午前任務とレズ
晴天の中、高い櫓の上から少女の声が聞こえる。
「2時方向、距離200、高度0」
遠眼鏡を手にした少女がそう呟くと、狙撃銃を構えた少女がそれに応えた。
「確認……」
指定された方角へと銃身を向け、引き金に指をかける。
実戦経験は無いが、十分に訓練は受けている。
成績は優秀だったのだ、200程度の距離であれば外すことはないだろう。
狙うべき対象は……。
「猫さんです」
「……」
「可愛いなあ」
狙撃手は銃身に顔を寄せたまま、チラリと観測手を見上げた。
「撃つの?」
「いやいや、撃っちゃダメですよ?」
観測手は遠眼鏡で猫を観察しながら、機嫌よさそうにそう返した。
猫は暫くその場で毛づくろいをし、トコトコと森のほうへと去っていく。
「10時方向、距離100、高度0」
観測手は再び目標位置を狙撃手に伝える。
狙撃手は指示された方角へ機械的に銃口を向ける。
「……確認」
「タンポポです、もう春ですねえ……」
「……」
「15時方向、距離40、高度5」
「……確認」
「蝶々さんです」
「……」
「こっちまで飛んで来ないかな、この櫓は高すぎて無理かな?」
この段階で、ようやく狙撃手は観測手の指示に口を挟んだ。
銃口から顔を離し、鋭い目つきを彼女に向ける。
「……あのさ」
「はい?」
「まじめにやって……」
観測手は遠眼鏡から顔を離すと、頬をプーと膨らませた。
「えー、まじめに報告してるじゃないですか」
「敵が来たときだけでいいから、観測報告は」
「敵って言われても……前線はずっと北の方なんですから滅多な事では来ませんよ?」
「それでも油断しちゃ……」
「5時方向、距離15、高度20」
「……確認」
狙撃手が銃口を向けると、そこに大きな鳥が着地しようとしていた。
いや、それは鳥では無かった。
鳥では無く、少女の形態をしていた。
にも拘らず翼を有していた。
そう、つまり彼女は……。
「ハーピーちゃんです」
観測手や狙撃手と同じ「軍」に属する亜人だった。
「まいどっす~、お昼ごはん持ってきたっすよ~」
「……ハァ」
「あの、銃口向けるのやめて欲しいっす」
「……ごめん」
狙撃手は素直に銃口を下す。
その様子を見た観測手はお姉さんぶった口調でこう諭した。
「そうですよ?いつもご飯を運んでくれるハーピーちゃんに銃口向けるのはいけない事です」
「……もういいわ」
そう、観測手がマペースなのは何時ものことなのだ。
いちいち腹を立てていたら身が持たない。
「それでハーピーちゃん今日のお昼ごはんは?」
「チキンサンドっす」
「わあい♪」
そうして、何時も通りの穏やかな昼食が始まる。