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「さぁて、そっちに移動しようか」
松浦先輩に腕を掴まれて、避難帯の下の方に移動する。
「時々失敗して突っ込んでくる車がいるんだよねぇ。そういう場合、大抵はあっちの上の方に突っ込んでくから、車外に出て見るならこっちの下の方にいる事」
「はい」
見るだけでも命の危険があるって事なんだ。
…なんでそんな危険な事…。
僕には理解できないまま、背後にあるガードレールに座る。
それにしても、さっきからずっと色んな人の視線を感じる。
みんなが松浦先輩の事を見てる。
隣に立つ先輩をチラリと見たら、それに気が付いたのか「ん?」と笑いかけてくれた。
訳のわかっていない僕がここにいても、いいのかな。
そんな事を思った時。
物凄い音が道の下の方から聞えてきた。
「来たよ、ノノちゃん」
キキーッというタイヤの軋む音。エンジンの唸る音。普段では聞けないような重低音の排気音。
あまりの音に茫然と道の向こうを見ていた僕の目に、真っ白のヘッドライトが見えてきた。
「お、最初は総君か」
松浦先輩の声が聞えたかと思えば、白い車が下のカーブを曲がって姿を現した。
僕が見えている目の前で、恐ろしい速さでカーブを曲がって上に過ぎ去っていく。
そして次に現れたのが、黒の34。名波先輩の車だ。
途端に、見ている人達からざわめきが起きた。
目の前のカーブを過ぎる時、名波先輩の車はタイヤを滑らせて斜め向きになり、走るというよりは滑るようにして過ぎ去っていった。
…なに…あの走り方…。
その後にもぞくぞくと車が走り過ぎていく。
目を見開く僕の鼻先に、ゴムの焼けつくような匂いが漂ってきた。
「ノノちゃ~ん。起きてる?」
声と共に、僕の目の前でヒラヒラと手が揺れる。
ハッと我に返って振り向くと、松浦先輩が笑いを噛みころすような顔をして僕を見ていた。
「ビックリしちゃった?」
「…はい…、こんなの初めて見るから」
「そうだよねぇ、普通はこんなの生で見ないよね。おまけにココ公道だし」
そう、公道なんだよ、普通の。
山奥の峠だから民家は無いものの、昼間は一般車両が走っている普通の道。
それがまさか、夜になるとこんな事になるなんて…。
僕が茫然としている間にも、目の前のカーブを色んな車が物凄い速度で走り過ぎていく。
その中に赤の34がいた。加瀬さんだろう。
名波先輩とは違って、総さんのような走り方をしていた。
「成美と総君は同じ走り方してたでしょ?タイヤを滑らせないやつ」
「はい」
「あれがグリップ走行ね。俺の車はグリ仕様だから、それを運転する成美も必然的にグリになるの」
「…はい」
「んで、耀平の走り方。コーナー入る時にタイヤのグリップを使わないで、わざと滑らせて曲がっていくやつ。あれがドリフト走行。ちなみに、耀平の車はドリ仕様になってます。OK?」
「…お…OK…です」
OKなのかOKじゃないのかわからないけど、とりあえず頷いた。