5 実は、
すれ違いも密会もない。
あくまで上司と部下でそれ以上になれないのが切ない。
「私はあなたが好きです。男女の好きで」
そんなふうに視線を合わせて言えたらいいのに。
一年という時の流れはきっとまだ短すぎる。
「相談をしてもらえるほどは信用されてないのかな」
不意の言葉にあなたを見つめる。
だって、ずっとあなたが好きですなんてあなたに相談できるはずがない。かなしげに視線をはずされて私は胸を締め付けられる。
「好きなんです」
嫌われるのが、拒絶されるのがコワくてたまらないんです。そんなことになれば、きっと私は何もかもを放り出して逃げ出すでしょう。弱虫だから。
少し、動揺したように覚悟を決めたようにあなたは表情を引き締める。
「よし。誰かな? それとも名前は秘密かな?」
あなたの思い違いに私は涙が滲みそうやら、笑っちゃいそうやら。
表情を決められない。
それを見たあなたが慌ててる。
「やはり、相談しにくいか」
困ったように後退ぎみの頭をかく。
違うんです。あなたなんです。どこかで引っかかってるその言葉。
「しかし、ダメな男ぐらい忠告はだね」
「あなたです」
ころりと零れ落ちた。
沈黙が少し。
どちらの息を飲んだ音だろう?
「しかしね、年齢が」
「あなたには奥様がいましたもの。諦めてるつもりだったんです」
ああ。止まらない。
「それでも、やっぱり好きなんです。ごめんなさい」
「ミキ君からすればおじさんだろう?」
年齢なんて! その私の感情に気がついたのか困った笑顔。
「ゆっくり考えていいかな?」
「前向きに?」
「ああ。前向きに」
「はい!」
困った子だねと微笑まれる。
「みんなには内緒だね」
あー、この半年で私があなたに惚れてるのはバレてます。
その前はバレてないはずなんです。たぶん。