王都と忘れもの
「四年ぶりの王都。なんだかものすごく懐かしいように感じるな。帰ってきたっていう感じだな」
俺が王都にいたのはたった四ヶ月くらいしかない。それなのに王都で帰ってきたっていう感じがするというのは何とも不思議である。生まれてから十年過ごしたロークスならともかく、たった四ヶ月しか住んでいなかった王都にも愛着があるというのは意外だった。もしかしたら自分の想像以上に文明というものに飢えていたのかもしれない。
「え-っと、確か王都に着いたらあの爺と一度会わなくちゃいけないんだったよな。そういえば、王城には結界により転移魔法が使えないし、かと言って俺が顔パスで王城に入れるわけがない。一体どうやって会えばいいんだ?」
一度会うとは言っていたが、よく考えれば会える方法がない。これがロークスの領主くらいだったら転移魔法なり顔パスで行ってもあまり攻められないのだが、さすがに首席宮廷魔術師くらいになると簡単に会えないもんだ。あの爺自体はフットワークが軽いのだが、会いに行こうとすれば意外と難しい者である。
「ん?そういえば、ロークス関連でなんか忘れているような」
「ウォル、ウォル、人間の街なのに魔物がいる。あれはどうしていてもいいの?」
フローゼが俺の服の袖を引っ張っりながら質問する。
「ああ。あれは従魔とか眷属とかっていう言い方をする存在で、あの魔物は冒険者に従っているっていうことで…街にいても……って、あ!そうだ!ローマだローマ!ローマを連れてくるのを忘れてた」
俺はロークスの森に置いてきたままにしていたローマの存在をすっかり忘れてしまっていた。四年間修業ばかりしていたせいで大事なローマの存在を忘れてしまったのだ。これは非常に罪深い行為であると言えるだろう。
「ウォル、ローマっていったい誰?」
「そういえばフローゼに入っていなかったな。ローマというのは今見たような俺の眷属であり、フェアリーベアーというクマの魔物なんだ」
「その子を迎えに行くの?」
「ああ。悪いけど一緒に来てくれないか?さすがにフローゼをここに置いてけぼりにするわけにもいかないしさ」
「うん分かった。どこに行くか知らないけど、行ったことのないところに行くのは結構楽しみ」
フローゼはなかなかに知的好奇心が旺盛である。さすが五歳で家出した古代竜の娘だ。俺と一緒に王都に来ただけのことはある。
「それじゃあ行くぞ」
俺はまたテレポーテーションを使って、今度はロークスの森に飛んだ。
「久しぶりくま。成長したウォルコットに会えてうれしいくま」
そう言ってローマが俺に抱き着いてくる。この四年間で身長が大きくなっている。もちろん俺よりも小さいが、それでも百二十センチくらいあるかもしれない。以前に比べたら大きくなったもんである。
「おお…ローマが人語を話せるようになっている」
ローマのお母さんが人語を話していたことから、いつかはローマも話せるようになるとは思っていたが、まさか俺のいないところで話せるようになっているとは思わなかった。語尾がくまなのは、今まで『くまくま』言っていた名残なのかもしれない。やっぱりかわいい奴である。
「ええそうよ。ローマもこの四年間で強く賢くなったのよ。これからあなたの戦闘にも役に立てる……と言いたいところだったのだけど、ローマもまだまだのようね。ウォルコット君は以前あった時よりも格段に強くなっているわ」
ローマのお母さんに会うのも久しぶりである。夫であるフェアリーベアーが人語を話さないところから見るに、人語を話せるようになるのはメスだけなのかもしれない。
「一応隠してるつもりなんですが……あまり隠せてはいませんか?」
強者とは、〈鑑定〉による測定だけでなく強者独特の雰囲気というものがある。こればっかりは俺の偽装や隠ぺいではどうにもならない。もっと高レベルの偽装や隠ぺいなら強者の雰囲気すら隠したりできるらしいが、俺の魔法も母さんにもらった指輪も〈鑑定〉を防ぐだけであり、強者の雰囲気などを隠せるものではない。以前アーシャに俺の力がばれたのはこういった問題があったせいである。〈鑑定〉とは別の力で見られると意外とばれやすいのである。
「普通の人間の方にはわからないと思いますが、私たちのような野生で生きる者にはまるわかりです。おそらく高位の冒険者などでもわかるのではないでしょうか?」
野生の獣や高位の冒険者たちは、何よりも生きることを優先する傾向がある。騎士や貴族だと「みじめに生き残るくらいなら死を選ぶ」という奴はたくさんいるが、冒険者や野生の獣は生きてなんぼである。彼らの価値観では死に意味を見出さず、死ねば何も残らないという考えである。そのため、敵の力量の把握がものすごく上手いのである。
俺は魔の森で戦闘力は磨いてきたが、自分の力を上手く隠すすべは中途半端になってしまっていた。それに加えて、魔の森での修業により俺は以前よりも格段に強くなったのだ。力を上手く隠し切れないのも当然なのかもしれない。
「それならこの子の力はわかるか?」
俺はそう言ってフローゼのことを指さす。
「いえ。見た限りではそこそこ強い女の子。その幼さにしては強いですが、失礼ながらそこまで大したことは無いと思います。Dランク前後くらいでしょうか?小さい人間の女の子にしてはかなり強いという程度ですね」
「やっぱりそう感じるのか」
オーロラさんにもらった指輪は、鑑定以外の手段すらも欺き通せるものらしい。しかも、この指輪は装着すれば自分のマジックアイテムとしての価値すらも大したことがないものに偽装するようである。俺が鑑定を使っても、どちらも大したことないように見えるのだからすごいマジックアイテムである。
「とりあえずある程度隠しておいて、王都であの爺に相談してみるか。じゃあローマ、久しぶりに一緒に行こうぜ」
「わかったくま!」
ローマがそう言って抱き着いてくる。
「フローゼも」
フローゼも俺に抱き着いてくる。年上だから俺よりもお姉ちゃんぶってくるが、精神年齢は意外と人化したときの見た目通りなのかもしれない。
幼女と小さいクマに囲まれる少年になるとは、転生する前は全く思い描くことができなかった光景である。




