21
そして放課後。
いつものように部活へ行く陸を見送ってから、屋上へ向かう。
今日一日で噂の的になった事を考えれば、明日からは登校中に名波先輩と会わないようにした方がいいかも。
そんな事を考えながら、屋上へ通じる扉を開く。
途端に、外から校内へと爽やかな風が吹き抜けた。
放課後の屋上は、放課後の図書室と同じくらい人がいない。
だからこの場所を指定したけど、それはどうやら正しかったらしい。
今日も今日とて、誰ひとり姿が見えない。
安心しながら扉を閉めて、給水棟の影へ回る。
「はろー、ノノちゃん」
やっぱりいた。
胡坐をかいて座り込みながら、僕を見上げて笑顔で手を振る松浦先輩。
ピンク色の髪が陽に透けて、キラキラと綺麗な光陰を浮かばせている。
「遅くなってすみません」
「違う違う。俺は1時間前からここにいるだけだから、ノノちゃんが遅かった訳じゃないよ~」
「…一時間前ってまだ授業中のはず…」
笑顔が引き攣った僕を誰が責めよう。
固まっていると、先輩は自分の隣をポンポンと手で叩いた。そこに座れという事だろう。
とりあえず、先輩の発言には目をつぶる事にして、そこに座る。
三角座りをしてしまうのは、なんとなく緊張しているから。
それが可笑しかったのか、隣で松浦先輩がクスクス笑った。
「で?耀平がどうしたの?」
「なッ?!」
驚きすぎて、物凄い勢いで振り向いてしまった。
なんで名波先輩の事だってわかったんだろう。
僕が目を剥いて凝視すると、今度こそ先輩は声を出して笑いだした。
「そんなに驚かなーい。だってノノちゃんがわざわざ俺に相談って、耀平の事しかないでしょ」
「………」
鋭いというか、確かにというか…。
それでも、尊敬の眼差しを向けてしまうのは止められない。
言われてみれば「そうか」と思うけど、実際にそうやって気が付くと言う事は、やっぱり先輩の洞察力があるからだ。
でも、
「それ以外にもー、苑先輩のスリーサイズは?とか、苑先輩の初チューはいつ?とか、そういう質問も受け付けてるよ~ん」
なんて言っている姿を見てしまうと、尊敬は宇宙の彼方へ吹っ飛んでしまい脱力する。
そもそも、僕は先輩を名前で呼んだ事はない。
ふにゃりと力の抜けた体を、背後の壁に寄りかからせた。
もう三角座りとかする気分じゃない。両足を投げ出して座ってしまえ。
緊張も遠慮もなく、そのとおりに座りなおす。