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 料理に関してモラトリアムを過ごしていたら、見ず知らずの人から連絡が来た。料理を頼みたいのだが、詳細を会って話せないか。

 面倒くさいな、と思ったけど、まぁ何か話のネタになるかもしれないので、会うことにした。


 待ち合わせの時間前に指定された喫茶店に行き、コーヒーを頼んだところで相手が来た。目が丸くなった。

 子供だ。

 高そうなスーツを着て深い色のネクタイを締めているから、実は成人なのかもしれないが、見た目いいとこのお坊ちゃんである。中学生か高校生か。いや、見た目綺麗な男の子だが、実は美少女が男装しているのかもしれん。

「初めまして、遅れてすいません」

「いえ、私も今着たところですから、あ、初めまして」

 少年の声である。お辞儀も座り方も実に優雅だ。やはりいいとこのお坊ちゃんだな。

 お互い名乗り、この子もコーヒーを頼んですぐ本題に入る。テーブルの上に手を組んだが、その組み方も実にサマになっている。

「あなたは素晴らしい料理を作るアマチュアで、店を持たず、どこの店でも働いてなくて、しがらみがないと聞きました。そういう人でないと頼めない料理を作ってもらいたいんです」

「私は他人に料理を作ったことは数えるほどしかないんですけど、誰が言ってました?」

「食に貧欲な人の間には、情報は早いんですよ」

 言い方も大人びている。

 ウェイトレスがコーヒーを持ってきて、にこりと会釈をされてぽーっとなっている。この子、これが「写真撮らせてください」とか「モデルにならないか?」なんて言われたら、くるっと冷たい顔になるんだろうな。

「で、どんな料理を作るんですか?」

 少年の表情に力が入るのが会話のになり、周囲に見えない壁ができたような気がした。

「人肉料理なんですけどね」

「はぁ」突然すぎてそれしか言えない。

「もちろん本物を料理してほしいわけではありません。それは無茶です。そうではなく、食材を使って味を再現してほしいんです」

「それは厳しいですね」

「ええ、ですから本職の人には頼めないことでして」

「職業倫理がどうのという前に、どうしたらいいかの知識がないですよ」

「資料はあります。それを読んでからでかまいません」

 少年は片頬で笑って、挑発する表情になる。アグレッシブだなぁ。

 うーむ、確かにそういう事情なら俺みたいな者にしか持って行けない話だろうな。プロの料理人にとって表に出せない仕事なんて面倒くさいことこの上ないだろう。確かに俺みたいな者であれば、食材が後ろめたい物でないのなら断る理由がないか。

「まぁやるかやらないかではなく、できるかできないかの問題になりますけどね。でも、なんだって思いついたんですか?」

 断られることはないとホッとしたのか、少年が肩から力を抜き、同時に背後のオーラが緩んで消えたような気がした。

「こういう本、ご存じですか?」

 スーツの内ポケットから文庫本を出した。迷宮冒険物の題名が書かれている。

「話題になっているのは知ってますが、読んだことはありません」

「主人公は異世界で冒険を生業としていましてね、地下迷宮に入って怪物を倒し、宝物を見つけて、魔王と対決する話なんですけどね、主人公は危険な目に遭いながらも勝ち進んでいく、そういう話なんですけどね」

 そこで切ってコーヒーを飲む。少し冷めたのもあるだろうが、ごくごく飲んでいる。

「はあ」

「ふぅ。で、勝ち進むと問題はないんですけど、怪物に負けるとどうなると思います?」

「話は終わっちゃいますよね」

「ええ、主人公視点ではそうです。しかし物語には脇役や伝え聞きして、怪物に負けて死んでしまう者もいるんです。そういう人たちは仲間に街に連れ戻されて生き返ったり埋葬されたりするんですけど、全滅したりその場に置かれたままになると、怪物に食べられてしまうんですよ」

「なるほど、山で熊に襲われて、食べられてしまうようなものですか」

「ええ、そうです。それを読んでいて思ったんですけどね」

 また区切って今度は両頬で笑って

「その怪物に、人肉の味がする料理を置いて、それを食べている隙に逃げることはできるのかと思ったんですよ。それを思って、そもそもどんな味なのかなと気になりまして」

「ほー…」

 いろんなことを思いつくんだな、

「それ、空想の小説ならではのことで、現実には拙いでしょうね、実際の猛獣にやったら、その人は逃げること優先で仕方がないにしても、猛獣が人の味を覚えたら最初から人を狙うようになって」

「あぁ、そうですね。それは考えなかった」面白そうに笑って

「それはしませんよ、自分たちだけで楽しむだけです」

 楽しむだけ、か。

「わかりました。作るのはいいですが、作り方を考えるためのその資料を見えてもらえますか」

「ええ、構いません。量があるので持ってきていません。うちに来ていただけますか?」

 初対面の怪しい人、しかも子供の家に行くのも危険かもしれないが、好奇心が勝った。そいうわけで出発することにした。


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