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お荷物くんの奮闘記  作者: seam
19/26

act.19

「国を救うためだ。ご協力いただけるかな」

「は……はい。私に出来ることであれば」

 丸いものは顔を引き締めた彼女に手渡される。彼女はしかと受け取りましたとばかりにガチガチに固まっていたが、掌に乗っているのは明らかにマジックアイテムではない。

「ノア、それ……」

「大賢者様の書物を拝見した際に制作したものです。これは異世界の呪術的アイテムだと、作り方まで端書きされていらっしゃったではないですか」

 師匠そんなもん残すなよ。呪術的アイテムって。いやダイゴの方がユウにふざけて変な教え方でもしたんだろうか。リュータと二人で密かにアイコンタクトを送り合う。

 てるてる坊主。

 うん、てるてる坊主だね。

「中には魔力増幅の薬草で煮て染めた布を、外の生地には魔法陣の刺繍を施してあります。魔法陣はそれぞれが術式になっており――」

 いやそれ雨の日にティッシュで作るやつだよ。明日天気にしておくれって願うやつだよ。喉元まで出かかった突っ込みをかろうじて飲み込んだ。思ったままを言葉にしようとしたリュータの口も塞ぐ。知られてはならない。ものすごい真面目に頷く彼女と、目を輝かせて解説するノアのためにも。

 ノアの話を要約すると、あの豪華なてるてる坊主は通信アイテムのようだ。あれを使って、魔力の波長を合わせると無線機として使用できるらしい。魔力を遮断するようなフィールドの場合は圏外で使えなくなりそうだが、そうでなければ簡単な携帯電話になる。この時代に無線機やら携帯電話やら、離れた相手とほぼリアルタイムに話ができるというのはどこの国でも欲しがる技術ではないだろうか。情報が勝敗の鍵を握る戦いにおいて、必要な時に上官に確認が取れるわけだ。やっぱりその辺の普通の国にノアはじめとする大賢者ファンクラブさんらを匿ってもらうわけにはいかなさそうである。

「何かあればすぐにお知らせします。皆様、お気をつけて」

 彼女もすっかりその気になってしまっている。まあ、戦えるメンバーが増えるのはありがたいからいいんだけど。

 スクロールを二枚手渡して彼女には先に戻っておいてもらう。一枚は予備だ。それからすぐにフィールドマップを確認しながら、移動魔法の構成に入った。

 足下に広がった魔法陣に三人を呼ぶ。転移した先には、ヴェルターの言っていた通りの古びた建物が森の中に建っていた。

 師匠からの記憶ではここまで森と一体化はしていなかったはずだが、経年劣化だろうか。壁には蔦が伸び、入り口は草で生い茂っている。かき分けて扉を開けるしかなさそうだ。

「昔と変わってないなら、この神殿のダンジョン攻略は通風孔を開けたり塞いだりで謎解きをしていくタイプだ。マッピングしていきたいから、先に進みながら色の違う壁があったら教えてほしい」

 三人にあらかじめ伝えておき、扉を開ける。外観こそ古びていたが、内部はほとんど変わりはない。

「えっと、確か最初の石版に書いてある図を覚えておいてその通りに風を流すんだったよね」

「スマホで写真撮れば覚えとく必要ねえけどな」

「ユウジずるい」

「ゲームじゃないんだしいいだろ」

 師匠の頃は確かに石版の図をメモしてから先に進んでいたようだが、せっかくあちらの世界から文明の利器を持ち込めているのだから使わない手はない。

 入ってすぐ、入り口付近に設置された石版を写真に納める。問題なく写真が保存できたことを確認のうえ、ステータスガジェットからダンジョンマップを起動する。それから石版の位置を四人がかりで少しずらした。がこんと音がして、わずかに下がった床に石版の根本がはまる。

「左の通路に次のフロアへの扉があるけど、仕掛けを解かないことには強風で先に進めないようになってる。まずは右に行くぞ。リュータ左には行くなよ」

「い、行かないよ分かってるよ」

 昔は、仕掛けを解かずにウリエルがそのまま左へ進んで突風に吹き飛ばされて、風下にあった針山に突っ込みかけたのだったか。ユウによって寸でのところで助けられていたが、圧倒的な強さを誇る天使で勇者なわりに彼は「うっかり」でよく死にかけている気がする。

