クラス分けと男女平等
今日は合格発表兼クラス発表の日だ。もっとも、合格するのはみんな分かり切っているので、合格を喜ぶというよりは、クラス発表を楽しみにしているといった方がいい。
「ウォル、早く合格発表を見に行きましょ」
「いってらっしゃい」
「何がいってらっしゃいよ。ウォルも一緒に行くんでしょ」
「いや俺はいいよ。どうせ入寮するときになったらついでに見ればいいんだから」
俺は入寮することが決まっている。合格発表兼クラス発表の紙は、新学期が始まるまでずっと張り出されている。なので、入寮するときにちらっと見れば問題ない。なにより、二度手間にならなくて済むのだ。
俺は前世でもクラス分けは入学式に見る派だった。大体、入試で合格したかどうかを見るならともかく、クラス分けがどこかを見るためだけに学校まで行くのは馬鹿げている。
まあ、能力別に分かれているから見に行きたい気持ちがわからないでもない。俺は入寮するときに見れるが、フィーネは入学式まで見られないのだ。子供だから待ちきれない気持ちもわかる。
「いいから行くの!ウォルだってどうせ暇でしょ」
「俺は冒険者としての活動が忙しいから無理だよ」
「何が無理よ!王都に着いてからは一度も冒険者の活動をしていないじゃない!」
「それはあれだよ。あの、王都に来るまでの道で疲れていたからだよ」
「何が疲れていたよ!昨日だってやろうと思えばできたはずでしょ。なんでわざわざ今日から冒険者活動をしようと思ったのよ」
「それはあれだよあれ、なんか思い立ったからだよ。思い立ったが吉日というだろ」
「何があれよ!ただ単にめんどくさいだけでしょ。それに今は正午よ、もしも冒険者の依頼を受けるなら朝ご飯を食べた後にすぐに行くはずでしょ。こんな時間まで残っているのに、何が冒険者活動よ!」
フィーネの言うことには一理ありすぎる。もしも冒険者として依頼を受けるなら、朝の混んでいるときにいい依頼をとりに行くのが常識だ。学校に行くなどの予定がない限りは、大抵朝に依頼を受けに行くのだ。
「あっあれだよあれ、今日は午後から行こうと思っていて」
「絶対うそでしょ!それに、もうそろそろ来る頃だから」
「何が?」
フィーネはにやにやしてかなり悪い顔をしている。何を待っているんだ?
「フィーネ、ウォル様、早く行きましょう」
「!?」
「来たわねユリア」
なるほど、ユリアも呼んでいたのか。人数を増やすことによってプレッシャーをかける気だな。
「甘いな!それくらいのプレッシャーで負けることは無い」
「ファナさんも学校で待っていますから、早く行きましょう」
ファナも待っているのか、それも学校で!もしも行かなかったら落ち込んでしまうかもしれない。俺のまともな知り合いのうち二人を家に、一人を現地に置くことによって、ファナをそのままにしておく罪悪感と、直接的な行動によって俺を急かせることの二つを両立している。
「まっ、負けた。これでは行くしかない」
「わかればよろしい」
フィーネが勝ち誇った顔をする。フィーネもなかなかの策士になったものだ。ここ数日でフィーネの成長を痛いほど(いろいろな意味で)感じている。
「やった!Sクラスになれたわ。これが努力の成果ね」
「私もSクラスに入ることができました」
フィーネとユリアはSクラスに入れたようだ。貴族だから少し優遇された可能性は否定できないが、二人とも頑張ったのは確かだろう。
「皆さんすごいですね。残念ながら私はAクラスでした。皆さんに追いつけるように頑張ります」
ファナはAクラスだったようだ。ファナは勉強はできるが、魔法や近接戦闘といった戦いに関しては全然だ。それでもAクラスに入れることはさすがといえる。今回のクラス分けは勉強と戦闘の両方が重視されるので、勉強だけできるような頭でっかちや、戦闘ばかり考えている戦闘狂や脳筋では、上のクラスに入ることは難しい。
「ファナの戦闘力でAクラスはすごいわよ。よほど勉強ができるのね」
「私はファナさんの戦闘力は詳しくわかりませんけど、教育をしっかり受けている貴族も何人かいる中でAクラスに入れるなら、三年生の時はSクラスに入れるかもしれませんわ」
二人ともフィーネを見下しているわけではなく、ある程度ライバル扱いをしている。こんな貴族ばかりなら、俺も素直に王都の学校に行こうと思えたのに。
「ウォルは何クラスだった?」
「俺はAクラスだったよ」
「残念です。二年間同じ教室で学びたかったです」
「ウォル君一緒ですね。これから二年間よろしくお願いします」
「ウォル、あんたミネルバさんにしごかれていたのにこの程度なの。まさか手を抜いていたんじゃないでしょうね」
Aクラスに入ったか。本気を出さなかったが、しょせん十歳レベルなので貴族などの権力による妨害がなければ、下のクラスに入ることのほうが逆に難しい。
ペーパーテストでは何問かわざと間違えていたので、今回の結果は想定内だ。自分としては例年通りにいけばAランク、レベルが低ければSクラス、レベルが高ければBランクになるように、毎年のAクラスの平均を少し超えるくらいになるようにしていたからな。計算通りといっていい。
