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そんな陸を見送って、廊下で先輩を待つ。
いざ真相を聞く段階になって、今度はドキドキと緊張している。本当に忙しない。少しは落ち着かなきゃ。
そう自分に言い聞かせている所へ、名波先輩が来た。
それも、何故か今日に限って松浦先輩と一緒に…。
まだ教室に残っているクラスメイトは、噂の二人の登場にざわめきだしたけれど、僕は二人の様子を見てホッとした。
確かに二人共顔に青あざが出来ている。でも、いつもと同じ様子だったから。
「葵ちゃん、今日はエンも一緒ね」
「たまには俺も仲間に入れて~」
僕が満面の笑みで頷いたのは言うまでもない。
その後、校舎から正門に向かい学校を出た。
チラチラと二人にバレないように様子を窺い見る。相変わらずのやり取りを見て、本当に安心した。
「…葵ちゃん、この傷が気になるみたいだね」
「………え…」
見ていたのはバレバレだったらしい。僕に隠密行動なんて出来るわけないか。
なんて言えばいいのかわからずに困っていると、先輩達は苦笑気味に笑いを零した。
「今日、なんでエンと二人で来たのか。それは、葵ちゃんが俺達の噂を聞いて心配していると思ったから」
「え?」
名波先輩の言葉に、目を見開いた。
「確かに殴り合いの喧嘩をしたけどねぇ、でもまぁ、それこそ男の熱き友情でしょ。ね、耀ちゃん」
そう言って、松浦先輩は名波先輩の肩に手を置いて楽しそうに笑っている。名波先輩も名波先輩で、「あぁ」とかなんとか、やっぱり楽しそうに頷いている。
僕は殴り合いの喧嘩なんてした事がない。
それも、仲が良いのに殴り合いだなんて…。
でも、そんな喧嘩をしてもこうやって仲直り出来るのは、本当にお互いを信頼していなければ出来ない事だ。
凄いと思う。
そして、そんな先輩達が殴り合いに発展するような喧嘩をする原因とは、いったいなんだったんだろう。
「耀ちゃーん、ノノちゃんが不思議そうに見てるけど」
「なんで喧嘩したのか疑問なんだよね?葵ちゃんは」
「え、あ、う…」
咄嗟に頷けなかった。
馬鹿みたいな僕の反応に、二人は声をあげて笑いだす。
ちょっと恥ずかしい。
熱くなった顔を隠そうと俯きながら歩いていると、笑いを押し殺した名波先輩は、
「それは秘密だよ」
からかい混じりにそう言った。
「恥ずかしくて葵ちゃんには教えられないの~」
松浦先輩まで冗談めかしてそう答える。
誰にだって言いたくない事はあるだろう。
だから、僕は
「先輩達が仲直りして良かったです」
いちばん言いたかった事だけを伝えた。
それを聞いた先輩達が嬉しそうに笑ったのを見て、僕の胸の奥がホワリと温かくなった。