 右の通路を進んだ先に、固そうなレバーがあった。右向きになっているこれを一旦真上に向ける。真上にすると左の通路の風は止み、今度は入り口の向かいにあった奥から風が流れ出し、左右の通路を分断するようになっているのだが、石版によって風が防げるため石版から入り口側を通れば通行が可能なのだ。

「内部を知っているのか」

「んー、前こいつと一緒に来たことがあって」

 自分たちの仕掛けを知っている様子を訝しんだヴェルターに曖昧に返す。間違ってはいない。

 入り口前の石版まで戻り、石版よりも外側を通って左へ進む。左に流れていたであろう風はぴたりと止み、人が通れる大きさの通風孔の先に階段が現れた。

「ここから進むのが正解だ。階段には雷属性の魔物が出るから気をつけてな」

 階段を上り始めてすぐ、上階からかつんかつんと音を立ててリビングウエポン――いわゆる武器にかりそめの命が宿った魔物が三体下ってくる。雷の魔力で浮遊と自動を可能にしており、雷属性の魔法を放つこともできる強敵だ。前衛は攻撃を防ぎつつ、武器の真下に詠唱魔法陣が展開されたら妨害に入らなければならない。

「私も前衛に入りましょう」

「悪い、ノア頼む」

 足場の悪い上り階段で、三人がそれぞれ前に出た。戦闘を早期に終わらせるには、前衛が時間を稼いでくれている間に地属性の広範囲魔法で一気に決着をつけるのが最善の方法だが。

 やばい、練習する暇なかった。

 空間を限定して架空の岩雪崩を起こす地属性上級魔法。師匠から引き継いだおかげで、知識としては頭に入っている。限定された空間が術のモーションの終了とともに解除されれば岩は消えるが、物理ダメージは受けるというもの。大賢者のオリジナルスペルではなく魔法使い職の上級者には一般的に広く使われている魔法だ。

 咄嗟にスマホを確認してみる。頭に知識はあるのだが、ステータスガジェットには表示されていない。オリジナルスペルでもないのに表示されていないということは。

 うわめんどくせえ! 習得してない扱いか! そりゃそうだよな攻略本買ってもゲームデータのレベルは自力で上げなきゃそのままだもんな!

 これ習得してないのにいきなり使えたら天才なんじゃ? と思わなくもなかったが、そんな危ない橋を実戦で渡るわけにはいかない。というか失敗したらめちゃくちゃ恥ずかしい。

 思考を切り替えて、今ある手札で乗り切ることに重点を置こう。水属性は避けるとして、火属性または地属性の地属性の魔法で自分が使えるものを頭の中で並べてみる。通常術技とオリジナルスペル、どちらにも効果の高そうな術が思い浮かばない。

 いや待てよ。単純に雷はまずいからという理由で水属性を避けていたが、氷ならどうだろう。確か純水は絶縁体、少しでも不純物質が混ざると導体になるが、溶けない氷ならイオンが動けないとかなんとかでほとんど電気は通さなかったはず。常温で溶けない氷の再現はできないが、魔法で作られた氷なら溶け出すまでに時間がかかる。

 もともと圧縮向きの属性であるがゆえに、単体攻撃用の氷結魔法の消費MPは低い。これだ。さっと初歩の氷結魔法を圧縮して構成し、ノアが対峙している魔物に撃ち出した。斧は凍り付き、その場にごとんと落下する。大きな音を立てて階段を転げ落ちていった。

「この方法ならショートカットできるな」

 続けてあとの二体にも氷結魔法を撃つ。大技を習得していなかったことに気付いていなかったというトラブルが好転したおかげで、僅かな消費MPで短時間決着となった。でももうこんなハラハラするのは勘弁だ。後でちゃんとオリジナルスペル以外も練習しておこう。

「広範囲魔法を使われるかと思っておりましたが、まさか凍らせて戦闘を回避するとは……!」

 うん、使えなかっただけなんだけどな。単純な戦法にも関わらず、ノアが大げさに感動している。こちらもだいぶフィルターがかかってるようである。リュータは事情を知ってか知らずか、嬉しそうににこにこしている。そしてこちらの行き当たりばったり具合がなんとなく読みとれたのか、ヴェルターが生暖かい目で見つめてくる。おまえ言うなよ絶対言うなよ。

「今の戦闘で怪我は? 先に進んでも平気か?」

「みんな大丈夫だよ」

 リュータが二人を振り返って答えた。見たところ問題なさそうである。

 引き続き階段を上り始めたが、それ以降次のフロアに到着するまで魔物には遭遇せずに済んだ。次のフロアは謎解きだ。一階にあった石版の情報を使うことになる。ここでメモや記録をし損ねていると、魔物の出る階段を引き返すことになるのである。文明の利器のおかげでそんなヘマとは無縁だ。

