祭り後
昨日の祭りは結構楽しかった。日本にあるような出し物と、この世界に来て初めて見るような出し物がああり、懐かしいような新鮮なような不思議な気分だった。
この世界には異世界からの転移者が何人かいるようなので、俺と同郷のものが広めたものもいくつかあるのかもしれない。
昨日はハーレムというより、姉弟といったほうが正しい感じだった。性格はそれぞれ違えど、悪そうではなかったので、これからも仲良くしていきたいものである。
射的ではソラの独壇場であったが、身体能力は獣人のニーナのほうがかなり上だった。見たところ年が一つ上とはいえ姉ちゃんよりもかなり高かったし、魔法なしでも身体強化魔法を使った俺よりも上だった。
ファナはまだ三歳だからかニーナよりは格段に低かったが、それでも俺はもちろん三つ上のソラよりも高かったし、あと一年もすれば今の姉ちゃんにも迫るほどの勢いだ。
これが獣人の種族特性なんだろう。獣人は魔法が得意ではない代わりに身体強化がものすごく高いといわれている。いわば、常に身体強化魔法をかけ続けているようなものだ。これに身体強化魔法が合わさったらものすごいことになるだろう。実際に強い獣人は、身体強化魔法を使える上に、身体能力もほかの獣人よりも上である。
身体能力がものをいうゲームでは、彼女たちは大活躍だった。ちなみに射的で活躍したソラは、そういう系統の出し物では最下位だった。彼女は年長組三人の中では一番身体能力が低く、年少組の俺たちも、ファナは獣人であり、俺は魔法を使えばファナよりも力が出せるので、彼女が最下位だった。
初めての祭りを十分に楽しんだ俺とは反対に、フィーネはかなり退屈だったらしい。
フィーネはこの町の領主の娘だ。一応この祭りはロークスの町ができた日を祝うものである。そうなるとこの祭りの主役は言うまでもなく決まっている。
来年からはともかく、初参加の今年は自由に行動できない。いろんな人に挨拶したりなどいろいろあるのだ。領主の娘というのも大変なんだろう。
祭りの途中不機嫌そうなフィーネを見かけたが、当然無視しておいた。触らぬ神に祟りなしというやつだ。変なことに巻き込まれたくないし、そうでなくとも不機嫌な彼女に八つ当たりされる恐れがある。
後日フィーネになんで祭り中会いに来なかったとか言われたとしても、今は精一杯祭りを楽しもう。
昨日祭りで働いたおかげか、父さんも母さんも今日はオフだそうだ。母さんはともかく父さんは久しぶりのオフだ。ゆっくりしたいだろうからそっとしておこう。
「みんな!今日は家族そろってお出かけよ」
今日は久しぶりに家族でお出かけらしい。父さんは疲れていると思うのだが、これも家族サービスというやつか。前世でも何度かこういうことがあったような気がする。といっても当時は親の気持ちは考えてなく、単純に楽しかったことしか覚えてない。
「ねえお母さん。今日はどこに行くの?」
姉ちゃんは楽しそうだ。俺も姉ちゃんに倣って今日を楽しむとしよう。
「そうだね。でも町の外には出れないだろうしどこに行くの?」
この世界での外は危険だ。もちろん母さんたちくらいなら、町の近くの魔物くらいなら瞬殺だが、今日は俺たちという足手まといがいる。それに仮に大丈夫だったとしても、家族団らんの時に魔物を殺すのはよくないだろう。気分が悪くなる。
「そうねえ。劇なんてどうかしら。劇は午後からだから、それまでは家でゆっくりしていればいいし、劇の後みんなで外食しましょう」
おお。母さんも父さんの疲れを軽減させることも考えていたのか。がさつそうに見えて結構気が回るものである。
「ウォル、なんか言った?」
こういう鋭いところも含めてだが。
俺たちは午後の劇を見に行くまで自由行動となった。
父さんは案の定二度寝した。やはりこの機会に疲れをとっておきたいのだろう。母さんも二度寝した。これにはなぜ?と思うが、母さんも意外と疲れているのかもしれない。姉ちゃんは剣の修行だ。まじめな姉である。
俺も二度寝した。ぐうたらだと思うかもしれないが、昨日の祭りで疲れたんだ。精神は大人でも体は子供なんだ。三歳の体は体力消費が激しいのである。
そして出かける時間になった。そういえばこの世界に来てから劇なんて初めてである。この世界には映画なんてないので、劇は結構人気だ。祭りでもステージで簡単な劇はやっていたが、あいにく出し物に夢中で見ていなかった。
「お母さん、今日見る劇はなんていう劇なの?」
確かにそれは俺も気になっていた。
この町には劇場も劇団も一つしかない。彼らは役者たちを使って、毎日ではないが月に何度かいろいろな劇をしている。
