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ダッシュ


好きかもしれない。


好きかもしれない。



…その日は数学が6時限目で、勉強会は放課後に当たる形になった。

岸谷くんを囲んで6人ぐらいが思い思いの場所で彼の説明を聞いている。


「岸谷くん!ここ何だけど。」


あんまり喋った事のないクラスの可愛い女の子が自分のノートを岸谷くんの前に広げる。


隣に座っていた灯のノートの上に、バサッと今まで広げてあった岸谷くんのノートが積み重ねられた。


「ここから引っ張って来て、…それでこの公式を使って…」


「うん。」


「そうなると、…こうなるから答えはコレ。」


「あぁ!なるほど!すごーい!」


スラスラ解かれていく問題に、女の子は大きな瞳を輝かせた。


うーん…。


それとは裏腹に、灯の気持ちは淀んでいく。


…困った。


「本当に岸谷くんってすごいね。もっと暗い人かと思ってたけど、意外と喋りやすいし。」


「…。」


「もうアユミ、岸谷くんおうちに持って帰っちゃおっかなぁ。ね、岸谷くん…わたしんちでマンツーマンで教えてくんない?」


「あ、岸谷、アユミはやめとけ。すぐ食われるぞ。」


「そんなことないもーん。」


「どーかなぁ。」


ケタケタ冗談を言いながら笑うみんなの輪に、何故か入っていけない。


スルリと何気なく岸谷くんの腕に巻き付く女の子の指に、灯はバッと下を向いた。


…困った。


困った困った。


灯は無造作に前に置いてあるノートに手を伸ばし、ガタンと席を立つ。


「あれ?灯ちゃん帰るの?」


「うーん、今日は用事があるからこの辺で帰るねー。」


上手く笑えたであろうか。


灯は自然に集まった勉強会のメンバーに手を振り、教室を出た。


左手にカバン。右手にノート。


それを揺らしながら灯は廊下を歩く。


「…困った。」


見ていられなかった。


視界から消えない、岸谷くんの腕に絡まる細い指。


大きくて綺麗な瞳。


可愛い鼻。


ぷるんとした唇。


…もしかしたら、岸谷くんがあの子の事を好きになってしまうかもしれない。


いや、もう、そうなっているのかも。


あんな可愛い子に心乱されないわけない。

あのノートにかかれていた言葉さえ、本当かどうか霞んできた。

もしかしたら誰かがいたずらで書いたのかも。

そんなふうに思える。


だって、


今まで岸谷くんが自分の事を好きだなんて思えるような行動や動作、見たこと無い。

目が合ったことさえ、数えるほどしかないのだ。


「…あーあ。」


ほとんど人がいない廊下をやる気ゼロで灯は歩く。

万が一、その時自分の事が好きだったとしても、あんな可愛い子が上目使いで誘ってくれたらイチコロだろう。

自分が男なら多分ほいほいついて行ってしまう。


岸谷くんも男だ。


今ごろゴキブリホイホイ並に官能的で魅力的な彼女に心までひっかかっていたっておかしくない。


「…私もあの谷間が欲しい。」


自分の服の隙間を覗きながら灯はため息をついた。


…ドタバタドタバタ


階段の手前まで来たとき、灯は誰かの足音を聞いてふと振り返る。

誰なんだ、こんな変な気持ちの時に廊下をものすごい勢いで走っているのは。


…ドタバタドタバタ


「…え」


後ろを振り向いた灯は目が点になった。


走っている。


岸谷くんが。


それはそれは、ものすごい怖い顔で。


え、なに、……ひぃぃーっ!


徐々に近づいてくるそれは、生物の直感に直接働いて、灯は階段を降りずにそのまままっすぐ廊下を走ってしまった。


灯は廊下を走りながら思う。


…なんとなく逃げてしまった。


そのまま階段を降りると思っていた岸谷くんは何故か灯と同じ方角に走ってくる。


……なんで?!


灯の頭の中にクエスチョンマークが飛んだ。


なんで?


勉強会は?


なんでそんな怖い顔なの?


なんで、


な、なんなのーっ?!


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