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名波先輩もそうだけど、学校外…それも夜の中で見る先輩達は格別に格好良く感じる。
…こんな事を思う乙女心理みたいな自分がちょっとだけイヤだ。
僕の前の前まで来た松浦先輩は、窓ガラスをコンコンっとノックしてきた。
車のエンジンはかかったままだから、窓を開けてみる。
「ノノ姫こんばんは~」
「こんばんは、松浦先輩」
だいぶ緊張も薄れてきて、にこりと笑える余裕が出てきた。
途端に、何故か松浦先輩が片手で額を押さえてしゃがみ込む。
「ま…松浦先輩?」
窓から顔を出して下を見ると、それに気付いた松浦先輩は何事もなかったように立ちあがった。そして、困ったような笑顔を浮かべたまま僕の頭を撫でてくる。
僕達がそんな事をしていると、何人かの走り屋さん達が、車の前いる名波先輩達の所に近づいてきた。
「お疲れ様っす」
1人の男の子が挨拶し、他の数名の人はペコリと頭を下げている。
友達かな?
じーっと見ていたら、僕の前に松浦先輩が立ちふさがったせいで何も見えなくなってしまった。話し声しか聞えない。
「耀平さん達が走るの待ってたんすよ。もう行くんすよね?」
「あぁ、そうだな」
「総さんと成美さんはどうしますか?なんなら俺達の車使います?」
「どうするかなぁ…」
総さんが何かを考えているみたいだ。
「あ!苑さん!なんでそんなとこにいるんすか!」
さっきから喋っている人が、僕の前にいる松浦先輩に気が付いたみたいで、嬉しそうな声を上げた。
松浦先輩は片手を上げるだけで何も言わない。
「苑さんも走るんすよね?早く行きましょうよ!」
凄いテンションの高さだ。姿が見えなくても、ワクワクしている事が伝わってくる。
それにしても、みんなが走りに行ったら僕はどこにいればいいのかな?
この駐車場で待ってればいいの?
走り屋さんなんて初めて見るから、先輩達がどんな運転をするのか見てみたいけど…。
戸惑いながら周囲を見渡す。
「耀ちゃん達は走りに行ってていいよ~。俺はここに残るから」
突然聞こえた松浦先輩の言葉。
それなら松浦先輩と一緒にいればいいんだ…と思った次の瞬間、気が付いた。
もしかして、松浦先輩が残るのは僕がいるから?…と。
案の定、さっきの人が不満そうな声を上げた。
「え?どうしたんすか?苑さんが走らないなんて、もしかして車の調子が悪いとか?」
やっぱりそうなんだ。いつもだったら、松浦先輩は残る事なんてしないで一緒に走ってるんだ。
僕がいるからって、先輩の楽しみを邪魔したらダメだ。
目の前に立つ、先輩のシャツの裾をツンツンと引っ張った。
「先輩」
「ん?…って…だから、ノノ姫…」
「え?」
僕、何かマズイ事した?
振り返った先輩が突然項垂れた。溜息まで吐いてる。
意味がわからずに先輩の様子をマジマジと見ていると、近づいてくる足音が聞こえた。
松浦先輩の横に名波先輩が立つ。
何か言おうと口を開いた名波先輩だけど、松浦先輩の様子に気が付いて怪訝そうな顔をした。
「エン、どうした?」
「いや、なんでもなーい」
今度は僕に疑問の視線をぶつけてくる名波先輩。
でもやっぱりわからないから、見つめ合ったまま二人でコテっと首を傾げた。その傾げるタイミングが全く同じで、なんだか可笑しくなって僕が噴き出すと、名波先輩も楽しそうに笑う。
なんか、初めて名波先輩と距離が近付いた気がする。