act.15
陽が高く昇りそろそろ昼かという頃、前方には海に面した国が見えてきた。
「あれか」
堅牢に閉ざされた門が、部外者を拒む東国らしい。今回は使者に案内されての入国だから問題ないだろうが、そうでもなければ立ち入る機会はなかったかもしれない。
「結構早めに着いたね。おれ達でなんとかできるならいいんだけど……」
先を歩くリュータが言って振り返る。途端、潮の香りに満ちた晴天だったはずの視界が急に色をなくした。
「え?」
色を失った世界は、まるでテレビ画面の砂嵐のようにモノクロのノイズをまき散らして雑音をぶつけてくる。砂嵐の粒子は目を凝らして見ると一つ一つが無数の文字列で、理由のない悪寒が背を掛け上がった。心霊番組を見ている時の薄気味悪い恐怖に近い。一歩先に居たはずのリュータも、後ろを歩いていたヴェルター達も砂嵐に阻まれ見えなくなってしまっている。
「リュータ! ヴェルター! 聞こえるか!」
呪いの作動範囲って、こういうことを指していたのか。策もなしに入り込んでしまったのを今更後悔しても仕方ない。耳障りな雑音の中で声を張り上げてみたが、自分の声さえ聞こえづらい現状、こちらの声が彼らに届いているとは思わない方が良いだろう。すぐ近くにいたリュータだけでも見つけられないかと一歩踏み出したその時、視界が急に色を取り戻した。
「ビビった……何だったんだ今の」
安堵も束の間、周囲がやけに先ほどよりも暗いことに気付いてしまう。どう見ても、日のあたる海岸沿いの景色ではない。
「……どっかの遺跡か?」
そしてやはり、周囲には誰もいなかった。また強制単独行動ルートかよ。現在地をスマホで確認しようと画面を点灯させると、その明かりに浮かんできたのは――、
「げっ」
自分を取り囲むようににじり寄る、人魚型魔物の大群だった。
人魚といってもおとぎ話に出てくるようなかわいらしい少女などではなく、いや確かに上半身は女性型ではあるのだが、下半身の魚の部分に大量の触手とぽっかり開いた大きな口がある。上半身にくっついている女性の頭のような部位は頭として機能しているのではなく、魚の部分が本体なのだろう。
人魚の姿で油断した旅人を触手で捕らえて牙のずらりと並んだ口の中に放り込む……恐らくそんな感じの捕食手順で間違いない。
魔物の巣になっているらしい遺跡の中になど、わざわざ足を運ぶような人間は居まい。つまり自分は、呪いだか何だかの作用によって突如巣の中に放り込まれた餌も同然なのである。
遺跡の中の酸素量も分からない、出口もまだ分からないといった状態で火属性の魔法を使えば酸欠決定だ。他三属性のうち、水棲生物らしき人魚に水属性の魔法は効果が薄そうである。となると、今選択すべきは風属性または地属性。
魔力を風属性に変換し、雷の初級魔法を構成する。襲い掛かってくる前に周囲に雷を放つと、焼け焦げて倒れ伏す仲間を踏み越えて後続が飛びかかってきた。
こちらの抵抗を警戒して攻撃してこなかったのではなく、少ない獲物を誰が捕らえるかで牽制しあっていただけだったようだ。競争相手が倒されたことで我先にと飛び出してくる魔物達を迎えうつには、こちらの魔法の構築スピードが少しばかり遅い。
これはやばい、と後退りしかけたその時、自分よりもいくらか小さな背中が前に立ちふさがって武器を一閃させた。
リュータか、と喜びかけて、その後姿に考えを改める。少年が手にした大斧には、見覚えがある。
「レツ!」
「誰かと思えば……ユウジまた魔物の大群に囲まれてんのな」
「好きでこんなんなってるわけじゃねえし、だいたい今回は偶然だ」
世間話の口調でのほほんと会話しながらも、レツの手によって人魚がざくざく葬られていく。及ばずながら再び雷の魔法を撃つと、彼がひゅう、と口笛を吹いた。
「ユウジの攻撃魔法見んのはじめてだ! また会えて嬉しいぜ。リュータは?」
「残念ながら不在だ。……ってかレツおまえなんでこんなところにいるんだ」