 開けた広い一室にたどり着く。もと来た背後の階段以外に出入り口のないこの部屋には、絵画やカーテンなどが壁にかかっている。

 ここは石版の下の方に描いてあった図の通りに、風を的確に流して最後の通風孔にまで送り込めば向かいに階段が出てくる仕組みだ。

「絵画やカーテンを捲って、色の違う壁を探すぞ。色の違う壁は壊せるようになってる。壊すとそこは通風孔になって、風が吹き込めば別の通風孔から風が出て行く。色の違う壁を全部壊すとうまく行かないから、どこに色の違う壁があるかの位置を把握してから壊すようにしたい」

 この手のダンジョンのお約束として誤って壁を壊しても一階に戻ってもう一度この部屋に入り直せば修復されていたりするのだが、その原理はいまいち分からないので突っ込まれない限りは明かさないことにしておく。その場の全員が頷いて、各自四方向の壁を調べ始めた。

「ユウジ、右の方、五個あったよ」

「右っていうか東な」

「あ、うん、東」

 リュータの報告をもとに、スマホのダンジョンマップをスクリーンショットして目印を書き込んでいく。図の形は八角星だ。入り口のすぐ左脇に場所に通風孔があったのは確認済み。南の入り口を図の下に置いて、南南西を基点に直線上にある北北西の通風孔へ風を通すようになっている。ざっくり八角星になるよう指でなぞっていく。基点さえ分かれば、おおよその通風孔の位置は目星がついた。

 四方向にある色の違う壁の位置を調べ終えて、壊すべき箇所をリュータに伝える。全角を壊し終えると風が流れ出して、部屋の北側に扉が出現した。

「またしばらく魔物の出る階段だ」

 石版に描かれた図はあと四つ。残りの四フロアをクリアすれば、祭壇のある最上階まで辿り着けるはずである。


 祭壇の番人魔物は神殿が一度クリアされている場合は復活しないようだ。このあと重要な天使戦が控えていることを考えると、塔の謎解きと雑魚魔物の相手をするだけで最上階の祭壇のある部屋まで進むことが出来たのはありがたい。

「祭壇というのはあれか。天使を呼ぶ手段は用意してあるんだろうな」

「いや……えーと」

 ヴェルターへの言葉に困って、とりあえず祭壇に歩み寄ってみる。なんとなくこれかな、という天使の召喚方法の推測はあるのだが、確証がなかったので一人でこっそり試しに来ようと思っていたのである。

 祭壇に触れようとした時、後ろから走ってきたリュータが背中に飛びついた。

「わっ!? と、リュータどうした」

「不用心すぎ。またいきなり攻撃されたらどうするつもりだよ」

「あ……ああ、そっか。そうだな、ありがとう」

 リュータが隣に付いたままで、腕輪の固定された方の手を祭壇にかざす。あれからまるきり出てこなくなった師匠の住んでいる腕輪だが、この腕輪はもともと水雹の神殿の迷路の奥で見つけられたものだ。水雹の神殿で天使を呼んでしまった時のイレギュラー要素を挙げるとするならこれだろう。この腕輪が各神殿それぞれでその都度発掘しなければならないものなのか、それとも全神殿共通なのかはこれで分かるはずだ。

「何も起きないな。やっぱりこの神殿にも似たようなキーアイテムが――」

「ユウジ、危ない!」

 リュータに強く腕を引かれ、一緒に脇へ転がった。庇ってくれたリュータの肩越しに、翠風を纏った天使の第二撃が視認できて咄嗟に魔法による防御壁を展開する。リュータの動体視力に助けられた部分も大きいが、これだけ近くにいて当たらなかったということは、一撃目は回避可能な攻撃だったに違いない。次いで降ってきたのは魔法による稲妻だった。魔防御の低いリュータやヴェルターなどの前衛が受ければ大ダメージだったろう。

