俺は悪女に貢いでぼろぼろになりたかった。どうして過去形になったか編
俺の名前は、杉田一太郎。
不動産の営業として、日々第一戦で働いている。
勿論、仕事はハードだし、怒鳴られ犬のように扱われる毎日である。
しかし、俺はどうやら社畜としての才能があったらしい。
上司や客先にまるでゴミのように蔑に扱われるのも、度重なるサービス残業で体がぼろぼろになるのも
快感になってきたのだ。
そこで、はたと気がついたのだ。
俺って、杜撰に扱われるのが好きなんじゃね?と。
これは俺にとって、世紀の大発見だったのだ。
何故ならずっと悩みを抱えてきたからだ。
社会人になるまで俺はそこそこの数の女の子たちと付き合ってきた。
が、どれも長続きしないのである。
結婚願望が強かったため、出来るだけ家庭的で芯の強い子と付き合ってきたつもりだ。
しかし、それは俺の本来の好みじゃなかったんだろう。
料理上手な真美ちゃん。
いつも明るかった慶子ちゃん。
地味だけどいつも俺を支えてくれた志都美ちゃん。
本当にごめんなさい。
俺は今日から、悪女に走ってぼろぼろになるまで貢ぐことに決めたんだ。
俺は岩よりも堅い決心を決めた。
そうと決めたら、行動は早かった。
以前は、消極的だった合コンやお見合いパーティーに出まくったのである。
そうして、やっと俺の運命の相手であるどうしようもない女に出会えたのである。
彼女の名前は、久上院麗子。
彼女は、同じ会社で受付嬢をしている。
名前から派手な女であるが、見た目はもっと派手な女だった。
典型的な女王様タイプというか、銀座とかの高級店のホステス嬢のような外見をしている。
更に、噂の方ももっとすごかった。
なんでもどっかの政治家の愛人をやっているとか、男に貢がせるだけ貢がして捨ててるとか。
聞くに堪えないような噂が彼女を頭からつま先まですっぽりとおおっていた。
俺はこの女なら杜撰に扱われ、ぼろぼろになりたいという熱い衝動を叶えてくれるだろうと心底思った。
そうして、俺は少しずつ彼女にアプローチをかけて行ったのだ。
まず、携帯の番号を交換し、週に何回か連絡を取り合うようになった。
次に、デートの待ち合わせだが連絡もなしに1時間待たされた。
俺としては期待どうりの展開である。
2人で会うのは初めてだったので、少しぎくしゃくしたがそこそこお互い楽しめたように思う。
それから、週に一回は会うようになっていったのだ。
デートの内容もブランドのバッグ等の高価な品はねだられないものの、わがままが多かった。
しかし、思ったよりのソフトというか、夜中に突如運転手代わりに呼び出されることもなければ、
浮気されることも、財布扱いされることもない。
むしろ、俺が貢ごうとすると困惑する風情にも見える。
何でこうなったんだ?
「なあ、おまえ受付の久上院と付き合っているって本当かよ。」
同じ営業課の山田が声をかけてきた。
こいつは体育会系のさわやかな奴だが無神経なところがあった。
「本当だよ。社内恋愛だから秘密にしといてくれよ。」
「いいけど、あの久上院だぜ。酷いうわさがいっぱいある。お前遊ばれてるんじゃないの?」
「お前、あいつと話したことあるのかよ。噂だけ決めるとかないわ。」
俺は俺が間違っても吐いていいセリフじゃないことを言った。
それでも、付き合っている女を面と向かって馬鹿にされてかっときたのだ。
山田はいいやつなので、それもそうだなと言って話題を変えた。
その会話を彼女が聞いていたと知ったのは、次のデートの時だった。
「杉田君、私に遊ばれてるんじゃないかって言われてるんじゃない?」
山田のことだなと俺は直感した。
俺はむしろ遊んでください、どんと来いです。
なんて言えるはずもなく、フォローに回ることにした。
「そういう人もいるね。久上院さんは美人だから目立つんだよ。」
出来るだけ俺は営業で鍛えた爽やかスマイルをしてみた。
「ありがとう。そんなこと言ってくれたの杉田君がはじめてで…。」
あれ?
「私、外見が派手でしょう?いつも同い年ぐらいの女の子には嫌われて…。いつだって、あることないこ と噂されたわ。いつも近づいてくる男の人はチャラチャラした人ばかりで…。杉本君のことも最初は遊び じゃないかって思ってわがままいっぱい言ってたの。ごめんなさい。」
あれあれ?
「山田君に私の事かばってくれたじゃない?私あれが本当に嬉しくて。きちんと私自身を見てくれてる んだって思ったの。これからはもっと素直になるわね。」
あれあれあれ?
それから1年後、俺と彼女は結婚した。
彼女は思いのほか倹約家でいい専業主婦をしている。
恋人時代にあんまり高いものを送ろうとしたら、逆に叱られたぐらいだ。
2人の子供の育児を一生懸命している彼女は幸せそうだ。
そんな彼女に、貴方の外見と噂につられて近づいたんですよなんてことは墓まで持って行かなくちゃいけない秘密である。