「なんでって……この遺跡、おれの知り合いが気になってるって言っててさ」
外出るついでに下見しといてやろうかなと思って、と彼が何体目かの人魚を切り伏せて息を吐く。
「ま、いいや。とりあえずこいつら先に片付けっか!」
実力の確かな前衛がいるのであれば、この場の勝利はほぼ確定だろう。そうしたら次は遺跡からの脱出だが、調査目的で入ってきたらしいレツに聞けばあちこち歩き回ってマッピングする必要もなさそうだ。一時はどうなることかと思ったが、なんだかんだでリアルラックがうまいとこ良い仕事してくれているようである。
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遅いなあ。
帰ってくる約束の日を一週間も破ってなお連絡ひとつ寄越さない恋人に思いを馳せながら、今日は帰ってくるだろうかと二人分の食事を作っては無駄になるというルーチンワークを何度繰り返したことだろう。ついて出る溜め息とともに窓の外を見遣れば、大粒の雨が降り始めていた。
運命の時を除いて不死身となった彼が、そこらの敵にやられるわけがないので身の危険に関しては一切心配していない。していなくても、つまらないものはつまらないのだ。
ねえ、そろそろ君が買ってきてくれた紅茶、切れちゃうよ。
一緒に居られる時間はきっともう残り少なくて、なのに相変わらずの道草癖がまた彼らしくて憎めない。彼の側にいたいのはただの自分のわがままだからと、何か用を作らないと強く言えないこの性格が原因なのも分かってはいるんだけど。
窓を殴るような激しい雨が強風とともに吹き荒れる。こういう天気だと気持ちが後ろ向きになりやすくて駄目だな。桟に窓板を引っ掛けようとして、土砂降りの中で何やら大きいものが合わせて降ってきたのが見えた。人だ。
外衣を被って人の落ちてきた場所まで駆けつけると、全身黒い服で、同い年くらいの外見をした少年が目を回していた。
「あの、大丈夫……?」
驚くべきことに外傷が一切無い。嵐の中でもものすごい音が家まで響いたことからして、かなりの高度からの落下だったような気がするのだが、内臓も骨も見た限りでは問題なさそうな様子だ。
少年がふらつきながら、だいじょうぶ、と答えてくる。
「えっと、このまま外に居たら風邪引いちゃうよ。家に入りなよ」
「ありがとう」
落ちてきた人の手を引いて、一旦家の中まで連れてきた。少年はやはり特に怪我が痛むような様子を見せない。屋内をきょろきょろと見回して、それからこちらと目を合わせる。
「君は?」
「ぼくは、カイン。すごい高い場所から落ちてきたみたいだけど、大丈夫だった?」
「ああ、うん。平気だよ」
平気なのかあれで。不思議な人だなあ、などとのんびり考えながら、びしょぬれの彼にタオルを手渡す。
「ありがとう。カイン、ここはどこ?」
「ここ? 北方山脈の麓だよ」
「北……また変なところに飛ばされちゃったのか……」
ひょっとしてユウジも、と少年がぶつぶつ呟いて、あっと思い出したように声を上げる。
「ねえ、おれの他に誰か一緒に落ちてこなかった? おれ、東国に向かって四人で旅してたはずなんだけど」
「君一人だったけど……東国? 今あそこは危ないよ」
「危ないって?」
「あちこち自然発生した転送トラップだらけで、たとえば家で寝てても起きたら遠く離れた場所で、魔物の巣の中だったりするんだって。住民は国に留まらなきゃいけない理由のある人以外みんな国外に避難してしまって、国の存亡自体が危ないって聞くよ」
「そうなんだ……じゃあおれも、その転送トラップに一人だけ引っかかっちゃったのかな」
東国に身内でも残してきてしまったのだろうか。やけに深刻そうに俯いて、それからタオルありがとうと少年が踵を返す。
「ちょっと、どこ行くの?」
「みんなのところに戻らなきゃ」
「だめだよ、やめたほうがいい」
「それでも行かないと」
