魔物とバトル
開いて頂きありがとうございました。
森でアンナの後ろをついて歩く事、二分。
俺の体力は限界に来ていた。チート無しの場合は、貴族の虚弱体質だ。
「ハー、ハー。ちょ、ちょっと、休みませんか?」
「シズク……まだそんなに歩いてないよ!?」
アンナさんはだらしがないな、と言いながら止まろうとしない。
白冒険者と言ったのを根に持たれてるんだろうか。
白はパンツの事で、貴方はゴールドかと思ってました!とか言えば休んでくれるかな……。
「ゼー、ゼー……あ、あとどれくらい……歩く、んです……?」
「んー、あと2時間くらいじゃないかな?」
無理すぎる……。経験豊富な冒険者を名乗るだけあって、アンナさんは汗一つかいてない。
「……も、もう歩けない……です」
「シズクは少しは体力付けなよ。女だからって力が無くてもいいなんて事はないんだからね?しょうがないな、ちょっと休んで行こうか」
そう言ってアンナさんは器用に石を擦り合わせて、手持ちしていた枯れ草にうつすと、火を起こした。
「貴族のお姫様は体力無いね!」
「体力は自信が無いです……」
チート無しなら、年下の女の子にも組み伏せられる程度の能力しかないです。
「あの、貴族に何か嫌な思い出でもあるんですか?」
「……あるよ。大っ嫌い」
……あたりがきついのは貴族のせいなのか。
「ごめんなさい、私も元貴族だから、不愉快かもしれませんね」
そう言うと、アンナは慌てたように手を振って否定した。
「いや、シズクみたいな良い子は嫌いじゃないよ?」
好感度はそこそこあるみたいだった。
「私は男の貴族が嫌いでね。特に、変態の貴族ってのは許せなくてさ」
パンツを被る程度の紳士で良かったぜ。
「私の、私の妹なんだけど……貴族の家に働きに出てたんだ」
庶民の家から、貴族の家に入り働く。それはそこまで珍しい事ではない。
「十年くらい前だったかな……ある日突然、事故で死んだと伝えられてさ」
……重い。
「その貴族の家に入った他の子の情報を集めるとさ、結構そういう臭い話が出てきてね。力を付けて冒険者になって、妹の仇をうってやろうってね……」
……重い。俺はもっとライトな話が良かった。
『私の胸はFカップ!』
『きゃー、アンナさんすごーい、揉んでいい?やわらかーい!』
某百合エロゲだとこんなノリが普通にあったのに、なぜ俺はこんな重い話を聞いてるんだ……。
「それでね、もし妹が生きてたらシズクみたいに綺麗な子になってるのかなって。年齢も妹と同じくらいだし、気になっちゃってね。だからシズクの事は全然嫌いじゃないんだよ」
アンナが落ち着きなく脚を開いたり閉じたりする。俺を誘惑しているんだろうか。
「あ、もしかして休憩をあんまり取らずにここまで来た事を怒ってる?違うよ。それはシズクが嫌いだからって嫌がらせじゃなくて」
ガサガサとアンナの後方で音がする。
目を凝らして見ると、大型犬のような動物が居た。
……何だアレ……。
「魔物とか、夜中だと活動が活発になるからさ。匂いを追ってくるし、森は早足で抜けないと全滅したりするかもしれないしね」
「へ、へぇ……」
涎を垂らして虚ろな目でこっちをじっと見つめている大型犬が居た。
……マジで怖ぇ!?
「ねえ、アンナ。この森にはどんな魔物が居るの?」
「シズク怖くなった?大丈夫だよ」
アンナは安心して、と微笑む。
脚を小刻みに動かしている。怯える俺にパンツを見せて俺を落ち着けさせようとしてくれているのだろうか。
「基本的には、スライムとか、ウォークトゥリーとかそんなのばっかりだしさ。私が護ってあげるよ」
もう一度、アンナの後ろの動物を見る。
ヘッヘッヘッと声が聞こえてきそうなくらい犬だった。
スライム……?無茶がある。
ウォークトゥリー?発音からすれば、歩く木っぽいんだけど
「犬っぽいのっていたりする?ウォークトゥリーって犬型なの?」
「ウォークトゥリーは歩く木だよ。犬好きなの?ここにはそんな魔物は居ないよ」
じゃあ、アレは何なの?
「噂じゃあマッドウルフってB級の大物もいるらしいけど、そんな強い魔物は出ないよ。居たら、もうお祈りするしかないねー。私でも勝てる自信ないしさ」
アハハハ、と笑うアンナ。
アンナの後ろの動物を見る。
大型犬は虚ろな目で、飛びかかるタイミングをはかろうと前傾になっていた。
マッドウルフっぽくない!?
読んで頂きありがとうございました。