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お荷物くんの奮闘記  作者: seam
20/26

act.20

「今度は防御しても固定で大ダメージ食らうぞ! すぐ回復させるから攻撃続行で頼む!」

 攻撃モーションに入ってからタメが五秒。自分は間違いなく吹っ飛ばされるので、食らった直後に全体回復魔法を重ね掛けしなければならない。術の構成を準備しつつ、五秒が経過する瞬間を狙う。

 天使が大きく翼を広げ、部屋中をまばゆい光が埋め尽くしていく。視界を焼かれる前に目を閉じて左腕で瞼を覆い、弾けるような衝撃がやってきたタイミングで右手を突き出した。

 発動した全体回復魔法が熱い痛みを治めていく。目を開けて状況を確認しようとしたところ、目前に天使の六回目の単体強攻撃が迫ってきていた。

「何度も狙わせないよ」

 後を追ったリュータが天使を背後から攻撃し、一瞬動きが止まる。彼の剣が天使の羽根を片翼切断した。

 天使が声もなく苦悶の表情を見せる。ステータスガジェットを通して確認すると、敵HPは残り三十パーセントを切っていた。

「勝てる! 畳み掛けるぞ!」

 攻撃ループをもう一巡させてやる必要はない。回復にあてていた自分のMPを重力操作の地属性魔法に注ぎ込んで天使を床に引き摺り下ろす。リュータとヴェルターの攻撃にノアの呪文による極大火球が投下され、二人が退いたと同時に爆発を起こした。

 フロアを覆う爆煙が収まるのを待たず、スマホの画面を点灯させる。敵HPゲージは灰色になっており、こちらの勝利を確信した。念のためMP回復薬をもうひとつ口にして、その場に全体回復を軽く一度かけておく。

 煙が晴れ、フロアの様子が確認できるようになった。倒れている者はおらず、天使は跡形もなく消えていた。

「お疲れ。皆無事でよかった」

 ホストに繋がっているパイプを塞ぐ天使が排除できたなら、あとは勇者の遺志に従って操作するだけだ。


 祭壇の中央が編集に入るためのアクセスポイントになっていた。ただの石だと思っていた部分がフェイクで――天使を倒さなければ本当に石のままなのだろう――手を突っ込んだ瞬間、プラネタリウムの中のような空間に引きずり込まれた。

 真上にはマンホールの穴くらいのサイズで、先ほどまで居た神殿最上階フロアが見える。自分が中に落っこちたのを見てリュータが血相を変えてのぞき込みに来たようだが、そのまま映像が固まってしまった。

 この中とあちらでは時間の流れが違うのか、それともあちらの時間が止まっているのか分からない。どちらにせよ、ここでゲームを起動させて確認しながらの作業になる。慣れないプログラミング言語で時間もかかるだろうから、作られた時間はありがたく使っておく。

 スマホのゲームスタートボタンを押して、CONTINUEの方をタップする。出てきた画面はゲーム序盤ではなく、風雷の神殿だった。パーティメンバー四人のステータスとそれらしいドット絵が、風雷の神殿っぽい建物の最上階フロアで表示されている。マップの位置情報か何かと勝手に連動するのだろうか。メニューの中にはステータスの他にアイテム、武器、ストーリーとある。「セーブ」が存在しないあたり少々薄ら寒い感じがしなくもない。

 ストーリーの方をタップしてみる。するとノベルゲームのように、この地点までで表示されていたらしいメッセージのログが一覧になって出てきた。そうだ、どうせならゲーム画面を師匠にも見せておこう。

「おーい師匠、勇者ダイゴのゲーム見なくていいかー」

 腕輪を二、三度叩いてみる。返答がない。この空間の仕様か何かで、最初にここに入った者以外は動けなくなるようにでもなっているのだろうか。もう一度手首を振って呼びかけてみる。

「師匠、聞こえてるかー」

 手首から腕輪が抜け、足下に転がった。

「……外れた?」

 今まで何度も外そうとして外れなかったプライバシー侵害そのものな腕輪がひとりでに落ちるとは。腕輪を拾い上げる。

「よう、不肖の弟子。この伝言はおまえさんに残りの記憶すべてを渡すために保存しといたもんだ、ありがたく受け取れよ」

 普段通りミニチュア師匠が腕輪の上に現れて安堵したのも束の間、それが本人ではないことに気が付いてしまった。

「伝言? 師匠、おい何」

「この腕輪に付与していた魔法は、擬似的に魔王継承システムを再現するのが目的だった。情報の受け渡しが完全に終われば、オレ様の役目は終わりだ。正直もうこの「ユウの影」の思考や感情なんてもんを維持するだけのスペース残ってねえからあとはてきとーに棄てといてくれ」

