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第4章 刀匠『村正』-真実 1-1

「そろそろ、最深部あたりに入るころかのう?どう思う、正伸」

「そうですね~。そろそろでしょうか」

 縁側でゆるりと午後の日差しを楽しむ二人は、湯のみを手にしてまどろんでいる。二人が座るその間には、急須にポット。お茶うけに揚げ饅頭とお煎餅が置いてある。

 正満が揚げ饅頭を一つつまみ上げるとひょいと口に放り込んだ。満面の笑顔でお茶を一口すする。

「さて、それじゃ行くとするかの。正伸、準備はどうじゃ?」

 正伸は手に持ったお煎餅をバリバリと音を立て急いで口に詰め込む。勢い余ってのどに詰まってしまったか、胸をたたいて目を白黒させている。

「何をやっとるか、慌て者め。そう急がんとも()いわ、ゆっくりと呑み込め」

 正満が背中をトントンとたたくと多少楽になったのか、湯のみのお茶を一息に飲み干した。

「ありがとう、父さん。…ふう。準備はもう整ってるから、いつでも出発できるよ」

 息が整った後、もう一つ大きく深呼吸をつくと正満に振り返りそう答える。満足げに正満は頷くと、湯飲みに残ったお茶を飲み干し庭に降りた。

「では、行くとするかの。用心せいよ正伸」


 ちりん、ちりんとどこからか鈴が鳴るような音がした。扉の中は白一色に染まっていて、目を開いているのに周りには何も見えない。ほどなく白い光が収まりようやくあたりを見渡すことができるようになった。しかし、そこには何かがあるわけでもなくただ広い空間が広がっていた。何かがあるはずだと思っていた三人にとってそれは拍子抜けする光景だった。そう、()()はそうだった。

 突然、部屋の奥から黒い閃光が走り正幸の側を通り過ぎた。驚きとともに振り向くとその光の通った後には赤く溶けた岩と、焦げ付いた地面が残っている。

「・・・おいおい、冗談だろ・・・」

 音もなく走ったおそらくは攻撃に、ひきつった表情を浮かべる三人。よくよく目を凝らしてみれば、奥の方に台座のようなものが見える。中央には細長い棒のようなシルエットと、それを囲うようにおそらく縄が張られている。正幸は二人にそのまま動かないように手で示し、用心して近づいてみると思った通りだった。

「祭壇か?…ん、これだけじゃないな。左右にも同じような…これは?」

 奥の方に進むにつれて薄暗くなっていて明かりなしではほとんど見えなかった。しかし、正幸の手持ちの明かりはスティック状の携帯ライトだけであり、小さな灯りが照らす範囲は狭い。さらに近づいてよく確認しようと一歩踏み出した時だった。

 パリン

 突如としてライトが消えた。とっさに手を放した正幸が飛び退りながら確認できたのは、地面から這い上がった影。ライトを貫いたそれは薄く、それでいて鋭利な刃物のようで、まるで先のとがったガラスのようだった。

「あっぶね、なんだ今のは」

 目を凝らすが、跳ね上がった影の刃はすでに跡形もなくなっていた。

『…ナニモノカ、ワレノネムリヲサマタゲルノハ…』

 頭の中に重く響く言葉が響いた。今まで聞いたことのない声に正幸は周囲を見回す。入り口付近にいた二人も同様の声を聞いたようで、あたりを気にしている。

「珠子ちゃん、今の・・・」

「は、はい。聞こえました、しゃがれた老人の声…でしょうか?」

 振り返った正幸と洞窟の奥を覗き込んだ珠子の視線が交錯する。と、その奥にほのかに光る物体を見つけた珠子は正幸に叫ぶ。

「正幸君、後ろ!何かが、黒く光ってる!」

 その声に正面に向き直った視界には、確かに”黒く”光るものが台座から浮かび上がっていた。

「全く、冗談きついぞ…さっきの光線の正体って、もしかしてこいつか?」

 それを確認すると二・三歩退()がって様子を見る。しかし、そこに浮いているだけですぐに変化があるわけではなさそうだ。

「ちょっと、なによこれ~!?」

 そう思った矢先、背後より悲鳴が上がった。何事かと振り返ってみると、そこにいたのは珠子だけだった。雅はどうしたのかと探してみても珠子の周囲には見当たらない。もしやと思い珠子の視線を追うと、天井付近に逆さ吊りにされた雅がいた。

「…何やってんだよ姉ちゃん。何のために椿さんについててもらったと思ってるんだよ」

 呆れてため息をついた正幸に対し、耳ざとくそれを聞きつけたのだろう。逆さに吊られながらも、こちらを指さして怒鳴りたてた。

「なにをあからさまにがっかりしてんのよ、あんたはっ!背後からの不意打ちなんてそう簡単にしのげるわけないじゃないのよ。珠子ちゃんを捕まえられなかっただけありがたいと思いなさいよ!」

 ピクリと頬がひきつった。

背後からの(・・・・・)不意打ち(・・・・)?)

