act.2
入り口付近に何やら町の名前らしき文字が書いてあったが、町の名前は読めなかった。
こういうのってだいたい異世界の言語も日本語で読めるようになってるもんじゃなかったか。町の人間と会話が成立するのか少々不安になりつつ先に進むと、町で耳にする人々の会話はそのまま日本語だった。書き文字だけが理解できない仕様らしい。ひとまずは安心である。
「あのー」
通りがかった同い年くらいの男性に声を掛ける。振り返る男はこちらを見て、途端に一歩後退した。
「え?」
「……何故このような場所に高貴な方が」
高貴な方。オレか。どうやらこの世界の貴族階級と外見が似通っているか何かで勘違いされているようだ。
「いや、たぶん人違いだと思うんすけど、ちょっと色々お話が聞きた」
「おい、誰か村長呼んでこい!」
男の一声で、平和な雰囲気に包まれていた田舎町が急にテロの襲撃にでも遭ったかのごとく騒然となった。
声掛けるキャラ間違えただろうか。いかにもイベントが進行しそうなキャラへの声掛けは後回しに、家捜しや他の住民への声掛けから始めるのが常の自分は少しばかり後悔した。てかそれならそうとイベント進行しそうなキャラっぽくしてくれよ頼むから。自分の脳みそが作っていると思われる夢に文句を言っても仕方ないといえば仕方ない。
それからまもなくして、声を掛けた男と村長らしき人物に出迎えられ、村長の自宅に案内された。イベント発生前の村の様子をチェックできなかったのは惜しいが、後の祭りである。次からは見逃すまいと村長の話に耳を傾ける。
「して、ご用件は?」
「ご用件っていうか、オレここ来たばっかだから色々教えてもらいたいだけなんだけどよ」
村長の外見は普通の老人というより、某フォースで戦うSF映画の彼のように小柄な魔人風だった。よくよく見れば、この町の住民は人間ではなく魔族っぽい見た目をしている。
「いえ。純粋な人間の方がこのような場所にいらっしゃること自体ありえないことでございます。観光であれば、こちらより西の炭坑の方が人口も多く宿泊施設も充実しておりましょう」
「えーと」
西にもこういう町がある。おそらく重要ワードだ。相手の口ぶりからして、この世界には普通の人間と、人間っぽいやつと、ほぼ人外な見た目のやつと、完璧人外なやつ、という風に分かれていて、見た目で位分けがされているようである。ゲームだといくら聞いても設定された情報しか話してもらえないが、ここはコンシューマーゲームの世界ではない。正確な情報を得るため、こちらから切り出す。
「正直に言うと、オレこの辺りのこと全く知らないんだよ。来たばっかりで、その、人間が偉いとか純粋な人間がどうとかって話もさっぱりだ。こっちからの質問にいくつか答えてもらってもいいか?」
「なんなりと」
そして、大まかな世界観情報をこの場で一気に入手した。
この世界では、純血の人間は少数であり一番偉いらしい。魔の者と人間との間に生まれた子供、いわゆるハーフが次に高い地位に就き、その次がクォーター、と人間の血の濃さで地位が決まっていく。最下層が人間ではない種族というわけだ。
普通RPGでは何の魔力も持たない普通の人間が一番苦労しそうなものだが、純血の人間はこの世界の神……というより魔王的な存在に祝福されているらしく、魔王の力を一部借り受けて行使することが可能なのだという。
うん、やっぱ逆じゃね?
