妄想とレズ
観測手の様子を暫く伺っていたハーピーが、一つの提案をした。
「……そんなに気になるなら、会ってみるっすか?」
「でも、でもチューとかはまだちょっと……し、親しくなってからじゃないと……」
「おーい?」
観測手の妄想は深いようだ。
声を掛けただけでは正気には戻らない。
ハーピーから視線で助けを求められた狙撃手が、観測手の頭をツンツンと突く。
そうしてやっと、観測手は妄想から現実に帰還した。
「ふあっ!?え、な、なんです?」
「いや、あの白兎の団長さんと会ってみます?プライベートで」
「へ?」
観測手はきょとんとした様子でその言葉を聞いている。
多分、まだ頭がうまく働いてないのだろう。
ハーピーは続ける。
「私らハーピーは伝令とかで割と話す機会があるんすよ、あの団長さんと。だから飲みに誘うくらいは出来るっす」
「あ、会ってみる……の、飲みに……おさけ……?」
観測手は幼児のように言葉を繰り返す。
若干、思考速度は上がってきているようだ。
その様子を、狙撃手は退屈そうに眺めている。
「まあ、断られる可能性もあるっすけど」
「え、け、けど私そんなにお酒強くないし……」
モジモジと人差し指と人差し指合わせながら観測手が悩み始める。
そんな彼女の耳元でハーピーが呟く。
「ふーん、じゃあ団長さんに介抱してもらえるかもしれないっすよ?」
「介抱……」
「ちょっと想像してみるっす」
観測手の目に、再び妄想が浮かべ始める。
ハーピーは彼女の妄想をさらに促す。
「かい……ほう……飲み過ぎて……服を……緩めて……」
「もっと」
「団長さんの部屋に……二人で……ベットに……」
「もっと」
「団長さんの唇が……私の胸を……耳が……ウサ耳が……私の頬をくすぐって……」
「はいストップ」
ハーピーは観測手の妄想が最高潮に達する直前でストップをかけた。
欲求不満の状況である。
昂った欲求は噴出口を求めて彼女の行動を促進させる。
普段は臆病な彼女に一歩踏み出すための力を与える。
「わ、わたし!やります!団長さんと会います!」
「いや、断られる可能性もあるってことは了解しといてほしいっす」
「ふっへっへ……兎さんが1匹、兎さんが2匹……」
「いやあ、キマっちゃってるっすねえ、あはははは」
二人の様子を伺っていた狙撃手は、大きくため息をついた。
その様子にハーピーが首をかしげる。
「狙撃手さんどしたっすか?」
「……ハーピー、貴女面白がってるでしょ」
「ふふふふ、この手の娯楽がないと伝令なんてやってられませんって」
「……まあ、いいけどね」
狙撃手は詰まらなそうにチキンサンドの最後の一切れを口に放り込んだ。
そろそろ午後の任務の始まりだ。