オズは、魔法使い
パーティは婚約発表後も続き、何とも言えない気持ちでお祝いの言葉を受け流していた。10歳の時に行ったお披露目のパーティを思い出した。
あの時と同じように、見ることもなく見ていると、ひときわ体格のよい男性がこちらに向かってきた。歩幅が大きいのか、優雅だが、速い。あの頃より見上げる角度が小さいが、彼の存在感の大きさはあのころと変わらないように感じた。
「本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。叔父上。」
「フノース嬢、そしてシャオ君、おめでとうございます。少し見ない間に、二人とも立派になりましたなあ。」
大きな手を頭に当てて、豪快に笑った。そうだった。オズ隊長はフノースの父の弟だった。
正直、この人には会いたくなかったのだ。とりあえず笑顔で応対するが、とてつもなく気まずい。改めて見ると、30歳を過ぎているだろうが体格はいいし、顔もいい。物語の騎士のようだ。
母の日記を読み進めたところ、養成学校時代の母の交友関係が断片的に分かった。日記と言っても、飽きっぽい性格だったからか、一日おきかと思えば一か月おきと、断片的に情熱的な文章がつづられていた。
母は相当…その…おモテなっていたようで、オズ隊長だけではなく、多くの男子学生と大きな声では言えない交友関係を持っていたようだ。ああ、知りたくなかった…
オズ隊長の顔を正面から見られない。目線が下半身にいってしまう。母さん、あなたはなぜあんなことを書いたんだ…。
「シャオ君、君がフノース嬢と婚約したこと、本当にうれしく思うよ。おめでとう。こんなに素晴らしい女性はなかなか出会えないからね。」
騎士の中身は叔父バカだ。
「竜騎士養成学校を卒業したらぜひ私の隊に入ってほしいな。待っているよ。」
「オズ隊長にそう言っていただけるなんて光栄です。精進します。」
隊長はにかりと笑って、最後にこう言った。
「シャオ君の母上は、領地とかそういった境界だけでなく、性別や身分、価値観をものともせず、自由にこの社会を飛び回っていた。あらゆるものを飛び越えることのできる、自由の鍵は、今は君の足にある。精進しろよ。」
ハッとしてオズ隊長の緑の目を見つめた。
オズは、魔法使いのように、俺のしぼんでいた心に新しい空気を入れた。
フノースは、シャオの心の変化を黙って見つめていた。貴族になって得られるもの、失くすもの。竜騎士になって得られること、失くすこと。
それらを真剣に天秤にかけられるほど思慮深くはないシャオを、心配そうに、そして少しうらやましそうに見ていた。
フノースは、オズの口の巧さを知っていた。オズとフレイヤの関係も、シャオの生い立ちも、自身の婚約が5年前から本決まりになっていたことも知っていた。
知りながら、権力を持つ者たちの決定に身を任せ、雌伏の時間を楽しんでいた。
読んでいただき、ありがとうございます。
すみません、次回から本当に学校編です。