冒険者希望
開いて頂きありがとうございました。
街は小さかったが、必要な店は揃っているようだった。
暮らしやすそうないい街だ。
「ここだよ、シズク!」
同衾イベントが無い事は解った。
アンナが案内してくれたのは、宿屋だった。
「私の家。汚い宿屋をやってるんだけど、値段の割には過ごしやすいって評判だよ」
アンナは宿屋の鍵を開けると、俺を部屋へと案内する。
「アンナさん、私はお金持っていませんけど」
「いいよ、家においでって言ったのは私だしね。じゃあ、お休み」
アンナが部屋から出ていく。
一緒に寝るどころか、ろくに話もせずここでイベント終了だった……。
翌朝、
身体全体が重かった。
筋肉痛、というレベルではなく、一歩歩く事に身体が分解するんじゃないか、という痛みがはしった。
「おはよう、シズク!」
「……おはようございます」
アンナさんは今日も元気だった。
「朝ごはんは下の食堂に用意されてるよ。一緒に食べよう!」
食堂の食事は美味しかった。
お腹が空いていた事を思いついた俺は、マナーなどそっちのけで貪るように食べた。
料理が空になった所で、アンナさんがそろそろ行こうか、と席を立った。
「今日はシズクに街を案内してあげるからね」
「……はい?」
「だって、行くあてがないんでしょ?ならこの街に住めばいいよ。シズクはいい子だし、いつまで泊まっててもいいよ」
少し考えてみる。
1.ここで断った所で、どこにも行くあてがない。
2.身分証明も稼ぐ術も持っていない。
3.アンナさんは美人で巨乳だし、エロいハプニングがあるかもしれない。
三つの理由、特に三番目が重要だった。
「じゃあお願いします」
アンナさんはいいっていいって、と手を振って答えた。
「でも、何もしないで住むのは気を使うわよね。住んで貰う代わりに宿屋のお手伝いをしてくれたらありがたいわ」
「いえ、私なんて何も役にたてないので」
自然な流れで断る。
親に働けと遠回しに言われたのを遠回しに断れる程度の能力は持っていた。
「そんな、重労働させるつもりはないわよ?食事のお皿を洗ったりとかさ」
「いえいえ、私みたいな役立たずが洗うと割っちゃいますよ?」
「……じゃあ、宿屋の受付。午前中は混むから、対応して貰って」
「ごめんなさい、私は男の人が苦手なので……」
対人関係が苦手なので……。
そう言うと、貴族のお姫様ってそういうものかもね、と納得したようだった。
男だとバレたら叩き出されるフラグを着実に立ててる感じがする。
「じゃあ、夜は酒場にもなったりするから、接客とか」
「お酒飲めないので」
「なんでシズクが飲むの!?お客さんに出したりとかだよ」
キャバクラのような物ではなかったらしい。
「……いえいえ、私は酒場のマナーが解らないから無理ですね」
「……」
働く気ないの?という軽蔑の目に気付かない振りをしながら断り続ける。
厄介なのを拾ったかもしれない、とアンナさんは困惑気味に説得をはじめた。
「……でも、お金は必要でしょう?手伝ってくれたら、少ないなりにお給金は出してあげるわよ?」
「いえ。アンナさんがご飯を食べさせてくれて、住む場所も提供してくれたのでお金の必要性は特にありません」
「いや、住んでいいって言ったのは私だけどさ!その図々しさは何なの!?え、何、シズクはもしかしてずっとここにいるつもりなの!?」
「失礼な。お小遣いが溜まったら出ていきますよ……」
「お小遣い!?」
さりげなくお小遣いをおねだりしてみた。
アンナさんが真顔で顔を引き攣らせたので、空気を読んで会話の流れを撤回してみる。
「いえ、冗談です。でも私は身体が弱いので、身体を売るくらいしかできそうに無いんです。でも、アンナさんが働いて欲しいって言うなら頑張って身体を売ります……」
「いや、そんな事をシズクにさせる訳にはいかないってば!」
じゃあ身体を売って金を入れろと言われたら困ったが、短いなりにアンナさんの性格を読みきった俺の勝利だった。
「アンナさんのために働きたいとは思いますけど、私は何も出来ないので……。そうだ、アンナさんが私を鍛えて冒険者になれば役にたてるかもしれません!身分証明もありませんから、冒険者ギルドに口添えして頂けませんか?」
どっちみち冒険者にはなるつもりだった。
誰かからの紹介があればスムーズだろう。
「でも、シズクに冒険者は無理だよ、危ないんだからね!?」
「アンナさんカッコ良かったので、私もアンナさんみたいになりたいんです!」
お願い、と手を組みねだってみる。
「しょ、しょうがないな……私に憧れて、本当に危険なんだからね?」
あこがれてます!というと、満更でも無さそうに、ニヤニヤするアンナさん。
とてもチョロかった……。
読んでいただきありがとうございました。