おわり
その手紙が届いてから、すぐに訃報が届いた。
お前は眠っているのではないかと思えた。火葬された後の骨を見て、その時にようやく実感が湧いた。お前は死んでしまったのだと。
薬を飲んで川へ入水自殺。僕がお前を殺してしまったのか。
お前に救われて、お前を見捨てた。きっとお前は元気で生きているのだろうと、勝手に思っていた。お前の恩を、仇で帰してしまったのか。
共依存の関係から僕だけが抜け出して、お前を置いて行ってしまったのか。
お前と距離を置いたのだって、お前を慮ったわけではない。新しい環境を手に入れて、お前が必要なくなったんだ。
中学生の頃のお前の噂を、流したのは僕だ。お前を孤立させて、僕の手元に置いておきたかった。一番愚かな罪人は、僕だ。
一週間前に一度だけ、お前から唯一着信が届いた。その時は忙しくて電話に出なかった。連絡を返そうと思って、思っただけで、結局蔑ろにしていた。あれはお前の、最後の……
この手紙は私への報いだ。
お前を殺した、私への報いだ。お前を見捨て、のうのうと生きることなどできない。
あぁ、神よ。あぁ。
手の震えが治らない、きっと治ることはないだろう。筆を取って、思い出す。お前の愛らしい間抜け面を。
大切なものは失って初めて気がつく。お前を失うとは、思っていもいなかった。自分が憎くて仕方がない。
書き終えたお前の顔には憎悪が籠もっていた。これは、僕の身勝手な願いだ。僕が僕を憎んでいる以上に、お前に、僕を憎んでいてほしい。
もう一度、手紙を見る、お前は字が下手くそだ。必死に書いたグチャグチャの文字が、僕に訴えかけてくる。
それこそ呪いのように、重く纏わり付く。
酷く苦しい、お前にこんな手紙を残されては、僕は生きていける訳がないのに。
お前はきっと天国に行っただろう、私は地獄に行くのだろうな。お前に会えないな、それだけが悲しい。
遺言を書いた。財産は母に相続する、それだけだ。
電車に揺られ、川が見えた。懐かしい川だ。
僕も見て回ったよ、お前との思い出を。お前がいるんじゃないかと思って、探し回ったよ。お前は駄菓子屋で、十円を大事そうに握りしめていた。いつも買うものは決まっているくせに、毎日悩むんだ。
当たりが出たときだけ、他のお菓子を買っていたな。百円が当たった時なんて、宝くじが当たったときのように大騒ぎしていた。
なあ、なんでだよ。なあ、どうしてだよ。なあ、そこにいるんだろ。
お前の残り香を辿りながら、歩いた。鼻水まで垂らして泣いたのは、生まれて初めてだ。
お前としょっちゅう眺めた川も、一人で見るとこうも味気ない。文字の通り、膝から崩れ落ちた。
自殺とは神が人間に与えた、究極の贖罪だ。