5歩
せっかく野営の準備を進めていた場所ではあったが、同じ場所に落ち着く雰囲気ではなかったため、二人は適当な洞窟を探し今夜はそこで休むことにした。
二人がいるこのナファフの森は、ラエドの故郷であるアスワド国と隣のアスファル国の国境に位置していた。その面積はアスファル国の国土面積に匹敵するほど広大で、かつ、様々な魔獣が出現する危険エリアとして安易に立ち入る者はいない。両国共、このやっかいな森に関しては国境ラインという名の政治的空白地域としている。
ちなみにアスワド国の面積はアスファル国の倍である。
洞窟の中でも、タルジュはてきぱきと火をおこし野営の準備をする。
特に手伝うことも出来ず、ラエドは火の近くに腰を据えた。
「しかし、お前の魔力はすごいな。あんな大物をあの速度で凍らせてしまうとは。」
「そう、なんですかね。すみません、だれかと一緒に魔獣と対峙したことがあまりなくて。」
タルジュは眉をハの字にしつつ、小首をかしげた。
「それに、倒したのはラエドではありませんか。見事でしたよ。」
「いいや、お前があそこで奴の動きを封じてくれたからとどめを刺せた。一度ならず二度までも助けてもらうことになるとは・・・、感謝してもしきれんな。」
ラエドは深々と頭を下げ、感謝の言葉を口にした。
「あの魔法・・・お前は【氷】を使うのか?」
「いいえ、正確には【水】ですね。大気中の水分を使っているのです。」
タルジュは杖を出し、呪文を唱える。すると、杖の先に無数の滴が現れ、杖をくるくると動かせばそれらがひとつになり空中で水の塊となった。
「そうか、薬をのませてもらった時もそれで。」
「ええ、あの辺りにはちょうど良い水場もなかったですし。あなたを私ひとりで動かすのは無理そうでしたので。」
「私は大気中の水分で水を作り、更にその温度を変えることができます。」
そういうと、宙に浮いている水から湯気がたちはじめた。
「おお、冷やすだけではないのか。」
ラエドは感激のあまり、その浮いているお湯に手を伸ばす。タルジュが、あっと言ったときにはもう遅かった。
「うあっちぃ!!!!」
ふーっ、ふーっとラエドは真っ赤になった手のひらを冷ますように息を吹きかけた。
あの、これを・・・と先ほどまでお湯だったものを氷に変えタルジュがラエドに渡した。
「はは、いやしかし本当にすごいものだな。」
冷やしつつ、ラエドは手の中の氷を見つめた。
「でも、ラエドも雷でしたよね。」
相手にダメージを与えるには羨ましい力ですよ、と真剣な眼差しでタルジュは返した。
「そうか?でも雷なんて攻撃するしか使い道が・・・。」
ラエドは自分で自分の首を絞めてしまった。こんなところで、また人の力と比べてしまったのだ。おかげで色々と嫌な記憶が蘇ってくる。もちろん兄の顔と共に。
急に沈んだ表情をみせたラエドに、タルジュも下を向いた。攻撃以外の使い道・・・・?
「あ、」
「なんだ?」
「キノコ・・・。」
「キノコ?」
「そう、キノコ。」
「キノコがどうしたんだ?」
「雷でキノコに火を通せないかなって・・・。」
「火を?」
「うん、あれに。」
タルジュは洞窟のすぐわきにある茂みを指さした。そこにはラエドを苦しめたキノコが鎮座していた。
たっぷりと間を開けたのち、
「・・・・・直接雷を使うと、恐らく灰になる。」
「灰になる・・。」
「つまり食えなくなるのだ。」
「食えなくなる。」
「そうだ。」
「そっか・・・。」
二人はどちらともなく笑った。
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