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悲報とレズ

小雨が降る中、狙撃手と観測手は雨合羽を着て任務についていた。

櫓の上に流れる観測手の声を聞き、狙撃手はすばやく反応する。


「14時方向、距離350、高度0」


「確認」


「風が強いです、右側に少し銃身調整、そう、撃て」


元狙撃手である彼女の観測は酷く正確だ。

まるで自分の目を乗っ取られているかののような錯覚に陥る。

彼女の声に従い、調整を行い、引き金を絞る。

銃弾は狙い通り、標的に命中した。

だが、彼女の声はまだ止まらない。



「10時方向、距離400、高度35、2体」


「確認」


「銃身調整、右に0.3、撃て」



銃声が二度響く。

標的は地面に倒れ付した。



「着弾確認」


「……猫と鳥だったね」


「はい……」



随分前に櫓の上から猫を眺めたことがある。

あの時の、猫なのだろうか。

判らない。

判らないが……。



「……アレも前のと同じなのかな」


「動きが、おかしかったですから」



彼女の観測は恐ろしいほど正確だ。

彼女がそういうのであれば、きっとそれは正しいのだろう。

問題は、別のところにある。



「……あの小動物達は、何なのかな……ここ数日、森からフラフラと出てくる……確認してみると、身体が腐敗している」


「……骨が露出しているヤツもいた……奇病が森の中に蔓延しているとか?」



狙撃手の独白を観測手の声が遮った。



「12時方向、距離500、高度0」


「……確認……あれは……」


「あれは、うちの獣人兵団?けど、けど変です、あんなに少ないなんて……」




『開門!開門!』


『早くあけてくれ!』



櫓の下にたどり着いた兵士たちが、そう叫ぶ。

それを眺める観測手が、酷く嫌そうな顔をした。



「……観測手?」


「血の、匂いが」



城門の中に転がり込んだ兵士達は酷く混乱していた。

何とかまともに話せる兵士を探し出し、聴取が行われる。



「わ、私達獣人兵団は小隊ごとに分かれて森林地帯を進んでいました」


「何時もと同じだと、思ったんです、森林地帯を進む敵に奇襲を仕掛けて戦線をかき回す」


「陣形を崩して敵を孤立させ撃破する……何時もと同じようにそうしたんです」


「けど、けど、森が何時もと様子が違っていて……こ、声が、声が聞こえてきたんです、森から」


「違います、森の奥からじゃありません、森のそこらじゅうから、悲鳴が、うめき声が、這いずる音が」


「あれは、あいつらは帝国の鎧を着ていました、けれど、けれど、ああ、そうです、あいつらは、あいつらは、もう死んで」


「死んでたんです、だって首が半分千切れかけて……生きているはずがない、そう、私達が今まで殺した、殺してきた」


「殺したはずの帝国兵が、森の中に置き去りにされた死体が、死体が動いて」


「私達はあいつらに囲まれて、切り裂いても殴っても立ちあがってきて」


「ひ、ひひひ、何体も、何十体も、何百体も、何千体も、あいつらが、あいつらが」


「あいつらがもりのなかから!」



聴取を行っていた防衛部隊は、生き残った兵士の話に言葉を失う。

死体が動いて襲ってきた、そんな状況を誰もが正しく認識出来ずに居た。

沈黙が支配する城門に、櫓から降りてきたばかりの観測手の声が響く。


「……団長さんは?」


「やつらが、やつらが……」


半ば正気を失っている兵士の顔を、手で固定する。

そうして、じっとその眼を見つめ、観測手は更に問いかける。


「団長さんは、どうしたんですか」


「……だ、だんちょう?」


「はい、貴方達の団長さんはどうしたんですか」


「……団長は」


兵士の目に、少しだけ生気が戻った。

まるで夢から覚めたかのような顔をして、こう続ける。


「我々を逃がす為の囮に……生き延びて、この事を王に伝えろと……」


「……そう、ですか」


兵士の目が、再び濁る。

白痴の様な笑い声を上げ、こう続ける。


「そう、そうだ、私は悪くない、私は言われた事をしただけ、そうだ、わるくないんだ」


「ふ、ふふふふ、私は生き残って、皆に知らせるために、あはは」


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