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異世界での生活は問題ないです


暗く冷たい鉄の牢屋。

その中では足を鎖で繋がれ、椅子に縛り付けられた人がいる。

腕と上半身はしっかりと椅子に固定され、目隠しと縛られた口、うなだれた頭からは表情は分かりづらいが疲労が伺える。

ジョルジュは鞄を置くと羊皮紙を少し眺めた後、机の引き出しから鍵を取り出し檻を開け中に入る。

縛られた者の前に立つが反応はない。


「オッと忘れてた。」

机の方に戻り鞄から目だし帽を取り出しかぶる。

「顔バレしたらこわいもんな。」

再び牢に入り拘束者の耳を触り、穴に詰めていた布の切れ端を取る。

触れた瞬間、ビクリと震えるがそれ以外の反応は無い。

「・・・えーと、ファル国へ情報を流されてた方ですね。私はあなたの担当になりました尋問官です。よろしくお願いします。」

相手には動きが見られない。

「残念ながら、あなたには自白魔法に対する抗魔能力が高いので、ちょっと特別な対応となります。」


自白魔法。自白を促す精神操作系の魔法。

便利な魔法の為か、この世界において尋問とは魔法をチョチョイとかけたら終わる軽作業。

抗魔能力の高い者や自白魔法が無いときには、拷問が行われる。

ジョルジュは拷問がメインの尋問官である。


「さて、では始めましょう。」


それから、しばらくの間打撃音とくぐもった呻き声が地下2階に響き続けた。



翌日


羊皮紙を丸めたものでペチペチと自分の頬を叩きつつ、地下から会議室に向かう。

まだ夜明け前のようで、暗く静かな室内。羊皮紙を会議机に投げ外にでる。

空は暗く星が見えるが、うっすらと東側に明るみが見え始めていた。


「あ゛ー。」

伸びをしながら絞り出すような声が洩れる

修練場へ足を向け、上体を振ったり屈伸したりし、簡単な体操をする。


「眠たぁ。」

体操もそこそこに、城内に戻ると炊事場に向かい火をおこし、湯を沸かす。

戸棚を開け、コップとジョルジュ専用とかかれたラベルの瓶を取り出す。

瓶には黒色の粉末が入っており、それをコップに入れお湯に溶かす。

「・・・コーヒーもどき完成。」

黒色の液体。前世でのコーヒーを真似たもの。

この世界ではコーヒーや紅茶は無く、果実水や家畜の乳が一般的に飲まれている。

そんな中、ジョルジュがうろ覚えの知識をひねり出し、野草の根っこなどで作った飲み物。

試行錯誤を繰り返し、たんぽぽコーヒーに近い飲み物となっている。

「・・・情報を聞き出したし、後は朝待ちだなぁ。ゴランさん早く来るといいなぁ。」

この世界には拷問による尋問は余りない。自白魔法等の精神操作系の魔法があるためだ。

戦争後期にほぼ情報戦となり、密偵から情報を得る為拷問という手法が使われだした。

ジョルジュは見習いの時に、尋問を行う機会があった。更に上手く情報を聞き出すことが出来たのである。

当時、ラルバ子爵の騎士団長であるゴランが騎士団に参加しており、停戦後ジョルジュをラルバ子爵領へ引き抜く。活躍の場も無く戦争も停戦となり凹んでいたジョルジュだったが、この世界の公務員級の安定職に引き抜かれ、かなり喜んでいた。いきなり特務騎士の尋問官となり、それから5年近く経っても出世の兆しがないことに気付くまでは。

「はぁ。」

軽くため息をつき、地下へまたいくかと出口に目をやると寝間着を着た女性が立っていた。

「ぁ。」

女性が小さく声をもらす。

「これはお嬢様、お水でしょうか?」

「ひっ!」

声をかけると怯えるように息をのむ女性。ラルバ子爵の娘であるリディア=ラルバ様である。

「急に声を掛けてしまい申し訳ございません。失礼致します。」

「・・・。」

怯えた様子に気を使い、地下に戻る。すれ違う時も後ずさりされ、ストールの端を握り締めていた。

地下二階に戻り、椅子に腰掛ける。

「怖がられてるなぁ。」

リディアの様子を思い出しながらコーヒーをすする。


ジョルジュはこの城の者からは嫌われ、怖がられている。

拷問を主とする尋問官。その業務は他人からみれば恐怖の対象となる

冷血・非道・残酷・悪意の塊など、色々言われている。

まぁ、小さい城なので聞き間違いと思うレベルを越えて聞こえてくるので、どうしようもない。

この城を住居として使っているラルバ子爵家、当主であるアドルフ=ラルバ子爵、妻のデニー=マイル=ラルバ子爵夫人、娘のリディア=ラルバ。通いの女中が三名、あとは騎士団の団長などの幹部10名ほどがジョルジュの業務を知る者達になり、当主と団長以外から嫌われ怖がられている。

仕事内容は殆ど尋問相手と二人きり。報告時以外はあまり会うことのない、騎士団の幹部。

今回のような偶然でしか会わない子爵家の人達。

前世の仕事を考え、気楽さでは今の方がましだと結論付けといる。


牢屋に背を向け鞄から本を取り出し、朝までの時間つぶしを行う。

ジョルジュにとって尋問は楽な仕事である。

この世界では、

戦争初期

自白魔法が効かない=情報を持っていない

戦争中期

訓練による精神操作系への抵抗力の強化法が知られ始める。

自白魔法か効かない者への尋問に拷問が加えられる。

戦争後期

拷問を行う者に精神に異常をきたすものが増え、情報を得る事よりも痛めつけることに傾倒していく。

普段奇行をせず、拷問を行う者が重宝される。特に情報を引き出す者。


ジョルジュは情報の引き出せる尋問官。

拷問で殺したことはなく、目立った奇行もない。

自白魔法か効かない→自白魔法が効くように相手を程良く弱らせる→自白魔法

という、単純なことをしているだけ。

それでも、数年で一軒家を持つことができる給料を貰っているので、もともと平民であったジョルジュにとっては、前世において勝ち組と呼ばれる状況にあることを理解していた。


「ただ、嫌われたり怖がられたりするのはなぁ」

リディア様の様子を思い出し凹む。

精神年齢併せて50歳というが、正直前世の精神年齢が実年齢に合っていたものか自信はなく、若返った分幼児退行起こしている気がする。

前世の知識があろうとも技術がともわなければ意味はなく、魔法という物理法則に喧嘩を売るものや、魔物や獣人といった生態系の違いから、自分の知識があまり役に立たないと痛感していた。

仕方ないとボソリと呟き、本の世界に入り込むジョルジュだった。







読んで頂きありがとうございます。

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