「今日見る劇は初代国王の冒険よ」
この国の初代国王はもともと貴族ではなかったらしい。彼の名前はタクマ・テンカワ・フォン・シルフォードという。というかこれって・・・・おそらく日本人、そうでなくとも確実に異世界人である。
これ絶対に天河琢磨さんだよね。漢字は違うかもしれないけど確実にてんかわたくまだよね。
しかし疑問が生まれる。なんで異世界人だといわれていないんだ。確かに彼は三百年以上前の人間であり、もうすでに亡くなっている。それでも、当時すでに異世界人という存在は確認されていたはずだし、名前を聞けば異世界人でなくとも、その子孫だったり関係者だという推測は立つと思うが。確定はできなくとも疑惑くらい生まれそうだが。
ウォルコットはこの時ひとつ勘違いをしていた。
タクマ・テンカワ・フォン・シルフォードが異世界人だとされていないのは、まず国に保護されず世界に溶け込んでいたことがあげられる。しかしこれにはウォルコットだってわかっていた。
彼の勘違いはタクマ・テンカワという部分が日本人のような転移者特有だと考えているところだ。まだ三年しか勉強していないし、この町から出たこともないウォルコットにはしょうがないことだが、日本人っぽい名前の人は意外といる。それに天河琢磨のように完全に日本人の名前の人がたくさんいる国もある。この周辺にそう言った名前のものが珍しいだけなのだ。
ウォルコットは勘違いはしていたが、そのおかげで本質はつかめていた。タクマ・テンカワ・フォン・シルフォードは元日本人の転移者である。
なぜ彼がてんかわたくまではなく、タクマ・テンカワにしたのかというと、彼が転移したところはウォルコットと同じく西洋風の名前と顔の人ばかりだったので、とっさにタクマ・テンカワと名乗ったのだという。しかし家名があることからどこかの貴族かと思われてしまい、誤解を解くのに必死だったようだが。
そういうわけで彼が異世界人だということはあまり知られていないし、彼が異世界人だったからといって何か変わるわけでもないので、特にこだわられているわけでもなかったのだ。
今回の初代国王の冒険はたくさんのシリーズがある。初代国王が王になるまでを描いたストーリーであり、国民からの人気は高い。
また、初代国王の仲間であり親友でもあった大魔法使いがいまだに生きているのである。彼は言うまでもなく『ハイヒューマン』であり、この国最強の魔法使いであり宮廷魔術士筆頭だ。
いまだにそのレジェンドが生きているのだ。人気があるのは当然だ。なにしろその魔法使いはタクマ・テンカワ・フォン・シルフォードの次に出番が多いのだから。
「今回の劇はドラゴン退治よ」
この劇の内容は、初代国王のタクマ・テンカワ・フォン・シルフォードがまだタクマ・テンカワであったときに、自分たちが作った町にドラゴンが一体やってきて、それをその町のトップであったタクマ・テンカワが中心となって撃退したのである。ちなみにここで出てくる町こそが、現在の王都である『テンカワ』である。
「またあの劇かい?ミネルバは本当にあの劇が好きだね」
母さんと父さんは何回もこの劇を見たことがあるらしく、母さんは大のお気に入りらしい。
母さんが冒険者時代に下級竜を倒したのも、この物語に影響されたらしい。もっとも、それ以上のドラゴンを倒すのは諦めた、というよりも父さんに全力で止められたらしい。
「二人は初めてなんだからいいでしょ。それにいいものは何回見てもいいのよ」
正論ではあるんだが、なんか納得できない。心なしか母さんが最も楽しそうに見える。
そんなことを言っているうちに劇場に到着した。
劇場はなかなかの広さであり、一万はさすがに無理だろうが、数千人なら収容できそうなくらいだ。
「何度来てもこの雰囲気は悪くないわね」
母さんは劇が好きらしく、一年に何回も見に行っているらしい。
父さんも何回か一緒に行ったことがあり、冒険者時代なんかは新しい街に行くと、まず劇の予定を見るほどであり、依頼を受けずに一緒に劇を見てから別の町に行ったこともあるらしい。
劇はかなり面白かった。この世界の劇を始めて見たのもあるが、魔法を使ったりすることで、よりアクションが充実していた。まるでアニメやCGを使った映画を見ているようだった。
とりわけ姉ちゃんは興奮していた。やっぱり母娘なんだろう。
「いやーやっぱり大満足だわね。特に今日は演者の動きが良かった気がするわ」
母さんも大満足のようである。
「それじゃあ食事に行こうか」
そのあとの食事も大変おいしかった。