その魔王の力によって構成された魔法は、人間ではない種族が元々持っている力で編み出された魔法よりも力が大きく、下克上は難しいのだそうだ。行使できる魔王の力の大きさは人間の血の濃さによって決まり、たとえ魔力が高いとされる魔族と人間のハーフであっても純粋な人間の力には敵わないらしい。
そうやって、人間の国を中心に世界は回る。その輪の中に入れない他種族は田舎に追いやられ、その肉体の強靭さから労働力として使われているというわけだ。ここは魔の者の暮らす村、魔の要素が大きかったために人権を得られず、郊外で働かされている者たちの村なのであった。
本来であれば、イベント進行キャラクターに話しかける前に他のキャラクターに声を掛けて驚かれたり警戒されたりといった反応をされることによって、この世界での常識を少しずつ得てイベントに臨むのだろうが、すっ飛ばしてしまったものはどうしようもない。
「なるほどなあ。確かにオレは世界が違うわけだし、普通に人間だけど」
異世界の人間がこの世界の人間のように魔王に祝福されているかというと、謎である。魔法の使い方も分からない。念じれば出るんだろうか。後で試してみよう。
「世界が違う、とは……」
呟きに近い言葉に、村長が反応する。
「信じてもらえるか分からないんだけど、オレ異世界から飛んできたんだ」
という設定の夢なんだ、とは流石に蛇足なので口にはしない。こちらの話を聞いて、村長が目を見開いた。
「なんと……では、ついに救世主様が……」
「救世主?」
「この山にひっそりと暮らしていた種族が長い間守ってきた、古い言い伝えにございます。異世界からやってきた勇者がその時代の魔王を打ち滅ぼし、弱き民を救いに導くと」
わーお。いきなりRPGの王道に路線変更来た。
「……それ、まさかオレだと?」
「勇者を判断するための道具もまた、その種族が受け継いで管理をしております。一度拝見されてはいかがでしょう」
「あー、はい」
それ確実に剣だろ。勇者の剣。聖なる台座とかに刺さってるやつ。抜かなきゃいけないやつ。
こってこてのRPGを生成し始めた自分の脳みそに呆れつつ、その種族の住む場所を訊ねる。鉱山の奥、実力者でなければたどり着けない深層に暮らしているらしい。
「じゃあ、その鉱山についても詳しく話を聞いてもいいか」
「鉱山まででしたら、こちらでご案内が可能です。ただ……」
わけありな顔で、村長が目を伏せる。これあれだ、最初の町で魔物退治とか頼まれるパターンだ。
「近頃、鉱山に魔物が出現しておりまして」
はいビンゴ。生暖かい目で見つめているのを知ってか知らずか、村長が話を続ける。
最近鉱山に魔物が出現し、それらに作業員がやられるため仕事が出来ない。そして仕事が進まないためにこの村の所属している国から契約関係ごと、支援を切られる寸前なのだという。
魔物が出ると進言しようにも、本国へ使いの者を出しても帰ってこないのだそうだ。
「ですので、案内につけさせた者はできれば、鉱山の中に入る前にこちらに帰してやっていただきたいのですが……」
「あ、なんだそういうことか。そりゃ別に構わないけど」
魔物退治依頼ではないらしい。危険な場所に非戦闘員を連れていかれると困る、ということだろう。
「なんならオレが魔物について調べてこようか」
ここで魔物退治までついでにやってやると言い出せないのが情けないところである。何せこちとらほんの少し前まではただの一般人であり、特に剣道や空手といった戦闘に有利そうな習い事を経験したこともないのだ。シューティングゲームはじめとする、次に役立ちそうなゲームスキルは全て自分よりもリュータの方が上だ。
そこまで考えて、これオレじゃなくてリュータのが勇者なんじゃね、と脳裏に過ぎる。その可能性は高い。スマートフォンのステータスガジェットにも、自分の職業は研究者と表示されていた。研究者が勇者にクラスチェンジするとは、正直思えない。
こちらの申し出で村長は是非にと頭を下げ、簡単な防具を用意してくれた。最初の町で入手する装備品らしく、防御力もそれなりの質素なものである。
村の少女に鉱山まで案内してもらい、その場で別れて内部へ入る。魔法についても自分が使用できるかどうか試しておく必要がある。坑内の酸素量を考慮して入り口付近で手を掲げ、とりあえず想像のし易い炎の魔法をイメージしてみた。
「えーと、出ろー……とかじゃ出ないか」
出るはずが無かった。掲げた手のひらにはマッチほどの火すら出てこない。
「じゃあ、ファイヤー! ……出ねえし」
ちょっと恥ずかしかった。呪文の詠唱的なものが必要なんだろうか。呪文とか知らない。ここは一旦魔法は諦めて、大きな町に出た際にでも魔術書的な本を探してみることにしよう。考えてみればジョブ研究者だし。魔法使いじゃねえわ。
気を取り直して奥へと進む。魔物と遭遇した場合の攻撃手段が無いが、逃げ足だけは自信がある。今回は魔物退治を依頼されたわけではないのだから、交戦の必要はないのだ。
ここまでで入手した情報をスマホのメモアプリに記入しつつ、均された坑道を歩く。いかにも裏面隠しボスの居そうな構造である。むしろ確実に何か居るだろここ。うっかりボス部屋に進んでしまわないように気をつけねばなるまい。
奥では採掘がされていないのか、徐々に入り組んだ道になってくる。遭難しても困るので、分かれ道では要所要所で写真を撮りながら進むことにした。そうしてスマホでライトを点けながら慎重に動いていると、奥から人の話し声が聞こえてくる。
音を立てないように壁を伝い、覗き込む。灯りを中心に囲って笑い合っているのは、人外の要素が少々見られる程度の人間だった。魔の要素が濃いのか、お偉いさんというよりは、山賊のような風体をしている。
しばし観察を続ける。山賊のようだと表現したが、それにしては装備品はまともに見えた。自分の身に着けている防具の方がよっぽど低級である。そこで、ここまでで得た情報が結びついた。
この鉱山に居るのは本国に雇われた人間で、本国はこの村を切り捨てるために今回の件を仕組んだのではないだろうか。本国に出した使いが戻ってこないというのも、おそらく拘束されたか始末されたか、この説が正しければ無事ではないだろう。
せめて彼らの会話がもう少し聞き取れれば、と踏み込んだその時、足元の小石が砕けた。
ぱきっという小さな音は、坑道内に大きく響く。
「誰だ、そこに居るのは」
バレた!
