act.13
確実に、何かが自分に溶けて混ざった。それはおそらくこれまで師匠と呼んでいた何者かの経験の断片であって、自分が忘れていた記憶でもあった。
「師匠は、まさかオレの前世か何か……っておい、師匠」
いつの間にか腕輪に潜ってしまったらしい師匠は、普段第三者が居る時のように呼んでも叩いても出てこない。
追及を避けたか、別の理由があるのかは分からないが、あちらが出てこないのを自分の方で強制的に引っ張り出すことはおそらく出来ないだろう。今は入手した情報を整理することにする。
まず、大前提としてこの世界は人と魔の立場が反転し続けながら回っている。その反転作業に必要なのが、異世界の勇者による魔王討伐だ。勇者は人優勢の時代でも魔優勢の時代でも一律異世界の人間が呼び出され、討伐後は魔王を継ぐか、あちらへ帰るかの選択を迫られるようである。魔王を継ぐとボーナスとして願いが何でも一つだけ叶い、さらにたった今倒した魔王の記憶が単なる情報として、感情抜きに頭に流れ込んでくる。
基本的には元の世界へ帰るほうを選ぶことで丸く収まるはずなのだが、そこで出てくるのが『勇者を繋ぎ止めるシステム』である。勇者が元の世界へ帰るほうを選択すると、魔王は自動的にラストダンジョンのその場で『勇者の次に有能な人物』に継承されるようになっている。その継承はほぼ強制だ。介入ができないわけではないようだが、そのシステムが勇者パーティに知らされるのはラストダンジョンに辿り着いて、魔王を倒したその時。対策を練る間も与えられず、その場で選ばされるのだ。これまで多少なりとも行動を共にし、情の沸いた相手が悲惨な運命を辿るのが分かっていて、そう簡単に継承を拒否できるわけがない。
それでも帰郷を選べば、次代の魔王は勇者と行動を共にしていた「その時代で弱者側の種族」になる。勇者が魔王の継承を選べば、勇者には弱者側だった種族の能力や外見的特徴が一部反映される。そうして勇者は世間から姿を消し、「天に召されたもの」として扱われ、忘れられていく。
これまで優位だった種族は弱者となり、大陸の隅に追いやられることになる。劣悪な環境で嘗胆を強いられた新たな弱者は、今まで弱者だった種族に力を与え守護する存在である魔王を憎み、討伐を考えるように。そのタイミングで都合よく現れる異世界の勇者が、弱者と知り合ってパーティを組み旅に出る。
召喚のタイミングどころかパーティの組み合わせ、感情さえもこの世界のシステムに管理されているのである。
大賢者――ユウは、そんな仕組みなど知る由もないただの魔側の魔法使いだった。こちらに召喚された年上の勇者と組んで打倒魔王を目指し、そして勇者は何らかのきっかけによって「魔王に触れる前に」世界のシステムに勘付き、消滅した。勇者の残した異世界の知識と、旅路での入手情報と、魔王討伐の際に得た「知識の継承」で勇者とほぼ同じ解答に辿り着いたユウが最初に試みたのは、魔王と弱者国側の友好関係を築く方法だ。
反転させることなく、祝福を与えることなく、ただ対等に共存できはしないか。天使がシステムから除外されることで代わりに魔王となった自分が願いを叶えなければ、祝福とされる「弱者への加護」は分配されない。もちろん、前魔王が倒れたことによって人間の強者補正も消えている。ここで争うつもりはないと人間側の各国に協定を申し出れば、うまいこと異世界から新たな犠牲者を呼び出すことなくこの世界だけで完結するのではないか。
試みはそう上手くいかなかった。何十年、何百年、自分の種族の寿命の半分を費やしてなお信頼を得ることができず、とうとう人も魔も、魔王ではない二代目勇者の外見が一切変わらないことに疑問を抱き始める。
二代目勇者の受けた迫害の事実を知ったユウは、いつまでも結果の出ない理想論と感情を天秤にかけ、思わず後者を手にしてしまった。一人の大切なこどもを守るために願いを消費し、魔王の継承を本当の意味で終えてしまった彼は新たな勇者に倒され、再び人優勢の時代に移る。
世界と天秤にかけられるほど魔王に愛された、二代目勇者はおそらく。
「……リュータだろうな」
