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金曜日に名波先輩と話をし、そして土日の休みを挟めば、もう少し落ち着くだろうと思っていた。

松浦先輩の顔を見ても、逃げたりしない。

そう誓った。

でも、変な逃げ癖がついてしまったのか、月曜日の午前中も逃げ回っている僕がいる。

全部知っている陸は呆れてしまって、昼休みに思いっきり僕の脳天に拳骨を落してくれた。


だって、名波先輩には気持ちを言えたものの、松浦先輩にも同じように言えるかというと…、言えるわけがない。

初めて誰かを好きになって、初めて恋心というものを知って。それだけでもいっぱいいっぱいなのに、告白するとか、何事もないようにポーカーフェイスで顔を合わせるとか、そんな高等なスキルは今の僕にはない。





放課後。


もう名波先輩は来ないかと思っていたのに、今まで通り教室に来たものだから、ちょっとだけ驚いた。

でも、先輩の後ろに松浦先輩の姿を見つけてしまえば、ちょっとどころか、凍りつくくらいに驚いて、やっぱり僕は逃げ出した。


教室のドアから走り出し、全力で廊下を駆け抜ける。

擦れ違う人達が、みんなビックリしたみたいに見ていたけど、そんな事に気を取られている余裕はなかった。

だって…、


だって松浦先輩が追いかけてきたんだもん!


このまま校舎内にいたら、ものの数分で掴まってしまうだろう。

だから僕は、一階の渡り廊下から飛び出して校舎裏へ向かった。

運が良ければ、僕の姿を見失ってくれるかもしれない。


…なんて考えはすぐに消え失せたけれど…。


「ノノちゃん!」

「……ッ」


校舎裏に辿り着いた時点で追いつかれてしまった。スライドの長さを考えれば当たり前だよね。

肩を掴まれて足を止められた時には、運動嫌いの僕はもう瀕死状態だった。

静かな裏庭に、ゼーゼーと荒い呼吸音が響く。

同じ距離だけ走ったのに、先輩の方はあまり呼吸が乱れていない。

何度も深く空気を吸い込んで、ようやく落ち着いた時、それまで掴まれていた手首を引っ張られ、背後にあった校舎の壁に体ごと押し付けられた。


「………」

「………」


普段の緩い先輩からは想像もつかない程に鋭く真剣な眼差しが、真正面から僕を射抜く。

無意識に体が震えた。


「…なんで、逃げるの?」

「………」

「先週から、俺の顔を見ると逃げるよね?…好きだって言ったの、迷惑だった?」

「…違っ」


僕の行動をそういう意味で捉えられていると思わなくて、焦った。

でも、焦り過ぎて上手く言葉にならない。

とにかく、それは違うと言う事だけは伝えたくて、何度も首を横に振った。


「そういうんじゃないんです!そうじゃなくてッ」

「じゃあ何?…なんで逃げるの?」

「…それは…」


居たたまれなくなって口を噤んだ。

そして、また逃げたくなって、先輩に掴まれている腕を引き抜こうと身動いだ。

けれど、僕を見つめる先輩の表情が、眼差しが…、

好きなんだ、と。

好きで好きでたまらないのだ、と。

鈍い僕でさえわかるくらいに、愛情と苦しさを伝えてきたから…。

…力を抜いた。


逃げようとしなくなった僕に気付いたんだろう、先輩はそれまでの真剣な表情に困惑の色を乗せた。


「…ノノちゃん?」


少しだけ不安そうな声。


僕は、名波先輩や陸の事を思い出していた。

逃げちゃダメだ。

本当の気持ちを伝えよう。

ここで頑張れなかったら、男じゃない!








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