素人が隠密行動なんてするもんじゃなかった。やばい、と慌てて踵を返し、逃亡を図る。
武器なし、魔法なしの丸腰状態だ。場所は鉱山、隠れるところは多いが地の利が無い自分とここを縄張りにしばらく活動している奴らとでは明らかにこちらの分が悪い。写真を撮ってきたスマホと道を照らし合わせる余裕もなく、ただひたすら走る。逃げ切れても中で迷いそうな気がしたが、今は追っ手を撒くのが先決である。
追いかけてきたのは5人、先ほど火を囲んで話していた人数と合致する。待機していた全員でやってきたということは、追っ手をどうにかできれば安全にことが進められるということでもある。伏兵が居なければの話だが。
どうしたものかと考えながら入り組んだ道を何度も曲がる。左右の分かれ道を前に、一瞬どちらに突っ込むか迷った――途端、足を挫いて顔から地面にダイブしてしまう。
盛大に転んだ音がまたしても響く。転んだ拍子にポケットからスマホが飛び出して、回りながら前方に滑っていった。
かしゃん、と乾いた音を立て、スマホが妙な形の岩にぶつかって止まる。落とした表紙にどこかのボタンに接触したのか、画面が煌々と光っている。
足音がこちらに向かってくる。スマホを拾って岩陰に隠れたが、見つかるのは時間の問題だろう。せめてと目立つスマホの画面を消そうとすると、ステータスガジェットに「MAP」のタブが加わっていた。
こんな時に新機能追加されても。タップしてみると案の定ダンジョンマップのような画面が表示され――ダンジョンマップ?
これだ。現在地、ボス部屋マーク、行き止まりの場所や入り口への道筋も全てマッピングされている。どうやらスマホを各フィールドのメモリーポイントにかざすと周辺のマップが読み込まれ、保存できるというシステムのようである。
このフロアに足音の主が突入した瞬間を狙って、素早く岩陰から走り出る。動く影を見て彼らが再び追ってくるが、追い付かれず、引き離しすぎない距離を保ってマップ通りに駆けた。
ボスマークまであと少し。閉ざされたボス部屋の扉は案の定、仕掛けを解いて開けるようになっている。ざっと扉の前を見渡したところ、周囲に転がっている岩の中で苔のない黒い岩が目に付いた。
ボス部屋の扉脇には不自然にやわらかい土がかかっている部分がある。岩をその上に押して動かすと、スイッチが切り替わったような音が鳴り重い扉が開いた。
あとは岩陰に隠れ、追っ手を待つだけである。
こっちで物音がしたと騒がしい声が複数の足音とともにこちらへ向かってくる。奥で開いた扉を目にした追っ手達は、思惑通りに扉を潜ってボスフロアに入っていった。
全員がボスフロアに入ったことを確認して、スイッチの上に乗っていた岩を再び動かす。加圧式スイッチは元に戻り、扉はあっという間に閉じられた。
「作戦成功っと」
中から男達の悲鳴が聞こえるが、このダンジョンのボスと遭遇したのだろう。殺気立って追いかけ回してきた人間を助ける義理はない。
さて、ボス部屋の扉は中でボスが倒されれば自動で開く可能性がある。万一ボスが彼らに撃破される可能性を考えて、この場はさっさと立ち去るに限る。
ここまででスマホを駆使しまくったが、マップ確認のためもう一度画面を開くと電池残量は変わらず九十八パーセントだった。
そもそも朝家を出た時に携帯の電池残量が百だったのが、昼までの四時間程度で二パーセントしか減らないというのもおかしな話だ。リュータとメッセージのやりとりをしたり、電車の時刻表を調べたりとそれなりに携帯を使用していたのだから、本来であれば草原に来た時点で残量は八十五くらいになっていたはずである。夢のご都合展開ということで、有り余るバッテリーはありがたく使わせてもらうことにする。
それにしても、ここまでで一度も雑魚モンスターらしきものに出くわさなかった。プレイヤーが武器を得るまで雑魚は出ない仕様なのだろうか、盾だけで魔物の群れを切り抜けて武器を得なければならなかった某ゲームの緑色の主人公を思い返す。