 雅の言葉に否応なしに思考が駆け巡る。入り口から入った直後に攻撃されたが、それは正面からの攻撃だった。そして、三人が周囲を確認しても周りには生き物の気配がなかった。それなのに、雅の背後から攻撃をしかけることができた。敵は一体何者だというのだろう。

「雅さん、大丈夫ですか。ケガとかしてませんか?ちょっと待ってください、確か取材でもらったカフェのライターが…」

 珠子は吊られたままの雅に声をかけるが、当の本人は元気に現状を打破しようともがいている。どうやら両足を何かで縛られているようで、一生懸命に体を起こしてほどこうとしている。それを助けようと珠子がライターを取り出して火をつけた。

「・・・!? ちょっと、なによこれー!」

 照らし出されたそれは、異様な存在感を放っていた。影のように黒く、壁や天井に張り付いている。そこから細く伸びた一部が雅の足首にまとわりついている。かと思うと、光を嫌うようにもぞもぞとうごめいている。ついには耐え切れなくなったのか、雅のことを放り出し奥の暗いほうへと消えていった。

「ちょっ、落ちるぅぅー!」

 ドサッ

「…痛くない?あれ、これは」

 雅の落ちた先には、純白の綿雪がクッションのように厚く固まっていた。心配そうに駆け寄る珠子に軽く手を振りながら、その視線は洞窟のなかほどからのんびり歩いてくる正幸に向いていた。

「ありがとね。雪華で作ってくれたんでしょ、このクッション」

「まぁな。こんなところで怪我でもされたら入り口まで運ぶのも大変だからな」

 軽口をたたく弟に対して一瞬むっとしたものの、すぐに頭を切り替えて状況を確認する。

「さっきのってやっぱり、奥にあったやつと関係ありそう?」

 腕組みしながら振り返る正幸は、たぶんなと一言答えると足元に残る焼け焦げた跡を目で追う。そして、足元にあった手ごろな石を拾うと二人から離れたところまで移動した。雅に向かって合図を送り一つ息をつくと、奥へ向かって石を投げつけた。と同時に壁に向かって低く飛び退いた。

 ビュッと鋭く空気を引き裂く音が聞こえると、先ほどまで正幸がいたところに向かって黒いとげのようなものが飛び出してきた。それは投げつけられた石を粉々に砕き、正確に石の飛んできた方向へと突き刺さっていた。

「間一髪、か。思った通りだな。どうやらあれは攻撃された方向に向かって、カウンター気味に反撃を仕掛けてくるようだ。しかも下手な攻撃ではただやられるのを待つだけときた」

 冷静に分析しているが、珠子は気が気でなかった。正幸は相手の情報を得るために危ない行動に出た。他に手がなく、仕方なくだったのかもしれないが。それでも、珠子は恐怖に飲み込まれそうになる。

(正幸君が…あんなのに当たったら大けがしてしまう。ううん、けがだけじゃなくて最悪…)

 ぽんっ

「?」

 思考の海に沈みそうになる珠子の頭をやさしく撫でる大きな手。くしゃくしゃと少し乱暴ではあったがどうしてか安心できる。見上げると、そこには正幸がいて。頭を撫でる手を止めることなくこちらの顔色を窺っている。

「大丈夫か?顔が真っ青だったぞ。少し離れて休んだ方がいい」

 珠子の気持ちを知ってか知らずか、正幸は見当違いの気遣いを見せた。もちろんそれは珠子を危険な目に合わせないための配慮だろうし、正しい判断だろう。だが、珠子はぷぅと頬を膨らませて反論する。

「嫌!どこに居たって危ないのに違いないし、私だって二人の力になりたい。お荷物なのはわかってるけど、それでも蚊帳(かや)の外は嫌なの!」

『よく言った、椿の!やはりそうこなくてはな、盛り上がりに欠けるというものじゃ』

 突然、頭の中に声が響いた。聞き覚えのある子の声は陽炎のもので、どうも気分が高揚しているようだ。

「あなた陽炎よね?今それどころじゃないから、しばらく引っ込んでてくれる」

 雅は言葉の中にわずかにとげを含ませた。しかし、陽炎はどこ吹く風とおとなしくしているつもりはないらしい。そうしている今も、『燃えるのう』とか『(たぎ)る状況じゃ』などとわめいている。

『まったく、陽炎。そんなことを言いに出てきたのではないでしょう?ちゃんと説明してくださいな』

 そうこうするうちに、雪華までも会話に入ってきた。陽炎よりはまだ話せると、正幸は雪華の声に向かって質問を投げかかる。

「説明ってことは、この状況を何とかする方法があるってことか?」

『もちろんでございます。そのために(わたくし)たちは持たされたと言っても過言ではございません』

 雪華の余裕すら感じさせるその言い回しに、一同は心強いものを感じた。

『ただし、あくまでも私たちはみなさんの援護にすぎません。私たちは「意志」があっても自由に動ける体はありませんので。皆さんが頑張れるというのならば…』

 一呼吸、もったいをつけるように間を置く。続く言葉を待って三人は互いに頭を突き合わせる。あろうことか、陽炎でさえ雪華の言葉を待っている雰囲気がある。

『大逆転の秘策がございます…!』

 雪華はいたずらっぽい雰囲気を言葉に含ませ、一同のやる気を見事に引き上げたのだった。

5月の連休にはと言っていたのに、あっという間に1か月が過ぎてしまいました(^^;

まだまだ、公私ともに忙しい日々が続いていますがなんとか書き上げたクライマックス最初の話!

ここから盛り上げられるように頑張っていきます!

……次話更新は気長に待っていただけるとありがたいです~(><;)

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