「ここから東国まで、歩いてたら一週間以上かかる。それもこんな前も見えないような嵐の中で、無事に辿り着けるわけがない」
彼の手を掴んで引きとめる。否引きとめようとして、自分の非力さ故か容易く引きずられていく。危険を知らせてもなお留まろうとしなかった彼に、ふと思い立って問いかけた。
「地図はあるの?」
「……あ、持ってない」
ようやく止まってくれた。
「あはは。いいもの用意してあげるから、せめて嵐が止むまで待ってなよ」
「そうだね」
「……そういえば名前、聞いてなかったね。君のことは、なんて呼べば良い?」
「ごめん、おれ天城竜太」
「アマキ……リュウタ?」
「リュータでいいよ。名前はそっち」
自己紹介すらしていなかったのを思い出したのか、リュータはばつがわるそうに視線を逸らした。
リュータ、か。ファミリーネームが先に来ている。
「カインはここに住んでるの?」
「うーん、仮住まいって感じかな。ちょっと連れの仕事でここに来てたんだけど、一度出てっちゃうとなかなか帰ってきてくれなくて。一人で暇だったんだ」
「そっか。その人もきっと嵐で帰ってこれないんだね」
「そうだといいんだけど、なんかぼく忘れられてないかなあ」
大仰に溜め息をついてみせると、慰めの言葉でもかけてくれようとしたらしいリュータの腹が盛大に鳴った。
「あ」
「お腹空いてるんだ? ごはんにしよっか」
「えっ、悪いよさすがに」
「あのひとが次いつ帰ってくるのか全然分からなくてさ。毎日作りすぎて無駄になっちゃうから、よかったら食べて手伝って」
「う、うん……」
「……たぶん、もうそろそろ近くまで来てる気はするんだけどね」
いつも作りすぎて寂しい思いをするから、今日は無駄にならなくてよかった。リュータに感謝だ。
それが、歓迎できない出会いだったかもしれないなんて、今は考えない。
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東国を目前にして、先を歩いていたユウジとリュータが突然ノイズがかって消えてしまった。残されたノアと自分で東国の使者を問い詰めたが、このような現象が国外――門の外で起きたことはこれまで無かったのだという。呪いの作動範囲というのも、ワープゾーンのことを言っていたのではなく言葉通り感染と侵食の意味で警告を出していたらしい。
これまでは国内、それも門の中において限定的にワープゾーンが自然発生していた。転移先は森の中から海の底までどこになるのか皆目見当もつかないから、安心して眠れもしないと国民の大半が門の外へ避難してしまったそうだ。これも蔓延した呪いとやらの影響だったらしいが、今回の件は彼にとっても予測外の事態だったようである。
「まさか国外にもワープゾーンが生成されるとはな……大賢者様はご無事だろうか」
ユウジの身を案じるノアの口ぶりに思わず顔が引きつる。
「その呼び方はなんとかならんのか。虫唾が走る」
「おまえに指図される筋合いは無い、ベルなんとかとやら」
「ヴェルターだ。……全く、貴様とはつくづく相性が悪いようだな」
よりによってこの組み合わせで残されるとは。気が合わないながらお互い同時に溜め息を吐いて、どうしたものかと思考を巡らせる。捜索か待機か、はたまた先を急ぐか。……なんにせよ、転移先が人の生存できる場所ではない可能性もあるということは、さほど時間もなさそうである。
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えーとこれどういう状況だ。
人魚型魔物の掃討を終え、いやあ助かったとその場に座り込んだ、そこまではよかった。大斧を床に放ったレツがこちらに近付いてきたから、少し休憩でもして遺跡の構造を訊こうと何とも思わずスマホを眺めていると、つい先ほどまで一緒に戦っていた相手に押し倒されたのだ。
「レツ? なんだよいきなり」
「え、なんだよって、わかんねーの?」
