃねえか。
確かに言いたいこと分かるけど。アイツらの愛の言葉は基本的に背筋凍るほどキモいけど。
そこを我慢するのがアイドルというものでだな……。
「レッカ、不純なヒトきらーい!」
服着てから言えよ。
「でも、じゃあ何でステージで『わたしには踊り子でいる資格がない』なんて言ったんですか? 躍りが嫌いになったわけじゃないんですよね?」
「いやいや、応援してくれるファンのことをキモいって思うやつに踊り子の資格あるわけないでしょお?」
何でそういう部分だけしっかりしたプロ意識持ってんだよコイツ。
「なにはともあれ、セクリナータ様ひとりにお見せするんだったらぁ……レッカも喜んで踊っちゃうぞ! えへへっ!」
レッカはキャピキャピポーズでウインクしながら告げる。どうやら交渉成立のようだ。
「ほっ、ほんとか!?」
「そっちのメスガキも言ってたけど、別に踊んのがイヤになったとかじゃないからぁ! そ・の・か・わ・り、二つお願いがあるのぉ!」
立て続けに二本指を自分の頬に当ててウインク。
ウインク多いな。目にゴミ入ってんのか?
「お願いだと?」
「そっ! 一つ目はさっきも言ったけど、観客をセクリナータ様だけにすることっ! あのオタクどもに見付からないように、できるだけ人気のない場所を選んでねぇ!」
嫌悪感がすっごい。オタクーズが聞いたらショックで蒸発しそうだ。
「わかったよ。そんで二個目のお願いってのは?」
「うふふ…………もう一つはねえ……」
レッカは機嫌良さげに含み笑いを浮かべながらスキップをして俺に近付いてきた。
そして天使のような顔でニコッと微笑むと、俺に両手を差し出した。
「踊り子やめても一生遊べるくらいのギャラちょーだい?」
「生ゴミ」
「ミドリスギタケ」
「ケムシ」
「シビレタケ」
「剣先」
「キホウキタケ」
「け、け……………ちょっとおにーさん『け攻め』しないでよ!!」
「レッカの口に入れたいものしりとりするのやめて!! なんか毒キノコっぽい単語ばっかり目立ってるけど『剣先』もなかなか酷いよ!?」
とりあえず場所とギャラについては前向きに検討することとして、俺たちは一旦レッカ家を後にした。
「これで上手くいってくれるといいけどな。セクリの俺に対するイメージを払拭できれば勝ち確なんだが……」
「あたし、レッカさん嫌い…………」
疲れ果てた様子のメリカ。ああいうケバいヤツは苦手だそうで。
しりとりもコイツの『生ゴミ』から始まったもんな。よっぽど憎んでたんだろう。しりとりで『剣先』って初めて聞いたぞ。
大きく深呼吸。新鮮な空気が身体中に行き渡り、気分が穏やかになってきた。
「さてと、そんじゃあ気分を変えて一丁………………メシでも食おうぜ!!」
タマの痛みが引いてきた俺は、メリカに白い歯を見せて、久々に元気のいい声で提案する。
不機嫌そうだったメリカは、俺の一言でパァッと顔を明るくした。
「え? おにーさんのオゴリ?」
「そうそうそう、何でも好きなモン食わせちゃるぜ……っておいおい!! 俺は自慢じゃないけど無一文だっつーの!」
「いやホントに自慢じゃないじゃんそれ!」
「いっけね! 俺ってば自分の汚点を誇らしげに語っちまったぜ! 反省反省!」
「もーう、おにーさんったらぁ!」
「「あははははははははははははははは」」
「早く冒険始めろよ貴様ああああああああああああああああ!!!!」
俺たちの町に、魔王がやってきた。