気を取り直して、勇者の剣――というか判別アイテムを代々受け継いでいるという種族の住処を目指すことにする。ボスマーク以外これといって目印のないダンジョンマップとにらめっこしながら、これまで進んでいなかったルートを選んで潜っていく。
道中戦が無いのにも助けられながら、先ほどのボス部屋以外のフロアはほぼ全てチェックすることができた。残るひとつの部屋が目の前である。この奥に山を抜ける道があって、そこが件の種族の集落になっているはずだ。
扉は同じく加圧式スイッチで守られており、先ほどよりも少々仕組みが複雑になっていたが解けないほどではなかった。
ゆっくりと開いた扉を潜る。そこに居たのは、巨大な骸骨の飛竜だった。
「あ」
これ確実にさっきの部屋のボスより強い。どう考えても裏ボスだ。初期に来るべきではない階層まで踏み込んでしまっていたことに気付き、血の気が引く。
部屋への侵入者に、骨の飛竜が咆哮を上げる。声帯どうなってんだという突っ込みはさておき、ここにきて絶体絶命である。扉は開いたまま、閉じ込められたわけではない。しかしフロアから出たところで追いかけてきそうな勢いで興奮状態にある飛竜から逃れられる気がしない。
裏ボス戦に丸腰レベル1同然の自分が挑んで勝てるはずがない。飛竜の尾がこちらに振り上げられ、こりゃ死んだなと諦めかけた瞬間、
「ユウジ!」
背後から声が聞こえた。振り返る前に脇をすり抜けて、小さい影が飛竜の尾をはね除ける。
「よかった、間に合って……怪我、無い?」
「……リュータ」
勇者ならこいつだろと思った通り、期待を裏切らない登場タイミングで最高にかっこいい弟分が笑顔を見せた。
「特に大きな怪我はなさそうだね。動ける?」
「あ、ああ」
「じゃあ、おれが戦うから、ユウジは下がってて!」
「え、でも大丈夫か?」
「平気!」
頷いた動きに合わせて、彼の跳ねた黒髪が揺れる。剣を携えているリュータに任せることにしよう。
十五歳の少年に戦わせて自分は傍観というのもなかなか情けないが、こちらは戦闘手段すら持たないのだ。前に出たところで足手まといにしかなるまい。
慣れた様子で敵を翻弄し、骨を砕くように切り伏せていくリュータはまさに勇者のようだ。開きっぱなしの扉付近で彼の戦いぶりを観察する。特に苦戦している様子もない。
ピコン、と手元のスマホから、メッセージが届いた時のような音が鳴った。ダウンロードアプリはお知らせで音が鳴る設定にはしていない。何事かと画面を開くと、ステータスガジェットの仲間欄にリュータが加わっていた。
加わっていたというより、先頭のリーダー枠にリュータの名前が表示されていた。
自分の夢の中でもオレは主人公じゃないんだな、と軽くショックを受ける。オレナンカドーセ。仲間は呼ばなくても来てくれたのでアレではないはずである。
表示されたリュータのステータスは、レベル八十九。はちじゅうきゅう? は? 隣に並ぶ自分のステータスにはレベル一と表記がある。八十九て。この世界でのラスボス撃破適正レベルがどれくらいなのかは分からないが、どう考えても序盤のダンジョンで剣を振るうレベルではない。
ガジェットの表示に呆然となっている間に、リュータは飛竜を叩きのめしてこちらに戻ってきた。レベル八十九は伊達ではないのか、息ひとつ乱れていない。
「ユウジ、どうしたの?」
「あ、おつかれ」
「うん」
手元を覗き込もうと背伸びをした彼に合わせて、スマホを持つ手を少し下げてやる。リュータの職業欄を開いていたが、彼はきょとんと首を傾げた。
「そうだ、おまえもスマホ見てみろよ。こういうステータス画面みたいなのついてるぜ、知ってたか?」
「え?」
中学の学ランそのままのリュータが、ポケットからスマホを取り出した。
「いや、おれのには何も……っていうか、電源自体入んない」
「バッテリー切れか?」
「ううん、昼休みに学校出た時は電池まだ結構……」
彼の手からスマホを奪い取って、ボタンを長押ししてみる。確かにいつまで経っても電源は入らない。