彼の暴走で一時的にステータスが「ウリエル」となっていたことと、こちらの世界にやってきてすぐであるにも関わらず高レベルだったことからして彼が二代目勇者で間違いない。
そこで、彼が自分を守ることに固執していた理由も、なんとなく分かってしまった。魔王となった親友に見送られた彼は、地上に帰ってきたその時既に魔王が討伐されていたと知って何を思っただろう。一緒に戦えなかったことを、守れなかったことを悔いただろうか。
その悲しみや絶望が彼を縛っているのだとしたら、「ユウ」と会わせてやれれば彼の傷も少しは癒えるかもしれない。
そうなると、自分以外に師匠が見えないというのは正直痛い。どうにかして会わせられれば、双方のすれ違ったままの感情も地に足が着くように思うのだが。
リュータ達の助けもないまま、一夜が明けてしまった。大賢者ファンクラブの皆さんの前で演説をする流れになりかけて慌てて取り繕いながら話を逸らし、歓迎会のようなものが勝手に開かれてゆくのを呆然と眺めながら事態の進展を待つ。
師匠に渡された知識の中に、この大賢者ファンクラブについての情報は含まれていなかった。どうも記憶の全てが渡されたわけではないようだが、現時点で必要な分を継承されたと考えると少なくとも彼らの情報はたいしたものではないのか、それとも師匠のあずかり知らぬ所で結成されたファンクラブなのかのどちらかということになる。
前者の可能性は低そうだ。当事者おいてけぼりの状態で盛り上がっている皆さんをよそに、手持ち無沙汰にスマホを見る。パーティメンバー欄の下に、控えユニットなる項目が追加されていた。
なんだこれ。ユニットの氏名とレベル、HPとMPが一行でまとまって記載され、スワイプでざっと四十名分が確認できる。上から順に高レベルのユニットのようだ。
「ノア……」
最高レベルの控えユニット、ノアはレベル六十三。そのすぐ下から並んでいる控えユニットは一回りレベルが低く、それでもレベル五十台がごろごろ居る。
「お呼びですか、我らが主よ」
呟きがこの騒がしさの中でも聞き取れてしまったのか、昨日この拠点へ自分を案内した例の男がさっと目の前に傅いた。
「えあ、いや……これ見て、ちょっと驚いたから」
「拝見いたします。それは、異国の文字でしょうか」
「あ、そうか、読めないのか。そうだな、ここにノアって名前が書いてあって、隣がレベル、その次がステータスだ」
外国人に日本語を読んで聞かせるような感覚でスマホの画面を指差して、そこでやっと思い当たる。自分が呟いたノアという名前で、呼ばれたと勘違いしてやってきたこの男。彼が「ノア」なのではないか。だとすれば男のレベルは六十三、おそらくレベル帯の近いヴェルター並みのステータスを揃えた、ハイスペック魔法使いである。
とするとこの画面に表示されている控えユニット四十名は、まさか今フロアで大賢者様が帰ってきた、と興奮して楽しそうな連中を指しているのだろうか。レベル六十三の猛者を除いても、下へスワイプさせれば最低レベルがレベル四十二。どう考えても雑魚の自分では手も足も出ない。ヴェルターの部下でも敵わないだろう。彼自身が戦ったとして、目の前で何やらうれしそうに頬を染めているノアとギリギリ互角か。その戦いに他の連中が加われば間違いなくヴェルターに勝ち目はない。リュータならなんとかしそうな気もするが、奇跡というのは敵にも味方にも等しく起こりうるものだ。可愛い弟分の死など何度も見たいものではない。
「貴方の物に私などの名が記されているとは、光栄です」
「そ、そうか?」
こんな連中相手に、ヴェルター率いる部下と自分たちだけで勝てるわけがない。やりようによっては勝利も可能だろうが、確実にこちら側へ多大な被害が出る。
歓迎ムードの中で忘れかけていたが、リュータ達は今も自分を追って――または後回しにして、拠点を目指しているはずだ。中にはヴェルター子飼いの部下も紛れ込んでいるらしいが、スマホのような便利アイテムを持たない密偵たちはレベル帯を把握することはできないのである。内部事情を知ることなく今にも突入されてしまえば、まずいことになる。
「私のステータスを見て驚かれたのでしょうか。貴方のお力になるため、今日まで鍛錬を重ねてまいりました」
