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そして、少し間をおいてから口を開いた。


「…僕、名波先輩の事は好きなんです。でも、今思ってるそれは恋愛感情の好きとかじゃなくて…。…名波先輩は、すぐに答えを出さなくていいって言ってくれたけど、本当にその言葉に甘えてずるずると答えを引き延ばしてもいいのかな…って…。好きとか、付き合って欲しいとか、今まで誰かに言われた事が無いし、自分でも思った事ないから、どうするのが一番良くて、どうするのが普通なのかが全くわからないんです」


情けない事に、だんだんと声が小さくなってしまった。おまけに最後は俯きながらの言葉。

松浦先輩は、今のを聞いてどう思ったんだろう。

こんな事をグズグズ考えている僕は、やっぱりおかしいのかな。

溜息を吐いて顔を上げ、隣に座る先輩を見る。


………?


先輩が、今まで見た事のないような顔をしていた。

無表情、というより、固まっていると言った方が近いかもしれない。

どうしたんだろう。


「先輩?」


そう呼び掛けたら、ハッと我に返ったようにこっちを見てニコリと笑った。


「ごめんね~。真剣に考え過ぎて、魂があっちの世界に飛んじゃった」


ヘラリと笑うその姿はいつもの先輩で…、僕の気にし過ぎ、なのかな。


「そうだねぇ、耀ちゃんが答えを急かさないなら待たせておけばいいと思うよ?ノノちゃんに真剣に惚れてるからこそ、焦って答えを出してほしくないんじゃないかな?と俺は思います」

「…なるほど…」


目から鱗だ。

早く答えを出せば良い…というものじゃないんだ。


更に松浦先輩は、恋人になるという事は心と心の繋がりでもある。だからこそ、時間をかけてでも、自分が納得できる答えが見つかるまでは悩んでも迷ってもいいんだよ、と言ってくれた。

耀平はそれを待てる男だ、と。


…なんだか、二人とも凄く格好良い。


信頼とはこういう事か…って、先輩達の関係がとても眩しく思える

まだ迷っていてもいいんだと安心して、こんな先輩達と知り合えた事が嬉しくて、いつの間にかヘラヘラと笑ってしまった僕。

そんな時、隣から小さな溜息が聞えた気がして振り向いた。


「……先輩?」


松浦先輩の顔が、またさっきの無表情っぽいものになっている。

やっぱり気のせいじゃない。なんだか、変だ。


僕が呼ぶと、「ん?なになに?」なんて表情を緩めたものの、それはいつもの笑顔とは違い、どこか困惑したものが混じっている。

それを言ってもいいのか、理由を聞いていいのか…。じーっと先輩の顔を凝視していたら、頭をぐしゃりと撫でられた。


「そういう目で見ないのー」


困ったような笑みと、僕を見る眼差しの中にある優しさ。

そんな顔で見つめられて、何故か心臓がギュっとなった。


…なに?


一瞬の息苦しさはすぐに消え失せたものの、その感覚が妙な跡を残した気がして、思わず視線を逸らしてしまう。


「ノノちゃん?」


今度は僕が訝しまれてしまった。

あんなにあからさまに視線を逸らしたら当たり前。

どうしていいのかわからなくて、慌てて立ちあがった。


「あ、あの。相談にのってもらって、ありがとうございました!」


先輩には悪いけれど、なんだかこの場から逃げ出してしまいたい。

お礼を言って頭を下げたら、先輩はそんな僕を下から見上げ、そして一瞬だけ目を伏せた。


「…そんなお礼を言われるような事じゃないって。大した事言ってないしー」


そう言った時には、もう先輩の顔にはいつもの緩い微笑みが戻っていた。

なんだか今日は、お互いにちょっと変だ。


「俺はここで一服してくから、ノノちゃん帰るなら先に帰っていいよ~。あ、でも俺と離れたくないって言うなら、」

「いいいいいいえ!大丈夫です!帰りますからっ」


ニヤニヤ笑いながら言う先輩の顔から、冗談だとはわかっていても焦ってしまう。

案の定、慌てた僕を見て先輩は爆笑した。


深~い溜息を吐いて僕がその場を去ったのは言うまでもない。








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