 オレを起動させたのがおまえでよかったよ。楽しかったぜ元気でな。ありふれた今生の別れの台詞に、言葉が出てこない。

「伝言の再生中にもう一回腕輪を装備すれば、残りの情報も引き込めるようになってるぜ。東国の呪いを一時的に無効化する方法もちゃんと追加で記録してある。心配すんな」

 それだけ告げて、伝言の再生は終了する。再び腕輪を振ってみると、同じメッセージが最初から繰り返された。

 ――それから、ユウ。

 スマホの方のストーリーログには、ダイゴによる音のないメッセージが流れている。受け取るべき相手はとっくに居なくなっているというのに。

 ――これを見てるってことは、オレは帰れなかったのかな、おまえのとこ。

 いろいろ黙っててごめんな。

 一緒に暮らそうって話も、言い逃げになっちまった。

 守れなくてごめん。

 けど、本気だったよ。

 本気だよ。……今でも。


 書き換えを終えて、神殿の最上階フロアに戻る。ダイゴが自らこの地点での書き換えを行えなかった理由は、四カ所あったアクセスポイントがすべて神殿で、勇者の旅の終盤にならなければ神殿への道が開かれないからだった。ユウの願いによって勇者システムが一部狂い神殿は出現したままになっているが、本来であれば魔王を倒す直前、最終決戦を控えた段階でなければ神殿は大陸に姿を現さない。すでにバグに侵されていたダイゴは、終盤まで待っていては自分の身体が保たないことを悟って、後のために奔走していたようだ。

 風雷の神殿のデバックポイントで閲覧・編集ができたのは大陸――フィールドに関してと、キャラクターの透過・不透過に関して。この世界がRPGだと仮定して、ゲーム内で話しかけたらセリフを返してくれるようなオブジェクトにいわゆるあたり判定を加えるか否かの操作だけだ。うっかり判定レベルを引き上げると俗に言う幽霊の類まで実体化させかねないと知って慎重になったが、逆に考えるとここでこの程度しか編集できないのも不思議だ。

 hogehogeQuestによると――改めて考えてみてもネーミングはださいと思う――四つの神殿それぞれには仕組みを編集する地点が設けられていて、それら四箇所全てに管理者登録が済めば、この世界の外側にアクセスできる通路が作られるらしい。魔王を継がなくともこの方法なら現代に帰れるかもしれないと希望の光が見えたところで、既に四箇所のうちひとつは少年の姿をした悪魔とやらによって崩壊していたことを思い出す。

 管理者登録というのは、祭壇の中央から穴に落ちた際、リュータたちが自分と同じように中へ入ることができなかったあたりのことを指していそうだ。

 この世界の外側から来ていると思われるあの無表情天使たちは好きなように行き来し放題なんだろうなと溜め息をつきたくなる。

「ユウジ! ……あれ?」

 リュータが祭壇の上までやってきて目を瞬かせた。彼らからすれば、穴に落下して直後に再び上がってきたように見えることだろう。状況が飲み込めていないリュータの頭を撫でて、続く二人に口を開く。

「終わったぜ。東国の呪いやワープゾーンはこれでたぶん、完全に除去されてるはずだ」

 結局、東国からは特に連絡もなかった。突然ワープゾーンが広がって国が壊滅したとか、バグ感染者が経過時間に関わらず一気に全員消滅したとか、そういった報告がないなら問題なさそうである。

 帰ったら東国に待たせている今回の件の依頼主に、大賢者ファンクラブの会員を移住させる交渉を始めなければならない。

 下りまで魔物に遭遇するのは面倒だ。手っ取り早く脱出魔法と移動魔法で東国まで戻ろうと話がまとまったところで、リュータがあっと声を上げた。

「忘れてた! ユウジ、さっき倒した天使のことなんだけど」

「スマホのHP欄の上にはミカエルって書いてあったな。あれがどうかしたか?」

「うん。天使が天使として倒されたなら、何かあめ玉? 宝石? みたいな小さなビー玉くらいの石になるはずなんだ。えっと……ウリエルも含めて。おれが赤色の石だから、たぶんミカエルは緑色の石だと思うんだけど、このフロアのどこにも見あたらなくて」