情けを掛けられた、救われた恩を忘れ大賢者様を魔王呼ばわりし貶めた者共に裁きを。そしてあろうことか貴方を手にかけようとした似非勇者に必ずや制裁を下す時が来る。そのために我らは同志を集め、力を蓄えてきたのです。
まるで恋人に愛を囁くかのような甘ったるい声色と視線がどうにも気になったが、言っていることは「大賢者様に逆らう者は皆殺しじゃ」である。だめだ説得できる気がしない。
「討って出られる際はぜひとも我らをお連れください。皆そこらの雑兵に苦戦するような、無様な戦い方などいたしません。お役に立って見せましょう」
反社会組織の実態は、知らない間に結成されていた最強の大賢者親衛隊だったようだ。こういう相手にはもはや話を合わせつつ、それとなく誘導していくしかない。
「そういえば、国で行方不明になった魔法使いの実力者がいると聞いたんだが心当たりはあるか?」
ヴェルターが言うには、この大賢者ファンクラブによって拉致されそのまま帰ってこなかったらしい者達である。本当に彼らがやったことなら、慕っている大賢者から聞かれて答えないはずがない。
「どの者をお探しか私では分かりかねますが、そのような者は皆、貴方の偉大さに触れ同志となっております」
ああやっぱり殺され、殺、……うん? 同志?
「え、ここに居る人たちって」
「内部からかき乱されても厄介ですので、みずから志願した者のみ仲間に引き入れています。無論大賢者様のお力を目にして惚れ込まない者などおりますまいが」
そういうことか。人心掌握にどんな手を使ったのかは知らないが、各国で実力者とされる魔法使いを手当たり次第に拉致していたというよりは大賢者に心酔しそうな者に接触しては仲間にするという布教活動を繰り返していたわけだ。
ならば戦う理由はない。ヴェルター達のほうを説得して、ファンクラブの皆さんへは今後布教活動は控えるように言い伝えれば良いだけである。
「お話しのところ失礼いたします。ノア様、緊急のご報告が」
「どうかしたか」
「中央の回し者と思しき連中が侵入、攻撃を仕掛けてきた模様です。現在交戦中と報告を受けました」
「そうか。全く中央の者は無粋なものだ……大賢者様」
「うえっあ、はい」
侵入者というのは十中八九、リュータ達だろう。動揺を隠すのに精一杯だったところに突然話を振られ、声が裏返る。
「少々トラブルがあったようです。ただいま片付けて参りますので、お話はまた後ほど」
「あっ……その、それ、オレもついてったらまずいか」
「御覧になりたいというのであればもちろんお断りいたしませんが……私がしくじるとお思いで?」
「そうじゃないけど」
ひょっとしたら知り合いかもしれないんだ、と言って良いものか分からない。落ち着け。この場で自分はどう行動するのが正解だ。
「ああ、我らの力量を見られたいということですな。これは万に一つも無様な戦いなどできない」
一人で納得してくれたようだ。少々危険な賭けになるが、交戦中のところに割って入って事情を説明するしかない。
ノアの後ろに続く形で、拠点の入り口付近にまで戻る。爆発音が近付いてきて、交戦相手が思った通りリュータたちであることを知った。
どうやら戦っているのはヴェルターとリュータだけのようだ。部下達を参加させても無意味だと知って早々に下がらせたのかもしれない。リュータが、急な事態にも冷静に対応できるヴェルターと一緒で良かった。これなら被害は最小限に話し合いへ持っていけるだろう。
「ユウジ!」
こちらに気付いたリュータが、剣戟の合間に安堵の表情を見せた。魔力剣相手に白亜の剣で戦っていた彼は、剣を一閃させて相手を弾き飛ばしこちらまで駆け寄ってくる。敵がすぐ近くにいるのもお構いなしで、次の瞬間大袈裟に飛びつかれた。
「よかった、無事で……もう、安心して目離せない」
「お、おい、リュータ」
「おれの手に手錠で繋いでおけばいいかな。ユウジ離れるとすぐ危ない目に遭ってるんだもん、おれ心臓いくつあっても足んないよ」
それって、オレだけじゃなくておまえの好きな「ユウ」のことも込みじゃないか。口をついて出そうになって、すんでのところで呑み込んだ。
