終末とレズ
バサリ、とハーピーの着地する音が聞こえる。
「はーい、お昼ごはんの時間っすよー……」
「11時方向、距離100、高度0、獣人型4体、修正左上に0.3、撃て」
「確認」
狙撃手と観測手は淀みなく任務を続ける。
そんな二人の様子に、ハーピーは力なく「ははは」と声を漏らした。
「スルーっすか……いやあ、きついっすわぁ……」
「……ハーピー、ちゃん?」
普段と違うハーピーの様子に、観測手が観測を停止し振り向く。。
狙撃手も息を吐き、銃口から顔を上げた。
一体何時間、狙撃していたのだろう。
自分でも驚くべき集中力だった。
「はいはい、ハーピーさんっすよ……えっと伝令もあるっす……」
「……貴女、怪我を?」
ハーピーの羽は、血で汚れていた。
任務の際に、負傷してしまったのだろうか。
それほど大きな怪我をしているようにも見えないけれども。
その疑問は、ハーピーの次の一言で吹き飛んだ。
「……王様が死んだっす」
「……え?」
「死ん、だ?」
王様が、死んだ?
この都市の王が?
いや、ありえない。
だって、城門はまだ健在だ。
二人が守る櫓から見える城門は、まだ破られていない。
それに、城門が破られても防衛部隊や魔術兵団が居るじゃ無いか。
王様が死ぬことなんて。
いや、病気であれば或いは。
だが、王様が病気だなんて話は今まで一度も……。
その段階で、観測手は一つの可能性に気づいた。
まさか……。
「ほら、撤退してきた獣人兵達がいた、じゃないっすか……あいつら、アンデッド達に噛まれてたみたいなんっすよね……」
「しばらくは大丈夫、だったんっすけど……なんか、突然……あいつらも、アンデッドになって……周りの兵に噛みつき始めて……」
「鼠算式に、笑えるくらいドンドン増えていって……王様も、その時……いやあ、あっけない、もんっすわ……」
「ここに来るまでに、城下町の様子が見えました、けど、あっちも、ひどい有様で……」
「は、ははは、きっと、きっと、獣人兵だけが原因じゃなくて、鼠とか蛇とか、小さな生物が、アンデッド化して入り込んで……」
「ごほっ、ごほっ……」
ハーピーの伝令を聞いた観測手は、冷たく「そうですか」と返す。
狙撃手がハーピーの傷を確認すると、太ももの部分が噛み千切られていた。
出血は、多くない。
重要な血管が傷ついているはずなのに、不思議なほど血が出ていない。
「……ハーピー、貴女もしかして」
「あははは、私もちょっと王様助けようとしてドジって噛まれてしまったっすよー……」
「……じゃあ、貴女も」
「はい、アンデッドに、なると、思うっす……」
ハーピーの身体は、冷たかった。
まるで死体のように。
「……そ、そんな、何か、何か治す方法は……そうだ、魔術兵団なら、もしかしたら治療法を探ってるかも」
「いやあ、あるかもしんないっすけど、時間ないと思うっす……もう城の中で誰が生き残ってるかもわからない状態っすし……」
狙撃手とは違い、観測手は冷たい目でハーピーを見つめている。
まるで敵かどうかを観測するかのように。
「高所から飛び降りて死のうかとも思ったんすけど……打ち所が良くて死に切れなかったら、辛いっすよね……」
「けど、狙撃手さんと観測手さんなら……上手く仕留めてくれるかなって……あ、あははは……」