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side:観測者の独り言



 とんだ貧乏くじを引かされた。


 ただループの原因と経緯を説明しただけなのに、心身共に疲弊しきったアージュは、よろよろと観測局へ至る道を歩いた。


 一応伝えるべきことは伝えたが、カトレア・ヴラージュが彼の言葉の全てを受け止めていたかは甚だ疑問だ。どうしてループを脱出できたのか、彼女はきちんと理解しているのだろうか。

 不安が胸中に広がったが、彼女の前にもう一度姿を現す気にもなれなくて、アージュは懸念から目を背けた。



 本来、カトレアは己の命を狙う存在を知らないまま、朝を迎えるはずだった。

 しかし彼女自身の逸脱行為イレギュラーと、偶然と、悪意が重なって、彼女は死のループを繰り返すこととなった。


 最後のループで、彼女が身近に潜む暗殺者を捕獲し、事件関係者を集めた挙句、籠城を宣言したときには、観測者一同が「ああこの時間軸終わった」と思った。


 だがカトレアは、他人からは予測不可能な思考回路を巡らし、多少の差異はあるものの、ループの先へと歩みを進めることになった。

 本当に、とんだチキンレースだった。カトレアは戦々恐々とする観測者たちをあざ笑うかのように、奈落に通じる崖へと全速力で突き進み、あと一歩のところで踏みとどまってみせたのだ。

 その結末を目の当たりにして、実はカトレアは全てを分かっていて、わざと観測者側の不安を煽ろうと最後のループであのような無茶な行動を見せたのでは、と持論を展開する者まで現れた。


 そんなこと、あり得るはずもないのだが、そう主張したい気持ちはアージュにも痛いほどわかった。実際、最後のループで、カトレアは大変自分に都合のいい行動ばかりをしてみせた。


 そもそも正史では、セレニア・ヴラージュは夜の内に殺害されるはずだった。ライゼル・ロッソも、その後悲惨な末路を辿るはずだった。そして屋敷に潜む暗殺者たちは居場所を捉えられることなく、夜が明けた後もその場に留まっているはずだった。


 しかしカトレアの無駄な行動によって、彼らは本来と異なる未来を得た。


 ループが起きない以上、カトレアによってもたらされた変化では、未来は大きく変わらない、ということになる。しかしイレギュラーが増えたことは確実で。

 これは少なからず、今後の歴史に影響を及ぼすことになるだろう。


 まったくとんでもない人物だった。あの一族は観測者泣かせで有名だが、カトレアは群を抜いてひどかった。ただの一般人が、時空を歪ませるなんて聞いたこともない。しかも原因がひどい。


 観測者は、ゆらぐ歴史を観測するという役割がある。観測局内は時間軸崩壊を回避できたことですっかりお祭り気分に浸っているようだが、アージュにはこれからの未来を再度観測するという、気が遠くなるような作業が待ち受けている。更にカトレアが歴史の真実の一端を知ったことによる今後への影響を考えると、とても周囲と同じように浮かれることはできなかった。


 はてさて、彼女の起こした一連のやらかしは、どのような顛末へと発展していくのか。


「……まあ、歴史が寛容であることを願いましょう」



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