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その日の放課後。

教室まで迎えに来てくれた名波先輩と一緒に、いつものように下校した。


ただ、今日はそこにいつもとは違う行動が付け足された。


「葵ちゃん。たまには寄り道してかない?」


そう言って名波先輩が向かったのは、下校途中にある自然公園。

きっと以前だったら、名波先輩と二人で公園だなんて、緊張し過ぎて絶対に無理だっただろう。

でも、今ではそんな事はない。

先輩と二人きりでも、居心地の悪さを味わうどころか、逆に居心地が良いとさえ感じている。

先輩という存在に慣れたんだと思う。


小川の流れる遊歩道に設置された、洋風デザインのベンチ。

そこに座って、今日クラスであった事や、先輩の家での話なんかを取りとめもなく話したり聞いたり…。

とにかく楽しかった。


…そう、突然先輩が、キスを仕掛けてくるまでは…。


「……ッ…?!」


肩を抱かれて引き寄せられたかと思った瞬間、唇に触れた柔らかな何か。

数秒で離れたそれが名波先輩の唇だったと、僕はキスをされたのだと、真っ白になる頭の片隅でそれだけは理解した。

目を見開く僕の視界に映る、名波先輩の端正な顔。

茫然と見つめていると、先輩は苦渋と後悔の表情を顔に浮かべて、


「…待つつもりだったけど、焦った。ゴメン」


と呟いた。


…焦ったって、何に?

どうして先輩は、突然こんな事を…。


人の心の機微に疎い僕が、先輩の複雑な心の内を読みとれるはずもない。

機械的に口が勝手に動き、


「…焦ったって、どういう…事ですか?」


と言葉を発した。

でも、先輩はもう一度「葵ちゃんの気持ちを無視して、悪かった」とキスした事を謝るだけで、理由は教えてくれなかった。












◆―◆―◆―◆―◆




「何も言わないつもりだったのかよ。それで俺が喜ぶとでも思ったのか?…ふざけるな!」

「俺だって悩んだに決まってるだろ!…最初はそうじゃなかったのに、いつの間にかお前と同じ気持ちになってたなんて…。でもお前が本気だって知ってるから!今更なに言ってんだよ俺は…って自分に言い聞かせて。…それのどこが悪い!?」

「それが馬鹿だっつってんだよ。今更も何もないだろ!そんな部分でお前に遠慮なんてしてほしくない。何もないように俺の手助けするなんて、ホント馬鹿だろお前は!」

「…………」

「……俺は…、お前に遠慮なんてされたくない…。いつだって対等でいたい。なんで我慢するんだ、馬鹿野郎が…」

「………ごめん」

「謝るくらいなら認めろよ。俺と正面切って勝負すればいいだろ」

「……………わかった。認める」

「よし」


口端から滲み出る血を拭った二人は、それまでは無かった笑みを浮かべて互いの手をガッチリと握り合った。







◆―◆―◆―◆―◆





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