4歩
(魔獣か・・・?)
ラエドはゴクリと唾を飲み込む。極力音をたてないようにゆっくりと短剣を鞘から抜き、臨戦態勢をとる。タルジュはケープの中に隠し持っていた細い棒のようなものを出した。魔法を使うための杖だ。
ラエドはそれをみて少し、ほんの少しだけ安堵する。こいつも精霊魔法をつかえるのかと。握手をしたとき剣ダコには気づいたが、剣そのものを所持しているようにはみえなかった。丸腰で旅をすることは当然できない。
なにかが引きずられるような音に加え、木々がガサガサとこすれるようにゆれるのがみえた。
(近いっ)
「大蛇だ・・・!」
ラエドより半歩前にいるタルジュが小声で叫んだ。と同時に更に大きな音をたて、大蛇が二人の前に姿を現した。重たそうな頭をしならせながら高く高く上げ、半開きの口からはかなり大きな牙が見える。頭だけでも2m、いやそれ以上はあるだろう。紫色の目は、確実に二人をとらえていた。
「いったん下がるんだ、タルジュ!!!」
ラエドが叫んだ瞬間、大蛇は大きく口をあけタルジュめがけて襲い掛かった。寸でのところでタルジュは後ろに飛びそれをかわす。その間にラエドは精霊魔法で短剣に雷の力を宿す。バチバチと雷をまとったそれを手に高く飛び上がり大蛇の頭部に振り下ろした。
しかし、その攻撃を躱すかのように大蛇の尾がラエドの身体を振り払う。尾には毒針のようなものもみえる。
(くそっ!!!!)
規則性のない大蛇の動きにラエドは焦った。今まで騎士団として魔獣と対峙したことは何度もあったが、そのほとんどは獣型であったうえに単独で相手をすることなどなかった。
(くそっ!くそっ!くそぉっ!!)
そのときだ、大蛇の攻撃を躱すことで精一杯だったラエドは瞬間的に「寒い」と感じた。ハッとなりタルジュをみると何か呪文を唱えている。
(なんだ、この魔力?これがタルジュの?)
タルジュの杖先にはアイスブルーの強い光が宿っていた。その光は瞬く間に大きくなり、大蛇へと向けられる。途端に大蛇の動きが一気に鈍くなる。そう、ミシミシと音をたてながら「凍っていった」のだ。
「ラエド、今です!」
その声にラエドの身体が即座に反応した。もう一度短剣に雷を宿し、先ほどよりも更に高く大きく、大蛇の首めがけて振り下ろした。
その剣筋は見事に大蛇の首をとらえた。鼓膜が痛くなるほどの雄叫びをあげると、完全に凍ってしまった体と共にバラバラに砕け散っていった。
「ラエド!!」
砕け散るそれを見つめていると、タルジュが心配そうに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「え、あ、ああ。大丈夫だ。」
それはよかったと、タルジュがホッとため息をついた。
そんな彼の頭を、ラエドはポンポンと撫でた。
「!!!!!!」
ラエドより頭一つ低いタルジュは身体をビクッとさせ顔を真っ赤にした。その反応にしまった、と思った。
「すまない、つい癖で・・・。」
「く、癖?」
「ああ、妹と君の背丈がちょうど同じくらいでな、その・・・。」
なぜこんなことをしてしまったのか、ラエドもよくわからなかった。
「まあ、すまん・・。」
「ご兄弟はお兄様だけではなかったんですね?」
少しばかり気まずい雰囲気に、タルジュは苦笑いを浮かべながら尋ねた。しかし、ラエドはコクコクとうなずくだけでタルジュからなんとなく目線を逸らした。ついさっきまでの修羅場はどこにいったのだろう。
大蛇の姿は、砕け散ったのち完全に消えていた。
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