お着替えとレズ
「ないわ、子供じゃないんだから1人で行け」
厳しく突っぱねて観測手を部屋から追い出す。
そうするのはとても簡単だったけど、そうはならなかった。
ならなかったので、狙撃手は観測手の手伝いをさせられている。
「狙撃手さん、私の服ってこんな感じでいいです?」
「……うん、それでいいんじゃない」
スカートの裾をもってクルリと回る観測手。
元々顔は悪くないのだ。
それなりの衣装に身を包めば、従軍していないお嬢様に見えないことはない。
「ホントです?ちゃんと可愛いですか?」
「……はいはい、可愛いかわいい」
しきりに服装を気にする観測手に対し、狙撃手は冷たくそう返す。
しかし観測手はその言葉に満足した模様。
「ならばよしです!」
その様子を見つめながら、狙撃手はどうしてこんな事になったのか自己分析していた。
自分は眠たかったはずだ。
本日は非番なのだから観測手の手伝いをする義務もない。
ないのだけれども……。
「……断ったら泣きそうだったしなあ」
「ん?何か言いました?」
「……別に」
やる気がなさそうな狙撃手の様子を眺め、観測手は不思議そうにこう言った。
「狙撃手さんは着替えないんですか?」
「……私はおまけみたいなもんだし、別にいいよ」
「おまけじゃないです!パートナーです!」
お姉さんぶる観測手に、狙撃手はため息を返す。
「もう、狙撃手さんは可愛いんですし、もっと着る物に気を使えばいいのに……」
「……背の低い私が着飾ると子供にしか見えないから……だから最低限のでいいって」
「可愛いのに……」
観測手はそう言うが、狙撃手は自分を着飾るつもりはない。
その手の行動は自分には似合っていないと理解している。
「可愛い」というのは観測手の口癖みたいなものなのだから。
「……そろそろ時間でしょ、間に合わなくて泣いても知らないよ」
「うわわわ!そうでした!」
話しを変える意味で急かすと、観測手は自分の準備に戻っていった。
狙撃手が鏡を見ると、小柄な姿が映っている。
背は小さいし、体も貧相だ。
子供っぽい。
あと何年かすれば、観測手のように豊かな身体になるのだろうか。
少し。
ほんの少しだけ心が動いたが、それ以上は考えないようにする。
今は観測手の世話に専念しよう。