「Aクラスか・・・」
「なんかうれしそうね」
「まあな。貴族ばかりだと友達ができそうにないからな。AクラスかBクラスあたりだと平民の子供も多いだろうし、一年生徒二年生の間のSクラスの貴族の子供は、毎年プライドが高くてクラスの居心地が悪く、特に平民には過ごしずらいといわれているからな。ここいらがちょうどいいのさ」
「やっぱり手を抜いていたのね。まあ、ウォルの気持ちはわからないでもないわ。全員とは言わないけど、貴族の子供で絶対同じクラスになりたくないと思うやつはたくさんいたからね。特に平民には居心地悪いと思うわ」
「完全に納得できませんけど、ウォル様の言い分はわかりましたわ。残念ですが、会える機会は減っていきますわね」
「そうなるのかな?学校が始まるまではよくわからないけど、同じクラスになるより機会が減るのは確実だろうな」
「逆に私は増えますね」
「ファナずるいです」
「それじゃあクラス分けも見たし、そろそろ帰ろうか」
ここは俺たちと同じくクラス分けを見に来た連中で混雑している。人込みは嫌いなので、早くここから出たいのだ。
「何言ってるの?これからが本番でしょ」
「本番?一体何の話だ」
「これからみんなで王都散策するんでしょ。もちろんウォルのおごりでね」
ふざけるな!?そんなの聞いたことないぞ。
「ウォル君、お願いします!」
「ウォル様ありがとうございます」
二人が矢継ぎ早に退路を断ってくる。しかし、俺はこんなことに屈する男ではない。
「いつの間にそんなことになったんだ?それに、俺たちはまだ十歳だぞ。百歩譲って王都散策をしたとしても、せめて割り勘だろ」
確かにデートは男がおごるものという男女不平等なセクハラは前世でもあった。この世界でもそれは存在しているが、俺たちは十歳だ。十歳の小遣いで全部おごりはきついし、これはデートというよりも友達で遊びに行くことに近い。
そもそも名誉貴族の息子で平民の俺よりも、貴族令嬢であるフィーネとユリアのほうが金持ちの家のはずだ。したがって、俺の全額おごりは無理だ。
「けち臭いわね。あたしたちはお金を稼いでないのよ。ウォルはDランク冒険者なんだから私たちよりも稼ぎはあるでしょ」
「いや、この魔法の袋を買うのに使ってしまったよ」
当然嘘である。しかし、理不尽に屈しないためには嘘もまた必要なのだ。
「確かにウォル君はきついよね。それに、馬車では色々助けてもらったから、今度は私たちが助ける番だよね」
ファナがいいこと言った。商人は金にうるさいが、それと同時に貸し借りにも気を配るのだ。
「男が女におごられるなんて恥ずかしいと思わないの!?」
「俺は真の男女平等主義者だ。男女平等の名のもとに、割り勘を提案する!」
これこそが真の男女平等だ。都合が悪くなると男女平等を振りかざす癖に、こういうときには男のくせにとか言っちゃう奴には、前世では負けたが、現世では負けん!
「確かに、ウォルの言うことも一理あるわ」
フィーネは結構武闘家の考えに近く、女だからといって手加減されることを嫌う。そのため、このような男女平等という言葉に弱いのだ。
常々「男だからとか女だからとか関係ないじゃない!」と言っているのだ。ここで自分が男だからという理由で俺におごりを強制すれば、自分の首を絞めることになる。
「それでフィーネ、男だからなんだって?」
俺はにやにやしながらフィーネに問いかける。
「くっ、殺せ」
最近はフィーネにやれていたので、何とか借りは返せた感じだ。正直、フィーネの悔しそうな表情を見れただけで大満足だ。
「でも、ウォル様はお父様から白金貨二枚をもらっていましたよね」
「「「!?」」」
「それとこれとは・・・」
「関係あるわね。男だからではなく、臨時収入がたくさん入ったウォルにおごってもらいましょ。決してウォルが男だからおごるんじゃないわ」
フィーネの奴、さっきは意気消沈していたのに、チャンスと見るや途端に息を吹き返しやがった。こういうところも女の嫌なところだ。
女と割り勘したりおごらせる男はけち臭いと女が言っていることは聞いたことあるが、そっちのほうがよっぽどけち臭いと思う。
そもそも全額おごらせたならならともかく、割り勘をけち臭いというのはおかしいだろ。
「いや、割り勘だろ。つーかフィーネは絶対使いくる気だろ」
「そっ、そんなことないから」
「そんなことあるだろ」
「わかりました。ウォル様の言う通り割り勘にしましょう」
「私は最初から異議はないです」
「俺も当然異議なしだ」
残りはフィーネだけだ。かなりの葛藤の末言葉は放った。
「わかったわ!」
こうして割り勘で王都散策することになった。
もしかしたらこれを見て俺がけち臭いと思うやつがいたら、男女平等のもとフィーネたちが女ではなく男だと思って見てほしい。そうすればどちらがけち臭いかわかるはずだ。
「そういえば、ウォルは私の家にタダで止まっているのよね」
フィーネのこの一言で、結局俺がおごる羽目になってしまったが。