直後、リュータが自分を抱えて大きく後方に跳躍する。ノアの放った氷結魔法が、すぐ側を抜けて壁を凍らせた。
「おまえの相手はオレだ、その手を離してもらおう。大賢者様の御前での戦闘だからな、一切手加減はしない」
「……ユウジは渡さない」
リュータの背に庇われる形で、ノアから引き離される。ヴェルターの方も下っ端を倒し終えたか、リュータと並んでノアに対峙する。
「ふん、狙いはやはり大賢者様だったか。ならばなおのこと、生きて帰すわけにはいかないな」
今にも大将同士の戦闘が始まりそうな雰囲気に、リュータ達を押しのけて三者の間へ進み出た。
「ちょっと待て! ヴェルター、それからノア……あ、リュータはいいや。話しておきたいことがある」
「おれはいいってなに」
「おまえはどうせ何も考えてないだろ」
「そうだけど……」
「とにかくおまえは何も口を挟むなよ。ややこしくなるから」
リュータに関しては始めから心配などしていない。この場にいるヴェルター、ノア、自分の三択であれば彼が誰の味方につくかは分かりきっているし、流石にそれくらいの自信はある。
不満げにむくれているリュータはひとまず置いておくとして、問題は立場上敵対していると思われるヴェルターとノアだ。今回の任務が終わるまではヴェルターはこちらと戦う気はないと言っていたが、自分がノアの肩を持てばその話もどうなるか分かったものではない。
「まず、ヴェルター。例の件だけど、全員無事みたいだ」
なるべく私情は挟んでいないような口調で、事実だけを告げた。アイコンタクトで自分の意図を汲んでくれたか、ヴェルターが武器を下げる。
「それからノア、この二人は……ええと、オレが一人で勝手に居なくなったのを探して、ここまで来ただけだ。襲撃する意図はなかった」
こちらは嘘八百だが、リュータには口を挟むなと先ほど釘を刺しておいた。横目に見れば馬鹿正直に両手で口を押さえている。どう見ても怪しすぎるが、言葉にさえしてくれなければなんとでも言いようはある。
「さようでしたか。この二人は道中の大賢者様の護衛であったと」
「……」
内心鼻で笑っていそうな目で、ヴェルターが無言の視線を送ってくる。わりと本気で恥ずかしい。隣でおくちチャックのまま首を傾げるリュータだけが癒しだ。
「怪我をした人たちはオレが回復させておくから、それから部屋でこの二人と少し話をしてもいいか?」
どうにか二人を部屋に連れ込んで、椅子にでも腰を落ち着けてもらう。説明しろと言わんばかりのヴェルターと、未だ口を両手で押さえているリュータ……、
「おいリュータ、それもういい」
「ほんと? やったー! そろそろ腕が痺れてきててさ」
勇者様がアホ丸出しだが、部屋には自分達三人しかいないので適度にスルーしておく。
「さっきも話した、各国から拉致されていたと思われる魔法使いだけど。特に危害を加えられた様子はないみたいだ。どうもここの仲間になって、国に帰っていないだけらしい」
主にヴェルターに向けて、ここで得た情報を共有する。彼は考える仕草を見せて、そうかと一言小さく口にした。
「自分の意志で帰っていないってなら、別にここの連中を全員しょっぴくようなことはないと思うんだ。一旦退いて、これを上に報告することで戦いは回避できないかな」
「どうだろうな。連中に対する不信感は国中どころか大陸中に広がっている。いっそ捕縛しておいた方が民も納得するだろうという結論になる可能性も少なくはないぞ」
そして、そうなった場合任務を自己判断で切り上げて帰ることになるヴェルターはお咎めを食らうことだろう。彼の仕える人物が理解のある人間であればいいが、口振りからして期待はできなさそうだ。
「他に手を考えないとまずいか。ヴェルターはどう思う? 蓋を開けてみりゃただの大賢者ファンクラブなんだし、活動を控えるように伝えれば収まりそうな気もするんだけど」
「理想論だな。ユウジ、おまえが言うに奴らは高レベル魔法使いの集団なのだろう。平均レベル五十の魔法使い――それも大賢者の術を少なからず習得している者が四十名以上だ。命令一つで命も投げ出せるほど大賢者に心酔し、統率の取れた集団が、国にとってどれだけ危険な軍隊になるか。そこに気が付かない大将は居まい」