お互いに顔を見合わせて首を傾げる。こちらに乗り上げているレツの方はすぐ合点がいったとばかりに手を打って、そうかと口にした。
「リュータのやつまだ手出してねえんだ」
「なんでリュータの話……おい待て何の冗談だ」
彼の様子があまりにいつも通りだったから、油断していた。気付けば両手が頭上にまとめて縛り上げられている。レツの額から先ほどまで着けていたバンダナが消えているから、恐らく手を縛るこれは布だろう。
「やー、おれユウジのことすげえ気になっててさ」
「はあ」
「最初っから。会った時から気になってたんだぜ。だって」
見た目通りの少年と思えない手つきで、頬から首筋が撫でられる。
「……おれが倒した旧魔王と全くおんなじ顔してんだもん」
明るい声色で、彼が楽しげに笑った。
その瞬間、師匠によって見せられた過去の映像がフラッシュバックする。身の丈ほどの大きな斧を振りかざして、決死の表情で切りかかってきた少年勇者の幼い顔と、目の前の「レツ」の顔が、重なる。
「転移魔法も、あれは旧魔王が開発したモンだしな。魔王復活かってすげえテンション上がったんだよ」
見た感じ他の仲間もいねえみたいだし、今がチャンスかなと思って。レツがのうのうと話すのを聞きながら、頭はこの場を切り抜ける手段の試行錯誤に移った。本能が、彼を危険だと告げている。
「復讐しに来るの楽しみにしてんのに全然知らねえって顔するし、弱いフリしてどういうつもりかって思ってたら」
はじめから、彼は敵だったのだ。同じ日本人同士でありながら、ずっと。
「まさかホントに転生しただけだなんてな。あの魔王が無策のまま死ぬわけねえって警戒してたおれが考えすぎだったってか」
期待はずれだったと言うわりに、面白そうな笑みを崩さない。レツの手が服の上から身体を撫で回し始めてようやく、これからなされる行為が魔王の転生体の始末でもなんでもなく、性欲を解消する目的のそれであることに気が付いた。
「なに青褪めてんの。女じゃねえんだからどうせ一回も二回も変わんねえだろ。……なあ、試させろよ。天使サマを虜にする身体」
突然こんな場所に飛ばされて魔物に襲われ仲間と再会、さらにその仲間が実は仇敵でふん縛られるも殺されるわけではなく何故か今から掘られるなどという怒涛の展開に頭は正直もうパンク寸前だが、だからこそ頭の片隅で思考が冴えていく。
目的が始末でないなら、逃走手段を考える時間はある。
遺跡内部がどうなっているのか、そもそもここはマップ上どのあたりに位置するのかすら分かっていないから、例の脱出魔法を使ったとしてもとりあえず遺跡の外へ転移、なんて真似はできない。
マップ上の位置が分からなければ座標指定も難しい。牢から脱出できたのは、魔法の構成中手元のスマホから座標をいつでも確認できたからである。両手を縛られている以上、スマホのチェックが必要な魔法は使えない。
上着がはだけ、シャツの中に彼の手が差し入れられる。
両腕が使えなくとも、単純な攻撃魔法なら使用可能だ。問題はそれが魔王級の力を未だ持っていると思しきレツに対して通用するかどうか。先ほどの戦いでMPを半分ほど消耗していて、大技は出せそうに無い。ここから斧が放られた場所までなら、レツの速さであれば目測二秒で武器を回収しこちらに切りかかることも可能だろう。
魔法の一発目が効くとは思わない方がいい。身体の上からは退いてくれるだろうが、制限時間は二秒。両腕が使えない状態でこちらが体勢を立て直して二発目の魔法を繰り出せるか。難しそうだ。
あとは地属性魔法でこのフロアに高負荷をかけて彼を一時的に動けないようにするか、と思いかけて、既にマウントを取られている状態でそれをやってしまったらいくら術者対象外とはいえ自滅行為であることに思い至る。一緒に潰れる。
レツに当てるつもりで撃つのではなく、周囲のどこかに撃って彼だけ隔離できないだろうか。