「倒せてないってことか? HPは確かにゼロになって――あ、あれじゃないか。ノアの奥義で一緒に木っ端微塵とか」

「石は倒された直後は何の干渉も受けないから、それはないと思うんだ。あとね、倒せてはいると思う。けど、ひょっとしたらその石、誰かに持ってかれてないかなって」

 誰かが持ち逃げしたってことか? 何の役に立つかも分からないようなビー玉をか。それにあの場にはオレらしかいなかっただろ。いったい誰がビー玉持って帰るっていうんだ。いつになく深刻そうな顔をして言葉を紡ぐリュータに、そういった茶々は入れずにひとまず最後まで話を聞いてやることにする。

「あのね、お姉ちゃんの話、そのまま天使が食べられたんだと思ってすごい怖かったんだけど。よく考えてみたら誰にでも食べれるサイズだなって思って。……天使の宝玉なら」

 そこでようやく、彼が言わんとしていることが掴めた。天使の宝玉を食らう。そんな発想ができるのは、宝玉になることを知っているリュータか、以前実行したことのある者くらいだ。

「レツが近くに――風雷の神殿にあの瞬間、身を潜めてたってことか。宝玉を手に入れる目的で」

「生きてる人間が宝玉と一体化できるなら、その天使の力を使えるようになる、と思う。あれは心臓っていうか、核みたいなものだから」

 おれは丸ごと転生してるからもう少し作りが頑丈なんだけどね。さらりと言われたその台詞で、今までのリュータの頑丈すぎるエピソードの数々が脳裏に浮かぶ。今の話はそこが重要なんじゃないのは分かってるけど。分かってるけども。

「……レツと戦うことになったらやばいだろうな」

 内部の人間によって召喚された天使は不完全な存在なのか、今戦った「ミカエル」は自我がないようだった。だからこそゲームのように攻撃パターンを読んで倒すことができたが、あの技をそのまま習得したレツが相手となると今回の比ではなくなる。元から戦闘のセンスがあって、魔王の加護を得ていて、さらに天使の攻撃技すべてを使いこなせる。パーティーメンバーの全員がこのままレベル上げに励んでリュータと同じレベルになったとしても、犠牲無しに勝てる気がしない。

 もし正面衝突することになるなら、対抗策としてこちらの陣営にいる「ウリエル」――リュータに加えてもう一人、天使の力を借りたいところである。

「冥地の神殿で召喚された天使はたぶん、ラファエルだと思う。だからおれたちの方にガブリエルが味方してくれたら、レツにも負けないよ」

「ガブリエル……水雹の神殿か。話が通じるといいんだけど……東国でのことが片付いたら、ちょっと行ってみるか」

 師匠から引き継いだ記憶のおかげで、ガブリエルにはあまり良い印象がなかった。今回のミカエルのように、やはり召喚した途端襲いかかってくるとしか考えられないのだが、自分たちが攻撃を仕掛けてしまったら交渉もへったくれもない。戦わず、殺さずに協力を仰げるならそれに越したことはない。

「うん」

 リュータが頷いて、やっと笑った。……それに、やっぱりこいつを同じ天使と戦わせるのは気が引けるなとも思うのだ。


 依頼料の代わりに土地の一部を借りたいという話は意外とすんなり通った。国は滅亡の一途を辿るだろうと誰しもが絶望していた呪いを解決できるのが伝説の大賢者――その実は見習い魔法使いなのだがそのまま勘違いしておいてもらおうと思う――だと知っていて、全ての財を投げ打つ覚悟で使者を送ってきていたらしい。

 土地はいったい何に使うのかと訊ねてきたノアに、おまえたちの拠点をあの辺鄙な場所からちゃんとしたところに移す目的で交渉したんだと返すと、彼は喜んで移住の準備を始めた。連絡を取って、拠点に使っていた建物ごとこの地に転送するらしい。転送にはかなり時間がかかるようで、ノアは一旦ここでパーティーから外れることになった。

 引き続きお供したいのですが、と名残惜しげな彼をさっさとあちらに向かわせるため、例のてるてる坊主をひとつ拝借して「人手が必要になったら呼ぶからスクロールで駆けつけてくれ」と耳打ちしたのも後押しになっているようだ。

 この後は水雹の神殿に足を運んでみると話をしたところ、ヴェルターは一度本国に戻るとのことだった。今回の件についてうまく言っておいてくれるらしい。これまでデレなどほとんど見受けられなかったヴェルターの口から、ひと段落したらまた本国へ来るといい、と別れ際に出てきたのには驚いた。