「よかった。今度はちゃんと守れた」

 安堵の表情で身を起こす彼に、オレも、と小さく返す。意味は伝わらなかったかもしれないが、独り言に近いので改まって言うつもりはない。

 第二撃目と次の攻撃との間は少しだけ空くようだ。フロア入り口から武器を手にこちらへ駆けてくるヴェルターとノアの元へ二人で走り寄り、合流する。

「あいつを倒し切れれば東国の呪いの解呪もできる。準備は?」

「問題ない」

「ユウジ様のため、必ず仕留めて見せましょう」

「ユウジ」

「ん?」

「死なせないよ」

「……ああ。頼りにしてるさ、勇者サマ」

 続けて繰り出された攻撃は、どうやっても回避不可能だろうという高速の矢羽だった。レベル・HPともに群を抜いて最弱かつ後衛の自分がまともに食らってもダメージ量はそうなかったことを考えれば、回避不可の弱攻撃といったところか。致命傷を負うことはなさそうだ。

 敵は強いといっても一体だけ。リュータとヴェルターが前に出て前衛ラインを守るようになると、ノアは自然と後衛に付くことになる。ダメージソースはノアに任せて、自分はサポートにMPを回した方がよさそうである。防御力上昇と魔防御上昇のバフ魔法を発動させ、それぞれ後衛と前衛に重ねがけする。

 途端、狙いすましたかのように天使が魔法を発動させた。攻撃魔法ではなく、ダメージを食らわなかったそれが気になってスマホのステータスを確認する。せっかくMPをかけて用意したエンチャントがすべて解除されてしまっている。

「うわ、バフ消しかよ!」

 バフ消し持ちならうかつにエンチャントをかけないほうがいいのだろうか。次の攻撃が防御上昇なしで素受けできるのか不安が過ぎった。天使の羽根を中心に光が集まる。

「!」

 一際大きな閃光で放たれた光属性の攻撃はフロア全体を焼く攻撃力で、前衛後衛ともに全員が倒れることになった。耐久力の乏しい自分はフロアの隅まで大きく吹っ飛んでしまい、部屋の壁に背中をぶつけて一瞬息ができなくなる。

「……ユウジ!」

「バカ、死んでねえから前見ろ!」

 再び繰り出された攻撃は単体攻撃。こちらに気を取られたリュータが不意打ちを食らう。

 リュータの残HPが心配になり、回復魔法を使いながらステータスを再度確認した。前回と前々回の攻撃で、リュータのHPは三分の一未満になっていた。高レベルの彼でこれなら、あとの三人が回復無しで二度攻撃を受ければ確実にお陀仏だ。特に自分は一撃で即死な気がする。

 全員が大ダメージを受けている今、全体微量回復の魔法を重ねて使うよりは個々人に単体大回復の魔法をそれぞれかけた方が効率は良い。しかし、それでも回復が間に合わない。

 敵のHPは三人の攻撃によって地道に削れていっているようだが、効果の高い決定打を繰り出せずに敵の攻撃を妨害できないでいる。前衛から先に回復を済ませ、次にノア。最後に自分に回復魔法をかけようとしたところで、天使が次の攻撃モーションに入った。単体攻撃ではなさそうだけど、今あのものすごい全体攻撃が来たら死ぬ。回復魔法を急いだが、一歩間に合いそうにない。

 放たれたのは初撃と同じ、よく見ていれば回避可能な通常攻撃だった。リアルラックの勝利。痛む身体を転がしてどうにか回避に成功し、回復魔法で起き上がる。

 ステータスを確認してHP残量を見る。四人ともどうにか全回復に持って行くことができた。HPはいっぱいにしておかないと、リュータ以外の三人は単体強攻撃であっという間にピンチに陥りかねない。

「ここまででMP空だな……」

 MP回復薬を口の中に放り込む。天使がまた攻撃モーションに入り、魔法によって稲妻が繰り出された。前衛に向けて放たれたそれらを、二人が寸でのところで回避する。雷撃を回避するってすげえな、と前衛の身体能力の高さにしみじみ感動しつつ、防御力上昇のエンチャント魔法を再び構成する。

 バフのかけなおしの直後、天使による回避不可の弱攻撃が襲ってきた。バフのおかげで被ダメは一桁だ。このままバフ消しのことは忘れてくれるとありがたいのだが、と思った直後に敵がバフ消しを使用した。くそまたかけなおしかよ。

 二連続の強攻撃は誰が受けるにしても防御力上昇の類のバフはかけておきダメージ量を軽減したい。しかし、相手にはバフ消し技がある。バリアーの類の全解除がいつ使われるのか分からない限りは――いつ使われるのか?