「あー、ガラケーならこういう時バッテリー交換して試してみれるんだけどなあ」
「あはは。でももうユウジと離れるつもりないから、おれ別に見れなくてもいいや」
「そうか?」
彼が穏やかに笑う。今でこそがきんちょの風貌をしているが、リュータは間違いなく将来イケメンになるだろう外見をしている。女ウケしそうな感じだ。とはいえ、自分からすれば懐いてくる近所の犬にしか見えない。
「けどマジ助かったぜ。夢とはいえ骨の竜に食われるなんて想像もしたくねえわ」
「夢? ……ああ、ユウジ、この世界、夢じゃないよ」
「夢だろ、こんなアトラクション体験できる場所うちの近くねえじゃん」
「うーん……まあいいや。ユウジはおれが守るからね」
何か言いたげだったリュータが、一度口を噤んで話を切り替えた。
夢の中の登場人物が夢であることを否定したところで説得力は無い。これが現実だと証明できる要素も無いのだが。
「頼もしいな、よろしく頼むぜ騎士様ー」
彼のステータス画面に出ていた職業は『パラディン』だった。聖騎士、なんかいきなり上位クラスのような気がする。序盤なら普通剣士とかじゃないか。
「ユウジは、ここで何してたの?」
「何って、……勇者の剣を抜きに?」
「ゆうしゃのけん」
「聞いた話だと、この山のどっかに勇者を判別するアイテムを守ってる一族が住んでるんだってよ。おまえも行くだろ?」
「あ、うん」
パーティメンバー確保。骨の飛竜が力尽きて灰塵になった方に足を進めると、リュータが一歩遅れてついてくる。
部屋に積もった灰の山を靴の先で払う。その中からはいかにもレアアイテムらしき剣が顔を出した。
「やっぱな。こいつが裏ボスだったなら二週目とかに入手するようなレア武器落とすんじゃねえかと思ったんだよ」
「なんだろこれ」
「ちょっと待てよ」
スマホのガジェットを開く。持ち物一覧の中に、案の定今まで表示されていなかったアイテム名が追加されていた。
「白亜の剣だってよ」
「なんか強そうだね」
「オレじゃ装備できないみたいだな。リュータ、おまえのその剣どこで調達した?」
「どこでっていうか、んーと、なんて言えばいいんだろ」
難しそうな顔をして、リュータが抜き身のままだった剣を振る。すると何のへんてつもない鉄の剣のはずのそれが、光になって消えていった。
「こんな風に、剣出ろーって思ったら出たんだ。出したり引っ込めたりできるみたい」
「マジかよオレ何も出せなかったわ」
これあれだ。異世界トリップでチート能力を入手した主人公だ。リュータが。オレは一体何なんだ。
「……ん? リュータ、ためしにもう一回剣出してみろ」
「え? うん」
こちらの言った通りに再び剣を生成したリュータが、それでどうするのとばかりに見上げてくる。気にせず、スマホのステータス画面を開いた。
「あー、なるほどな」
「え? え、なに?」
「その剣を出すスキル、MP使ってるみたいだな。魔力値が減少してる」
「そうなんだ」
ついでにリュータのスキル一覧もチェックしてみる。炎を出すらしき名称の魔法、光魔法らしき名称の技、それから回復技っぽい名前のものもずらりと並んでいた。単騎の戦闘力高すぎだろ。
「回復魔法も使えるってことは、魔力は温存しておくに越したことはないな。リュータ、しばらく白亜の剣使っとけ」
「はーい」
武器生成スキルに使われる魔力は微々たるものだったが、せっかく入手した普通の武器があるのだから使わない手はない。リュータに手渡すと、装備欄に白亜の剣が加わった。
「ユウジ、服とかぼろぼろだけど、どこかで転んだ? 回復魔法使わなくて大丈夫?」
ボス部屋の奥、開いた新たな扉に向かう。隣に並んだリュータが、こちらを心配げな目で見つめてきた。
「ちょっと見てみたい気もするけど、こっから先何が出るか分かんねえしな。擦り傷と打撲程度だろうから、どうしても歩けなくなったら頼むわ」
「そっか。じゃあおれも魔法は使わないで戦うようにするから、無理はしないでね」