 二人と解散して、リュータと二人で東国を出立する。

「また二人旅だね」

「だな。水雹の神殿なんだけど、オレの記憶じゃ中央都市あたりになかったか? 輝炎の神殿が中央都市よりもうちょい南だったろ確か」

 しかし、以前中央都市に足を運んだ時にはそれらしい建物は見当たらなかった。記憶とはまるで違う風景になってしまっていたのはウリエルの暴走によるものだとしても、地表に神殿の一部すら露出していないというのは妙な話である。

「正直、話し合いで済ませてレツとの戦いは回避したいところだけど。オレあいつを説得できる気しねえわ」

 一見めちゃくちゃなように見えるが、独特の筋みたいなものが通っていて、それに沿って行動しているように思える。ああいうタイプは持論がしっかりしているから、完全に納得させなければ交渉の土俵にすら立てないのだ。

「話し合いといえば、ガブリエルの方もだな。力を借りたいだけだから、戦いにならないならそれに越したことはないんだが」

「おれ、会ったら言ってみるよ」

 リュータが真面目に拳を握る。天使同士で何か分かり合えるようなものがあればいいのだが、先のミカエル戦を思うとこちらも難しい気がする。

「まあ、まずは神殿探しだな。中央都市に行けば何か分かるだろ。プロフェットにも会えそうなら、話聞いてみようぜ」

「そうだね」

 一番考えられる可能性としては、洞窟の奥――外の地表からして半分以上地下に埋まっていた水雹の神殿が、ウリエルの暴走によってさらに土を被ることになり完全に埋まってしまって、その上に中央都市が築かれたパターンだ。そうなると中央都市そのものを退かさないことには内部に入れるかどうかも確認が出来ない。ガブリエルが生き埋めになっていたりしないことを祈るばかりである。

 東国を出てすぐ近場にあった小さな町で、ギルドの支部を発見した。中央都市に戻る前に、ここまでで消耗したアイテムをそろそろ買い足しておくべきかもしれない。道具屋も営業どころじゃなくなっていた東国では調達もできなかったのだ。序盤でにわか成金を回避すべくあれこれ購入したが、思いの外早めに魔法を習得できるようになったおかげで粉薬タイプのHP回復薬やスクロールの類はほとんど使っていない。一方、MP回復薬の方は底を尽きかけている。

 水晶による討伐数カウントももう一度リュータにやらせてみた。割れそうになったら手をひっこめろと事前に言っておいたところ、今度は水晶も壊さずにカウントを終えることができた。とはいえそれでもまた財布が鈍器だ。たぶんウリエルの暴走で大陸丸ごと焼いた時の魔物の分とかがカウントしきれてないんだろうな、とおっかなびっくり水晶を覗き込んでいるリュータの背中を見つめる。人類に貢献しない魔物討伐数、どころか人類含めて大量虐殺なのだが水晶ではどのように倒したかの詳細までは確認ができないようだ。報酬を貰っていいものなのか迷ったが、遠慮して資金不足で旅が中断となってはどうしようもないのでありがたく受け取っておくことにする。そういや天使の討伐ってカウントされんのかな。

「ユウジ、またお金重くなっちゃったけど……」

「MP回復薬買い占める。それでも重かったら最悪重力操作魔法かけて重さだけ軽減すれば――」

 重さだけ軽減。自分の言葉でふと思い至る。今まで全く気付いていなかったが、重力操作の術を使えば人類の永遠のテーマである空を自由に飛ぶというのが可能になるのではないか。うわ楽しそう後でやってみよう。

「ユウジ?」

「いやなんでもねえ。アイテム買ったら出るぞ」

 こちらが妄想タイムに入っていたのにめざとく気付いてリュータが声をかけてきた。ああこいつは死ぬ気になれば羽根出せるんだっけ。

 あめ玉型のMP回復薬をこれでもかというほど購入して、袋にずっしり入った薬と硬貨を足下にリュータと二人で中央都市まで転移する。門前に座標を合わせたのは単に、目立ちたくないからである。

 情報収集を開始する前に先に宿を確保した。MP回復薬はともかく、HP回復薬とスクロールはかさばるだけで今のところほとんど邪魔でしかない。必要最低限だけを手元に残してすべて部屋に置き、これまでで一度も使われていない勇者の剣も特に役に立ったためしがないので置いておくことにする。このお荷物でしかない勇者の剣を自分と重ねて見ていた部分もなくはなかったためこう表現してしまうとブーメランなのだが、今は少なくとも回復魔法と補助魔法がそれなりに使えるだけ役には立てていると思いたい。ヴェルターと会った最初の町でアイテム収納オーブを購入できなかったのは本当に痛いと思う。今度立ち寄る時にまだあの商品が売られていればいいのだけれど。

