6歩
二人は火を囲み、遅くまで語り明かした。ラエドにとってもタルジュにとっても、人と会話することは久しかったため、話は弾んだ。しかし、どうしても避けては通れぬ話題へと入り込みそうになる。【旅の目的】である。
自分は聞かれたくないくせに、つい人には聞いてしまう。
「タルジュはムサフィラになってまだ1か月なのか。」
意外そうな顔つきのラエドにタルジュは笑った。
「ラエドこそ、数日で行き倒れになるなんて。なんでそう装備もそろえず出発したんです?」
「ん?うん、いや、まあ・・?」
歯切れの悪いラエドが顔をかきながら、お前こそどうなんだと小声で尋ねた。
「ん?」
「なんでこんな森で旅をするんだ?」
そうだなあ、とタルジュは焚火をみつめて何かを思い出すようにつぶやいた。
「自分の道は、自分で決めたかったからかな・・・。」
~~~~~~~~~~~~~~~~
タルジュには双子の兄がいた。
一卵性で、顔やしぐさ、好きなもの嫌いなもの、よく聞く音楽に感銘を受けた書籍まで、ありとあらゆるところがよく似ていた。似ていないのは体だけだった。
兄は自分に比べ、極端に体が弱かった。
一日のほとんどをベッドの上で過ごさなくてはならない彼を、両親は溺愛していた。常に優先されるべきは兄だった。でも、それは仕方のないことだと、理解していた。
(わたしには自由に動き回ることができる身体があるんだから)
10歳の誕生日を迎えた頃だった。ここで更に兄と自分に違いが出来てしまった。
精霊魔法、双子であるにも関わらず兄は加護をもって生まれていなかった。両親は、兄が不憫でならないと嘆き悲しんでいた。何かにつけ、これから先、双子でありながら加護持ちのお前と持たないあの子は比べられ続けるのよ、と責められることもあった。そんなことを言われたところで、自分はどうすることもできないのに・・・。
それでも兄の事を恨むことはなかった。自分の力を素直に喜んでくれたのは兄だけだったからだ。
そして12歳のとき、ついに兄は天国へ行ってしまった。とても悲しい反面、どこかホッとした。もうこれで兄と比べられることがなくなると思ったからだ。自分を自分として両親にみてもらえると。
しかし、溺愛していた息子を失った両親はとんでもないことを思いつくのだ。死んだのはあの子ではない、お前だと・・・・。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「わたしは、兄と比べられることが多くて。」
「あの、優秀だったといった兄か?」
「うん。ラエドはそういうこと、なかったです?」
「・・・ない、こともなかったかな。」
ラエドの微妙な反応に、タルジュは目を細めた。
「しかし、その、兄は亡くなったと言っていただろう?」
「ええ、12歳の時でした。」
「そうか、比べられていたとはいえ、それは辛かっただろう。」
「そう・・・ですね。」
少し苦笑いをしたタルジュは、言葉を続けた。
「まあ、兄のことで色々としがらみが多くて。なかなか両親が難しい人たちだったから、嫌気がさして家を出てしまった感じかな。」
ふう、と小さくため息を吐いた。
「だから、自分で自分を見つめなおしたくて。そうするためにも、極力人に関わらないでいい場所を求めていたらここに。」
そうか・・・、と納得しかけたラエドだったが最後の言葉にひっかかる。
「・・・ということは、俺はそれを邪魔してしまった・・のか?」
複雑そうなラエドにタルジュは慌てて首を振った。
「ご、ごめん、そういう意味で言ったわけじゃないんだ。別にラエドに会いたくなかったとかそういう・・!!」
「いや、わかっているんだ、うん、落ち着けって。」
慌てふためくタルジュの頭を、また、ラエドがポンポンと撫でた。
読んでくださいましてありがとうございます~