「……そういえば」

 天使を召喚して一回目の攻撃は、通常攻撃だった。こちらは後衛含め、誰が狙われても全員が回避可能なもの。二回目が属性攻撃。雷は魔防御の足りない前衛を狙ってくるようで、魔防御の高い後衛が代わりに受けられればダメージにはならないのを知っていて攻撃を仕掛けているようだった。三回目に回避不可の通常攻撃がきた。防御最低の自分でもダメージは僅か。そして四回目でバフ消しが来る。被ダメは無い。

 ここまで、自分が吹っ飛ばされて以降の敵の行動パターンと序盤の戦闘で食らってきた攻撃とで順序が合致している。

 ということは、ひょっとして。確信めいた予想にたどり着くと同時に、急ぎ全体にバフをかけ直した。

 次はバフ消しは行ってこない。天使は気にした様子もなく、光による全体攻撃を繰り出してきた。防御力上昇で被ダメ量は軽減される――はずだったのだが、先ほどと同じように全員がなぎ倒される。ステータスを見ると、HPの減り方が前回と全く同じであることが分かった。

 ものすごい光の全体攻撃は、まさか固定ダメージか。攻撃モーションに入ってから防御バフが構成できたということは、タメに五秒かかっている。

 急ぎ全体回復を三度重ねがけしてある程度のHP量を保つ。予想では次に来るのは、最も被ダメの多い単体攻撃だ。バフはかかったままなので少しくらいは軽減されるはずだが、あれも固定ダメージなら次の週が回ってくる前に決着をつけなければならなくなる。

 狙われたのは自分だった。固定ダメージにしろただの強攻撃にしろ、自分のHPではオーバーキルすぎる。バフがかかったHP全快状態でも即死だ。せっかく攻略法が判明したかもしれないというところで戦線離脱とは、と歯噛みしたところで、前線にいたリュータがこちらまで駆けて目の前に出た。

「リュータ!」

 強烈な単体攻撃はリュータに被弾し、攻撃の勢いでこちらに吹き飛んできた彼をどうにか抱き留める。

「……言っただろ。死なせないよって」

 腕の中そう笑って、リュータがふらつく足で離れた。

「ああ。ごめんな」

 単体高回復魔法をかけてHPを九割程度にまで保たせる。

「攻略法が分かった。天使の攻撃にはパターンがある。敵の攻撃の予想するから、それに沿って戦ってくれ」

 広範囲回復を連発したおかげでまたもMPが尽きたが、おかげで仕様はだいたい理解できた。本音を言えばもう少し検証したいところだが、こちらはMP回復薬を消費しきったらそれで終わりなのだ。

 タメ八秒のあの強烈な単体攻撃までを一区切りとして、攻撃回数は六回。

 一回目が通常攻撃。こちらは後衛含め、誰が狙われても全員が回避可能だ。予想通り、回避可能な比較的遅いモーションでの攻撃が再び繰り出される。

「避けたらヴェルターとリュータは防御態勢に入ってくれ! ノアはすぐ攻撃だ!」

 後方から声を張り上げる。迷いなく助言に従ってくれたおかげで、二回目の攻撃も回避できたようなものだ。

 二回目の属性攻撃は基本的に、魔防御の足りない前衛を狙ってくる。防御態勢に入ることでおそらく、天使は前衛二人ではなく防御しようとしない後衛二人を狙うしかなくなる。魔防御の高い後衛が代わりに受けられれば、この属性攻撃はダメージにはならない。三回目の通常攻撃はそもそも回避不可なので構える必要がない。防御力最低の自分でもダメージは僅かだった。

 ノアに属性攻撃が向けられ、ほとんどダメージを受けずにやり過ごしたのを確認して、もう一度声を上げる。

「次の攻撃は弱い、全員で反撃だ!」

 言いつつ、この場にいるのがゲーマー仲間なら「次一タゲ」「オレ受ける」「全タゲ前にダウン取ろう」「ぶっぱいくわ」で通じるのになと苦笑いする。まるで突然指揮官にでもなったような号令が、やってて自分でちょっと恥ずかしい。が、リュータはともかくヴェルターやノアにはこうでもしないと通じないのである。仕方ないと割り切って、この場は指揮官でいようと思う。

 三人が攻撃に集中している三回目、自分はバフがけの準備を始めた。次の四回目でバフ消しが来るからだ。被ダメは無いが、六回目に来る攻撃が痛いので防御力上昇エンチャントの類はかけなおしが必須である。

 パターン通り、四回目に繰り出されたのはバフ消しだった。直後にバフがけをし直して、スマホを確認する。天使のHP残量はもう少しであと半分になるようだ。

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