貴族や王の性格の問題ではなく、敵対すれば恐ろしい、そして味方に引き入れられるなら国家としての発言力が大幅に向上する一騎当千の魔法小隊として考えればどれだけお人好しの権力者であっても見過ごすことはできないということだろう。軍人らしい意見だ。
「てことは場所がバレちまえばこの拠点で大人しくしてろってのも駄目になるか。いっそ誰かが率いてしまえば楽なんだろうけど……」
「でもあのノアって人、ユウジの言うことしか聞かなさそうだよ」
「だからって四十人以上も旅に連れてくわけにはいかないだろ」
三人揃って沈黙する。行き詰まってしまった。何か別の視点はないか、と部屋の中をぐるりと見渡していたところに、扉の向こうからノック音が聞こえた。
「失礼いたします、大賢者様」
「……、ああ。ノアか。怪我人の具合は?」
「貴方から直々に回復魔法を施していただき、怪我どころか志気さえ上がっているほどです」
軽い話題のつもりで投げかけた質問が爆弾になって返ってきた。処理に困っているところに志気を上げられても困る。
「そ、そっか……。ところで、何か用があったか?」
「は。世界の呪いに冒された大陸東方の国が、大賢者様のお力を借りたいとこちらまで使いを寄越してまいりました。念のため捕縛しておりますが、いかがいたしましょうか」
どうやら、自分達が彼らの扱いに悩んでいるところにもう一人客人がやってきたようだ。
「大陸東方の……」
「確か、呪術で成り立つ国だったな。外交はほとんど無いと聞く」
ヴェルターがさりげなく補足してくれる。師匠のおかげで数千年昔のおおまかな大陸マップは頭にインストールされたが、数千年も昔のものなどほとんど使いものにならない。そのうち記憶容量の削減で日本地図すら思い浮かべられなくなってしまったらどうしよう。
しかし、呪術で成り立つ鎖国っぽいことしてる国、か。渡りに船だ。
「……ユウジ、これは」
「ああ。……ノア、その人と会わせてくれないか」
「仰せのままに」
うまく行けば、そこを隠れ蓑にすることができるかもしれない。ヴェルターと二人にやりと笑みを交わした横で、リュータがまたしてもむくれていた。
自分達三人と、ノアがすぐ側に控えた状態で使いの者の話を聞くことになった。
使いの者の話によると、元々東の呪術の国は「世界の呪い」の構成を研究し、それを利用して呪術として組み上げた国家なのだそうだ。
呪術国家となったのは人が有利になってから。魔優勢の時代に奴隷として呪術研究をさせられていた者達が残した資料をもとに世界の呪いを研究していたらしく、つまり大賢者――師匠が表舞台から消えてから成長した国ということになる。
そもそも「世界の呪い」とは、その仕組みを知ろうとした”資格無き者”に伝染し、死に至らしめるという謎の事象を指すらしい。だからこそ当時は奴隷を使って研究を進めさせていたのだろう、呪いにかかった者は苦痛とともに徐々にその体を蝕まれ、まず助からない。
しかし、それを自分達でどうにかすることができればその功績を足がかりに東方の国への滞在許可を請うこともできよう。他国との交流のない国へ大賢者ファンクラブの施設を移動させ、大人しくさせておけば良い。東国の権力者も、こちらに助けを求めておいてそこで態度を変えることはできないはずだ。
問題は呪いの解呪方法である。こればかりは行って様子を見てみないことには判断のしようがない。
「事情は把握した。力になれるかどうかは分からないが、東国へ向かうことにするよ」
捕縛されていた使いに道案内を任せる。ひとまず東へは少人数で赴き、呪いの解呪――移住先の確保が完了してから全員を連れていくのが無難だろう。
「じゃあ、東国にはオレとリュータと……ヴェルターも来てくれるか?」
「このまま本国へ戻るわけにもいかん」
「ありがとう。この三人で」
「……大賢者様。よろしければ自分も、お供させてはいただけませんか」
それまで口を挟まず静かに控えていたノアが顔を上げる。
「そりゃありがたいけど、他の奴らここに残して大丈夫か?」
「このような事態に備えて、留守を任せる補佐は既に決めてあります」