素肌に彼の舌が触れる。怯えるふりで顔を逸らし、彼の背の向こう側に何があるかを確認する。大振りの柱が二本。人魚型魔物の骸の山。それからどこかから流れ込んできているらしい水辺に、こちらはかわいらしい少女な方の人魚像。等身大サイズだ。レツにぶつけようとしていると見せかけて背後の障害物を狙うには、どの角度で何に向けて撃つべきか。
直線に倒れてくるであろう柱のうちの一本に狙いをつける。
「離、せ……!」
「ははは。抵抗してくれた方がおもしれーし、好きなだけ暴れてみろよ」
「くっそ……!」
読んでて良かった参考書。言葉を魔法の構成に一対一で対応させていき相手の発する言葉そのものさえも媒介に魔法を構築するという絶対に敵には回したくないスキルをこの二日間でさわりだけでも覚えておいたのが今ここで役に立った。
こちらが呻いたと同時に二人の間に発生した火球が、レツに向かって飛ぶ。彼がうおっ、と声を上げ、真っ直ぐ後方に飛び退いた。火球は斜め上、彼の頭上ギリギリに走り、背後の柱を直撃する。
「うえっ、おっかねー!」
レツと自分を巻き込むように、折れた柱は推測通り直線に倒れてきた。
左に転がって、寸でのところで柱の直撃範囲から逃れる。柱の根本付近に居たレツは逃げるタイミングを逸したはずだ。
しかし、あれで彼を倒せたとは思えない。どっちに走ればいいか分からないが、急いでこの場を離れなければ。
縛られたままで使えない両手でなんとか起き上がり、フロアの端まで駆ける。行き止まりだ。おそらく出口だろう扉はかたく閉ざされており、何かの仕掛けを解除しなければ開かない仕組みになっているようだ。
「捕獲ー」
耳元にレツの声が聞こえて、振り返る間もなく壁に押し付けられた。
「あれ一発だけなはずねえって斧のとこまで下がっといてよかったぜ。柱を狙ってたなんてな、武器がなきゃおれでもダメージ食らってた」
頭を押さえられ、彼の表情も窺えない。体のすぐ右側に、大きな音とともに斧が突き立てられる。そうか、倒れてくる柱を砕いたか切ったか、つっかえにしたかは知らないが、この大斧で自分の逃げ込むスペースを確保したということか。
「魔法をいつ構成したのかも分かんなかったな。無声魔術か? 旧魔王の力は失ってても、そういう小細工だけは一通りできるみてーだな」
じゃあおれは続けるから、またいつでも抵抗していいぜ。言ってすぐ、レツの左手がこちらの口を塞ぐ。左右を斧と手で阻まれて逃げ場を失くし、腕から脱出できても扉が開かない。どうせすぐ殺られるわけじゃねえしと諦めて、身体をまさぐる手にそのまま身を任せる。
首筋に噛み付かれて息を呑んだその時、フロアの反対側から爆発音が聞こえた。
「……なにしてるの」
側に突き立てられていた斧が引き抜かれ、背後に感じていたレツの体温が消える。振り返ると、たった今人でも殺してきたかのような酷い形相でリュータがこちらに歩み寄ってきていた。
「おっ、リュータやっと来たか! 久しぶりだな!」
爆発だと思っていたそれは、正しくは壁を強烈な一撃で破壊する音だったようだ。崩壊した壁の向こうからは外の景色が見える。上から遺跡の壁を突き破って、さらにこちらまで力技で進んできたのだろうか。
「離れてよ」
「えー、おまえが相変わらずもたついてるみてえだから今ちょっと味見しよーかと思ってんだけど」
「ユウジから離れろ。触るな」
「お、やるか? そーこなくちゃな」
にやにや笑いながら、レツが一歩前に出る。その隙に脇に逃げると、リュータがこちらに駆け寄ってレツとの間に割り入ってきた。
リュータがこちらを見て、唇を噛みしめる。人魚との戦闘からのレツとの思い出したくない攻防のおかげで体はボロボロ、服はあられもない感じになってしまっていた。
「あいつ……!」
「リュータ、よせ」
頭に血が上っている。リュータが何に怒っているのかはさておき、ここで二対一の戦闘になるのはできれば避けたいところだ。
「今のオレらがレツと戦って勝っても、無事じゃ済まねえ」




