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昼休み。
陸と一緒に中庭の芝生の上でお昼を食べていたら、名波先輩と松浦先輩が来たから驚いた。
先輩達が教室に遊びに行ったところ、僕達が中庭に行ったと誰かが教えてくれたらしい。
「いつもここで食べてるの?」
「今日はたまたまです。いつもは教室で食べてますよ」
僕の隣に座った名波先輩に答えながら、食べ終わったお弁当箱を片付ける。
目の前に座っている陸なんて、パンを5個も買っていたにも関わらず、とうの昔に食べ終えているのだから凄い。10分かかってないと思う。
その陸の隣に座っている松浦先輩は、何やらポチポチと携帯を操作していた。
平和な光景。
一緒にいるのが、あの名波先輩と松浦先輩というのが不思議だけど、妙にしっくりおさまっている。
10月に入ると、日中の日差しも和らいで、木陰にいるとちょうどいい。
陸と名波先輩が会話している間に、ボーっと空を見上げた。
平和っていいな~。
そんな事を思いながら、
でも、その平和はすぐに打ち破られた。
ギュ!
突然感じた圧迫感。そして覚えのある爽やかで落ち着いた香り。
どうやら僕は、隣にいた名波先輩に抱きしめられたらしい。
驚いたのは僕だけじゃないようで、一瞬の沈黙の後、陸が身を乗り出して名波先輩の腕を掴んだ。
「ちょっと先輩!俺の目の黒いうちは、葵に手は出させませんからね!」
そう叫んで、僕から名波先輩を離そうとしている。
助けてくれるのは嬉しいけど、そのセリフはどうかと思う。
陸は僕の父親ですか。
「此花、俺の邪魔をするなんて100年早い」
それに真顔で対応する先輩もどうかと思う。
陸に負けないように腕に力を込めるものだから、抱きしめられている僕はたまったものじゃない。
うぅ…と呻き声をあげながらバタバタと藻掻いているうちに、ふと気が付いた。
松浦先輩の声が聞こえない。
騒ぐの大好き!な松浦先輩が、こんなやりとりにノッて来ないはずはないのに。
陸が引っ張っている名波先輩の腕が緩んだ隙に、松浦先輩を見た。
そして、また僕の心臓がギュッと縮んだ。
…どうして、そんな顔を…。
ふざけている僕達から視線を外していた松浦先輩は、どこか複雑な…眉を寄せた苦しげな表情を浮かべていた。
その様子に、僕まで眉を顰めてしまう。
先輩、と呼びかけようと口を開いた時、視線を感じたのか、松浦先輩がこっちを見た。
そして、僕が見ている事に気が付いて目を見開く。
一瞬だけ横切った「しまった」というような表情。
でも先輩はすぐにそれを消し去り、いつもの飄々とした緩い笑みを浮かべて身を乗り出してきた。
「こーら、此花ちゃん。耀平とノノちゃんの邪魔してんじゃないの」
僕から名波先輩を引き剥がそうとしている陸の腕を、松浦先輩が引っ張る。
「うわっ!ちょっと松浦先輩!葵の貞操の危機を守る俺の邪魔をしないで下さい!」
「恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死んじゃうんだよ~」
「ぇえ?!」
そんな二人のやりとりに、何故か妙に胸が締め付けられた。
…そして、僕は気が付かなかった…。
二人のやりとりを見て微妙な気分になっている僕の事を、名波先輩が見ていたなんて…。