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「ちょっと、なに二人で笑ってんのさ」
「エンの事笑ってる」
「ぇえ?それ酷いよねぇ?」
いじける松浦先輩の頭を小突いた名波先輩は、そのままの軽い口調で
「先に走ってくるから、その間葵ちゃんの事頼んだ」
なんて言い出したものだから、さすがに焦った。迷惑はかけたくない。
「あの!僕は一人でも大丈夫なんで、二人とも行ってきて下さい!」
言いながらドアを開けた。
僕がいつまでも車に乗っていたら走りに行けないし。とりあえず降りなきゃ。
…でも…、
「……あの…、先輩達がいると、ドア、開かないんですけど…」
そう、ドアをガチャっと開けたまではよかったけれど、ドアの目の前に二人が立っているものだから、それ以上押し開ける事が出来ないんだ。
二人の体を無理矢理ドアで押しのけるなんて、僕には出来ない。
そんな僕の顔はそうとう情けないものだったんだろう。二人が笑いだした。
「アハハハハ!ノノ姫可愛いっ!」
「ッククク…、葵ちゃん」
なんとなく揶揄われているみたいで微妙な気分になったけれど、笑いながらも二人がどいてくれて、なおかつドアも開けてくれたから良しとしよう。
外に出ると、峠だからなのか空気が幾分ひんやりと感じる。
それが心地よくて深呼吸すると、名波先輩が頭を撫でてきた。
見上げた先には物凄く優しい表情があって、そんな表情をまっすぐ向けられる事が恥ずかしくて俯いた。
「とにかく、葵ちゃんはエンと一緒にいて。それなりにヤバイ奴も中にはいるから」
「でも…」
「それに、これが最初で最後ってわけじゃない。俺達はいつも走ってるから、今夜の回数が10本から5本になったとしてもそう変わりはない」
「そうそう。俺が姫を最高の場所にご案内しますよ~。そこで耀ちゃんの華麗な走りを見てもらわないとね」
二人の優しさがジンワリと心に染み込む。
「ありがとうございます」
満面の笑みで二人にお礼を言うと、物凄い勢いで左右から抱きしめられた。…ちょっと苦しい…。
その内に僕の窮状に気が付いたのか、総さんと加瀬さんが二人を引き剥がしに来てくれた。
もう少し遅かったら、酸欠になってたかも。
「じゃ、行ってくる」
名波先輩が、僕の肩を抱いて顔を覗き込みながら言ったから、その端正な顔のアップに照れつつ「いってらっしゃい」と返した。
僕と松浦先輩が車から離れ、黒の34GTRには名波先輩が、赤の34GTRには加瀬さんが、そして総さんは、誰の車かはわからないけど白のワンエイティーに乗り込んだ。
他の人達もそれぞれ自分の車に向かって散っていく。
ただ、その内の一人、僕達と同じくらいの年齢に見える男の子が、こっちを振り返ったのが気にかかった。
なんとなく、睨まれたような気がする。
…気のせい、だよね?
一瞬だったし、暗かったからそう見えてしまったんだ。
自分に言い聞かせながら、意識を車に持っていった。
「松浦先輩。あの白のワンエイティーは、友達の車なんですか?」
隣に立つ先輩を見上げて問えば、違う違うと楽しそうに否定された。