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休みの明けた、月曜日の朝。

いつものように学校へ向かって歩く僕の後ろの方から、「葵ちゃん」と声がかかった。

足を止めて振り向くと、相変わらずセンス良く制服を着崩している名波先輩がいた。


「おはようございます」

「おはよう」


隣に並んだ先輩と歩き出す。

そういえば、こうやって一緒に登校するのは初めてだ。

…って当たり前だよね。まともに言葉を交わしたのは、図書室で出会った先週の月曜日が初めてなんだから。


金曜日の夜の事もあってか、前に比べて先輩達に対する壁が消えた気がする。

こうやって一緒に居ても、あまり違和感を感じない。


「先輩と朝一緒になるの、初めてですよね」

「そうでもないよ」

「え?」


思わぬ返事に驚いて止まりそうになった。そんな僕の肩に先輩の腕がまわされ、歩くよう促される。


「葵ちゃんは気付いてなかったと思うけど、俺も時々この時間に来る事があるんだよ。そんな時は、朝から葵ちゃんの姿を見られて嬉しかった」

「……そ…ですか」


恥ーずーかーしーいー。

顔が熱くなる。こういうセリフを平然と言えるのは、モテる先輩ならではだと思う。

僕には絶対に言えない。たぶん、陸も言えないと思う。


というより、本当に名波先輩は前から僕の事を知ってたんだ、と改めてわかった。

でも、僕自身はどうしたらいいのかわからない。

先輩は、僕に付き合って欲しいと言ってくれた。

名波先輩は格好良いし、それ以上に人として尊敬できるし慕ってもいる。

ただ、先輩が言ってくれるような恋愛感情をもてるかというと…。今の僕には、たぶんそれが無い。

まだ知り合って一週間。もっと仲良くなって一緒の時間を過ごすようになれば、好きになるのだろうか。


とりあえず、同性という事は横に置いておく。それを言ったら始まらないから。

人として好きになれるなら、性別なんて関係ないと僕は思ってるし。


…だから…、だから、もう少し悩んでもいいかな。


肩を抱かれているせいで間近にある名波先輩の顔を見上げてそんな事を考えていると、僕の視線に気が付いた先輩がこっちを見た。

目が合った事に動揺して、逸らそうとしたところで気が付く。

いつもは優しく笑っている名波先輩なのに、今その顔に浮かべているのは柔らかいけど真剣な表情だと。


「…先輩?」


恐る恐る呼ぶと、一瞬だけ目を閉じた先輩は、


「答えはゆっくりでいいから」


そう言った。

ビックリして、今度こそ立ち止まる。

どうして僕が悩んでいた事がわかったんだろう。

思わず先輩の顔を凝視すると、またもそんな僕の胸の内が読み取れたのか、ホンの少しの苦笑いを向けられてしまった。


「そんな困った顔で見つめられたら、いくらなんでもわかるよ」

「…すみません」


先輩といると、いつも僕は謝ってばかりな気がする。ちょっと情けない。


もうすぐ正門に辿り着く場所で立ち止まっている僕達に、通り過ぎる他の生徒達が興味深々の眼差しを注いでいく。

名波先輩だからこそ、余計に注目度は高い。

それに気が付いて、また歩き出した。


「俺も急に言ったから、葵ちゃんだって困っただろ?もっと仲良くなって、答えはそれからでいいよ」

「…はい」


本当に答えなんて出せるのかな。

そんな不安を抱えたまま、とりあえず頷いた。








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