「情報収集って何すればいい?」

「オレはプロフェットと会えないか確認してくる。リュータ、RPGで情報収集するにはまずは?」

「そっか、片っ端から町の人に話しかける、だね! このあたりに遺跡とか洞窟とか知らないか、皆に聞けばいいんだ」

 RPGではないので本当に何も知らなさげな幼女や犬猫にまで話しかける必要はないのだが、そのあたりはリュータも分かっていることだろう。情報収集にもし金が必要になったらここから出せよと硬貨を目分量で半分に分け、手渡しておく。

「じゃあ、聞き終えたら一旦そこの酒場に集合でいいか」

「はーい」

 良いお返事。というわけで二手に別れ、まずは空の塔を訪ねてみる。顔パスで通れるといいんだが。魔動式エレベーターを使って最上階手前まで上り、プロフェットの居る部屋へ続く階段が使用できるかを確認する。特に見張りは居ないようだ。勝手に上っちゃって大丈夫かな。行っちゃえ。

 こそこそと盗人のように壁に沿いながら階段を進む。ここまで他人に見つかることなく、プロフェットの部屋の前にまで到着した。見張りがいないってことは、鍵でもかかってるんだろうか。入り口に手をかける。

 突如扉が開かれて、顔面をドアで強打する羽目になった。

「いっ……てえ」

「ユウジ。君が来てくれそうな気がしていたから、人払いをしておいたんだ。ようこそ……って、どうかしたかい?」

「いまとてもかおがいたい」

 悪気はなさそうだったので、顔の痛みは頑張って忘れることにする。こういう痛みこそ回復魔法でぱっと治せればいいんだけど、以前リュータが知らずに用意した毒草を食べて腹痛を起こした時は回復魔法も解毒の魔法も効かなかったのでHPや状態異常に響かず安静にしていればすぐに治るタイプのものは魔法ではどうにもならないようなのだ。

「久しぶり、プロフェット」

 なんとか笑顔を作って押さえていた顔から手を離す。鼻血が垂れた。


 約束の酒場に戻ってみると、そこにはリュータが先に着いてカウンター席でりんごジュースを飲んでいた。うん、酒場だもんな。酒飲めないしそれ注文するしかないよな。笑いを堪えて歩み寄ろうとしたところ、見知らぬ女性が彼の肩を叩いた。なにやら話し始めている。

 まだ情報収集の途中だったのだろうか。こちらは有力情報を掴めているのでもう調査する必要はないのだが、なんとなく声をかけるタイミングを逸してしまう。

 しばらく観察していると、リュータが硬貨の入った袋から金貨を大量に掴んで女性に手渡した。ばいばい、とリュータが立ち去る彼女に大きく手を振って、女性は入り口に立っていた自分の横を素通りして帰っていく。

「あっ、ユウジ!」

「今の女、情報収集で声かけたのか?」

「え? ううん、今会ったひと。病気の子供が居るんだって。大丈夫かな」

 治療のためのお金が足りないって言ってたから、とそこまでリュータが口にしたのを聞いて状況が掴めた。どうやら引っかかったらしい。

「嘘に決まってんだろ。子供が病気してるんならこんなとこで油売るかよ、明らかに酒臭かったじゃねえか」

「そうなんだ。じゃあ、病気で苦しんでる子供はいないんだね。よかった!」

「……おまえなあ」

「あ、ごめんユウジ。情報収集のためのお金渡しちゃった」

「いいよ。もともとおまえの稼いだ金なんだし好きにすれば」

 「ユウ」もこういうお人好しで抜けてるとこ、守りたいって思ったんだろうな、と浮かんできて、振り払う。

「ああそうだ、神殿の場所なんだけどな。プロフェットにスマホのフィールドマップ見せて座標確認してみたら、どこが神殿の洞窟のあった場所なのか分かったぞ。空の塔の真下だ」

「真下……塔、引っこ抜かないといけないの?」

 単純な勇者様らしい発想である。ついでに言うと文字通り「引っこ抜く」もやればできそうな気がしなくもないあたりがリュータだ。

「その必要はないっぽい。プロフェットに許可取って塔調べてみたら、地下に降りるための階段があった。たぶんそこから神殿へは行ける」


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