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「…何してるのか聞いたんだけど?」
明らかに怒っている松浦先輩の様子に、二人は顔を引き攣らせて慌てはじめた。
「違うんです!コイツが生意気な事を言ったんっすよ!」
「そ、そうなんです!俺らがここで話してたら、突然来て睨んでくるから!」
…ビックリした…。
よくこんなに自分に都合がいいように話を作れるよね。
さっきまでの不安と恐怖はまだ残っているものの、それより何より、二人のあからさまな態度と言動に、本当にビックリした。
こんな人達には、今まで出会った事がない。
僕が茫然と見ていると、
「…ふざけるな」
隣から、低い唸り声のようなものが聞こえた。
僕でさえビクっとしたのだから、言われた二人はそれどころじゃないだろう。
“自分達の言葉が嘘だとバレてしまった”
青褪めた彼らの顔には、言葉以上に雄弁なそんな表情が浮かんでいた。
口を開け、目を見開いたまま、何も言えずに固まっている。
凍りついた空気の中、何故かふとさっきの松浦先輩の言葉が脳裏に浮かんできた。
『俺の大切な子に何してるのかな~』
それに深い意味は無いとわかっているのに、思い出してしまえば顔がジワリジワリと熱くなる。
そんなふうに、僕がひとり場違いな事で動揺していると、
「す、すみませんでした!!!!!」
恐怖の呪縛から解かれたのか、いきなり2人が頭を下げた。
衝動的にやってしまっただの、もう二度としないだの、とにかく必死に弁解を言い募る2人に、松浦先輩も呆れてしまったらしい。凍るような空気を多少和らげて、苛立たしげに溜息を吐いた、
「…今回は見逃すけど、次にこんな真似をしたら、…………殺すぞ」
その冷たい声に僕までびくっとしながら2人を見ると、僕と松浦先輩に向かって彼らはもう一度直角に頭を下げて、
「すみませんでした!!もう二度とこんな事はしません!!」
見事な二重奏で、そう叫んだ。
松浦先輩が目線だけで「どうする?」と聞いてきたから、一も二もなくコクコクと頷いた。もうじゅうぶんだ。
僕の気持がわかったらしい先輩は、「もう行け」と冷たい視線を二人に向けた。途端に彼らは脱兎の如く車に向かい、事故っちゃうんじゃないかな…と心配になるくらいに無茶な走りでコンビニの駐車場を出て行ってしまった。
静寂の戻った駐車場。
あっという間の出来事で、いまだに何がなんだか…頭がついてこない。
チラリと横を見上げると、その視線に気が付いた松浦先輩は険しい表情を緩め、いつもの緩い微笑みを向けてくれた。
「ゴメンね、ノノちゃん」
「…え?」
「俺達のせいだね~、あのお馬鹿さん達は」
はっきりと自己嫌悪を表している声色に、僕はブンブンと首を横に振った。
だって、これはあの人達が起こした行動であって、先輩達にはなんの関係もない。
逆に、助けてくれたんだから、僕がお礼を言うべきだ。
必死になってそう告げると、先輩は「参ったねぇ」と苦笑いを零した。
「ノノちゃーん、今から少しだけお兄さんとお散歩しない?」
「お散歩、ですか?…はい、行きます」
突然の散歩宣言に戸惑ったけれど、先輩ともう少し一緒にいたいと思った僕は、すぐに頷いた。