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観察続行


灯の"岸谷くん観察日記"はその後も続いた。


岸谷くんは少し怖い顔をしている。


けして濃い顔ではないのだけれど、やたらと眼力が凄いのだ。

そして事ある毎に眉間にシワが寄る。


現国の気弱な先生が岸谷くんに質問する度に彼の眼力と眉間のシワが発動し、先生が肩を震わせている。

それはヤンキーとかではなく、極道的な渋さを匂わせた。

しかしその怖い顔を除けば、彼は至って普通の男子高校生である。

少し短めの髪に、いつも固く閉じられた唇。いじってないのに整った眉。背は高めで、声は低め。

たいがいケタケタと笑う楠田くんという人と一緒に居る。

楠田くんと一緒に教室の隅で売店の特大味噌カツサンドをペロリと二個食べる。


岸谷くんは無口だ。


ペラペラ喋る楠田くんの隣でパックの牛乳を飲みながら「ん。」しか相づちを打たない時もあった。それでも会話が成り立っているのは楠田くんが良く彼を理解しているからなのかなんなのか。

灯はとりあえず"岸谷くんはデカくて無口"というカテゴリに落ち着いた。


「そんな岸谷くんがねぇ…」


「岸谷くんがどした?」


志織がソーセージを頬張りながら首を傾げる。


岸谷くん、私の事、


「あぁ、あのね…」


好きらしいよ。


「(なんて言えるわけ無い。)」


自分のお弁当箱を器用に避けて灯はガスっと机に突っ伏する。


というか、そもそも、アレは本当に岸谷くん自身が書いたのだろうか?


誰かのいたずらなんじゃ?


そんな考えが灯のスカスカな脳みそを横切った。

目の前では灯の奇行に志織が引いている。


「ちょっと!話の途中でぶっ飛ばないでよ!結構凄い音したじゃないっおでこ平気なの?!」


「うん、まぁ大丈夫。」


灯はデコをさすりながらしおりちゃんは優しいなぁあはははと笑った。

実際、志織は優しいのである。絵に描いたようなずぼらな自分が、赤点も取らず平和に高校生活を送れているのもひとえに彼女のおかげだと灯は信じている。

予想外の場面で予想外の人物から褒められた志織は、とっさにムスッとしつつも顔は赤くなっていた。


「…何悩んでんのか知らないけど、落ち着いたら私にぐらい話しなさいよね。」


「ありがとしおりちゃん。」


志織の優しさに感謝しつつ、はてさてどうやって確かめようかと灯は頭を悩ませた。



帰宅しても灯はため息ばかり。

ダイニングテーブルに突っ伏して、気がつけば岸谷くんの事ばかり考えている。


「なぁに灯、元気ないわねぇ。」


姉の優菜がのんびりした口調で灯の顔を覗き込んだ。

冷たい机に顔を擦り付けながら灯は姉をじとーと見つめる。


「?」


相変わらずボンキュッボンのナイスバティに大人っぽい唇。


…岸谷くんはなんで自分の事なんかが好きなんだろうか。


「…お姉ちゃんぐらい胸あったらまぁ分かるんだけどね。」


「なんの話か分からないけど、あんたに胸が無いことだけは確かだわね。」


「あ、今傷つきました。」


「あら可哀想に。」


キョトンとしながら優菜は冷蔵庫に歩み寄る。

中からペットボトルを取り出し、ゴクゴク飲みながら視線だけを潰れたカエルのようになっている妹に向けた。


「なぁに?誰かに恋でもしてるの?」


「その逆だよー。(たぶん)」


「あらあらまぁまぁ。」


優菜は冷蔵庫からアイスを出し、コトンと妹の頭に乗せた。


「灯、そういうときはね、まず観察よ。」


灯はため息交じりに頭の上のアイスにもぞもぞと手を伸ばす。


「観察ー?もうしてるよ。」


岸谷くんは青が好きでしょ、文房具ほとんど青だし。


岸谷くんは食後は絶対牛乳飲んでるの。

だからあんなにおっきくなっちゃったんだよ。


岸谷くんはスポーツは出来るのに長距離走は全然ダメ。

見て分かるぐらいにヘロヘロになってるの。あ、体育の時間ね。

なのにバスケとかボンボン決めちゃうんだよねゴール。

なんか変だよね。


それでね、すんごい仏頂面なんだよ。いつも。

数学の先生かなりビビってるの。

でも成績はそこそこらしいよ。

楠田くんが大声で岸谷くんの点数言ってた。

そのあと岸谷くん、楠田くんを殴ってたけど。



ペラペラと灯は今まで集めた岸谷くん情報を姉に語った。


「灯、すとーっぷ。」


ふわりと優雅に彼女の美しい左手が灯の顔の前に伸ばされる。


「え?まだあるけど。」


優菜は優しく微笑み、灯に言った。


「そうじゃなくてね?」


姉はうふふとそのふっくらした唇に指を当てて、灯にさとす。


「その人が、自分をどれだけ大事にしてくれるのか。付き合ったら、どれくらい自分が幸せを感じれるかを見極めるのよ?」


「ふーん?」


大人の姉が言うことは、なんとなくしか分からないが、なんとなくは分かった。

灯は頷き、姉にお礼を言う。


「分かったよお姉ちゃん。観察続けてみる。ありがとう。」


「どういたしまして。でも灯ちゃん?遠くから見るばかりじゃなくて、本人に直接触れ合ってみるのも大事な事ヨ?じゃあね。」


そう言い残し、優菜は夜のデートへ出かけて行った。


灯はアイスを食べながら、また岸谷くんの事を考える。


「直接、かぁ。」




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