非番とレズ
暖かい布団の中、ドアをノックする音で狙撃手は微睡から目を覚ました。
眠い。
頭がうまく働かない。
そこに再びノックの音が響く。
「ん……なに?今日非番なんだけど……」
目が覚めはしたが、ベットから出たくはない。
そのうち、再び睡魔が襲ってくる。
「まあ……いいや、無視しよう……」
眼を閉じて意識を手放す。
と、同時に扉を叩く音が邪魔をする。
鬱陶しい。
「あけてー」
扉の外から、そんな声も聞こえてくる。
何やら聞き覚えがある声な気がした。
狙撃手は布団の中で大きなため息をつくと、ゆっくりと起き上がり軽く身支度を始める。
その間もノックの音が響くが、無視だ。
そうして数分後、やっと狙撃手はドアを開けて「彼女」を招き入れた。
「良い朝ですね!狙撃手さん!」
「彼女」……即ち観測手はやたらとテンションが高い声で挨拶をする。
狙撃手は機嫌が悪そうな声で「うるさい」と答えた。
「……というか、今は夜だから」
「細かい事はまあいいじゃないですか!」
「……何でそんなにテンション高いの」
「いえ!私はいつも通りですよ!」
まあ、確かに観測手が突飛な行動に出る事今まで何度もあった。
今回もまた何か変なことを思いついて狙撃手の元を訪れたのかもしれない。
だが、観測手はニコニコとした顔で狙撃手を見つめるばかりだ。
それ以上何も語りかけてこない。
じっと見つめあった状態で時間だけが経過する。
仕方なく、狙撃手が話を促した。
「……それで何か用?」
「実はさっきハーピーさんから伝言がありまして!」
「……声が大きい」
頭を掻きながら迷惑そうに狙撃手が呟く。
だが観測手の耳には届いていないようだ。
テンションが高いままで話を続ける。
「な、な、な、なんと!白兎の団長さんが今日会って下さると言う事に!もう、もう、私、嬉しいやら緊張するやらで!」
「……ふーん」
狙撃手は退屈そうに返事する。
まだ眠り足りない、そんな目つきで観測手の話に耳を傾けている。
「後からハーピーさんには何か奢らないといけませんね!」
「……で?」
「で、とは?」
「……何で私の所に来たの?」
話しはそこで止まった。
観測手はそれ以上、口を開かない。
先ほどよりも長い沈黙が、場を支配する。
「……なにこの沈黙」
観測手は酷く真剣な顔で狙撃手を見つめ、口を開いた。
今までとは違う表情に、狙撃手も少し驚く。
「……観測手と狙撃手は二人で一つのユニットです」
「……うん、まあ、そうだね」
「もし狙撃手さんがいなければ、私の観測は無意味なものとなります」
「……正しい認識だね」
ぐいっと、観測手は狙撃手に顔を近づける。
狙撃手は思わず一歩下がる。
「その逆もまた真なり、です!」
「……うん」
「これは人生においても同じです。狙撃手さんが一人道に迷い立ち止まってしまった時は、私が道を照らす義務があります」
「……そう、かな?」
「そうです!」
更に観測手は一歩体を近づける。
狙撃手の目の前まで迫ってきている。
少し気圧されつつ、狙撃手は言葉を返した。
「……まあ、そう言って貰えるのは嬉しいけど」
「その逆もまた真なり、なのです!」
狙撃手は観測手の言葉を一通りかみしめる。
その上で質問を返した。
「つまり?」
「一人で行く勇気がないから付いてきて」